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「子どもたちから見た農薬の必要性−”オフィス街で農業のこと勉強しました”」
 
静岡の小学生 修学旅行で日本農薬を訪問

「総合的学習の時間」で農薬をテーマに

 出勤ラッシュが一段落したウィークデーの朝、東京のビジネス街に元気な子どもたちがやってきた。子どもたちは、静岡県から修学旅行で上京した小学6年生。この日、総合学習の時間でテーマに選んだ農薬について話を聞くため、日本橋の日本農薬(株)本社を訪れた。「なぜ、農薬を使うの?」、「どのくらい生産していますか? 安全性は?」などなど、小学生たちの質問に同社担当者はスライドやビデオで説明、子どもたちは熱心にノートに書き込んでいた。勉強会のあと、子どもからは「地球資源が危ないことも分かりました」と感想の声が出るなど、農薬への理解を深めただけでなく、食べ物や資源をこれからどう考えていけばいいのか、幅広く農業生産について考えるきっかけにもなったようだ。大都会・東京のオフィス街で学んだ食と農。「勉強会には総合的学習を進めるためのヒントがいっぱいありました。」と引率した先生たちも語っていた。

身近な町の農業を調べて 農薬のことに出会う

 11月22日に日本農薬本社を訪問したのは、静岡県小笠町立小笠北小学校の6年生19人。勉強会のはじめ「僕たちは、小笠北小の環境調査隊です。今日は、農薬の作り方、種類などを教えてください」とグループを代表して黒田淳一君があいさつ。
 今、小学校では「総合的学習の時間」がカリキュラムに本格的に導入され出したが、同校では今年の6年生のテーマを「私の自慢は小笠町」とすることにした。歴史、自然、文化など興味を持った分野を中心に自分の暮らす町について調べ、さらに仲間と疑問点を議論しながら理解を深めていくという構想を立て、2学期から週2、3時間の授業時間をこの総合学習にあててきている。

 小笠町は、メロン、お茶、米の生産が盛んな地域。サラリーマン家庭がほとんどだが、祖父母が米や野菜、花づくりをしているという子どもも少なくない。また、5年生のときにはバケツ稲づくりにも取り組んだが「一生懸命育てたのに、2か月で枯れてしまいました」(子どもたちのレポートから)という苦い経験もした。こうした体験から農業のことを調べてみようというグループもできたという。
 この農業グループが勉強を始めてぶつかったのが農薬のことだった。
 「農家の人たちはなぜ農薬を使っているのか。体に害はないのかということが勉強しているうちに問題になってきました」。「私は農薬はあまり使わないほうがいいと思います。でも、使わないとどうなるのですか。『薬』と書くのであぶないような気がするけど本当はどうなんですか」。「人にはよくないといいますが、なんで作っているんですか。僕の家でも農業をやっているので聞いてみたいです」(引用は同前)−−。こんな疑問が湧いてきた。

 そこで、子どもたちは、この10月には地元のJA遠州夢咲を訪ね担当者に話を聞いた。
 JA見学後のレポートには、「農薬を使う理由は作物が病気になったり虫がついたりして、農作物がとれなくなるから」、「農薬は検査で合格したものだけが売られている。基準を守って使わないと害がある」ことなどが分かったと記されている。

大内脩吉社長

 子どもたちは、こうした準備をしてこの日の会社見学を迎えた。
 大内脩吉社長は「この会社は日本の農薬会社のなかではいちばん歴史があり今年で72年。みなさんのおじいちゃん、おばあちゃんが生まれたころにできたことになります。
 人間が病気やけがをしたときに薬を使うように、野菜や果物が病気になったときに使うのが農薬です。今日いかに農薬が必要なものか、どれだけ農薬の安全についての配慮がなされているかを勉強して理解して下さい」と子どもたちに語りかけた。

