JACOM ---農業協同組合新聞/トップページへジャンプします

特集:安心・安全で環境に優しい畜産をめざして
    ――JA全農畜産事業の挑戦

クローズアップ・IPハンドリング
徹底した分別生産流通管理で
生産者・消費者ニーズに応える飼料を供給

――畜産生産部

 食の安心・安全への関心が高まるなか、畜産では、「牛や豚、鶏にどのような餌を食べさせているのか。その原料は安全なのか」という消費者が増えている。飼料原料の生