内田又左衛門部長

安全とは何か。よく考えてほしい−−。

 勉強会の講師を務めたのは、農薬開発に長く携わってきた人事部の内田又左衛門部長。
 会社概要を説明したあと、内田部長は農薬の役割について、「もし農薬がなかったら作物に病気がはびこり、世界全体で42%も農産物が失われしまうといわれています」など、まず安定して農産物を収穫するための役割があることを解説。さらにもし農薬を使用しなかったら、日本でも米や大豆では30%も収穫量が減り「リンゴやモモは100%近く収穫できなくなってしまいます」と話した。
 そのほか、田の除草などの農作業の手間をはぶくことにも役立っているほか、人間にさまざまな病気をもたらす害虫予防の役目も果たしていることも紹介した。

 また、農薬の安全性については「正しく使えば安全ということ」と話し、喩え話として自動車の例を挙げた。 「自動車もルールを守れば安全な乗り物です。しかし、ルールを守らない運転をすれば安全ではなくなります。農薬についても同じことです」。
 もうひとつ内田部長が強調したのが、環境に悪影響があるからと、消毒薬使用を中止したところ、ある国ではマラリアを媒介する蚊が次第に増加し、結局、病気が蔓延してしまった例があること。
 「環境を守ることが大切なのか、人の命を守ることが大切なのか。貧しくて新しい農薬を使えない地域ではこのようなことが問題になることもあります。みなさんも一面だけの見方をしないことが大事ではないでしょうか」と語った。

環境に優しい農業とは何だろうか。

 農薬の開発は、その効果の確認とともに、動植物に対する安全性が厳しく確認され、土壌中の残留量も散布後一年以内に半分以下になるよう代謝・分解能が求められる。こうした開発基準があるため、新剤の発売は毎年10剤前後であること。また、残留農薬基準についても、19ものハードルを超えなければならないほど、徹底的に安全性を確保して決められていること−−。勉強会では、このような農薬についてのかなり専門的な用語を使って解説されたがうなづいて聞く子どもも多かった。また、最新の農薬開発についても紹介され、「昔は、効果重視でしたが、最近は、環境調和型になってきました。かつてとくらべて使用量がごく少なくても農作物を病気から守る効果がある農薬が開発されています。また、冷害を予防するなど植物を元気にさせる薬もあるのです」などと解説した内田部長は、「逆にみなさんの考えを聞きたい」と勉強会の後半には、こんなテーマを子どもたちに問いかけた。

 地球人口が急激に増えるなか、とくに畜産物の消費量が増えて大量の農産物が必要になっているが、  「一方で環境に優しい農業も求められています。しかし、それはどういう農業でしょうか。あらゆる最新の技術を使って少ない面積で十分な収穫量を得るのか、それともやはり有機農法がいいのか。
 有機農業では収穫量が低いために必要な農産物を得るには広い農地を必要とします。そうなると山など環境を壊すことにもなりませんか」。こう問題提起をして、持続可能な農業について考えてほしいと語りかけた。

総合的なものの見方を学ぶ

溝口政年校長 田中克美先生

 勉強会を終えてあいさつした木野嘉彦君は「今のままでは地球資源が危ないことも分かりました。自分も肉ばっかり食べていないで野菜もご飯もしっかり食べようと思いました」と感想を話した。質疑応答は時間不足できなかったが、それぞれがさらに質問があれば手紙を送り内田部長などが答える約束をした。

 担当の田中克美先生は、「最初は農薬は安全かどうかという議論をしてきましたが、農業や食料問題全般を見据えた広い視野からの話でとても勉強になったと思います」と語り、溝口政年校長も「総合的なものの見方を養うという点からすると、環境に優しい農業とは何かといった問いかけは、教室でもこれから話合えるテーマです。総合的な学習の時間を進めるヒントがたくさんありました」と語っていた。

 小笠北小ではホームページを開設(http://www.ogasa-kita.jp/)しているが、今回の訪問を含め総合学習についても報告をまとめて掲載する予定にしている。



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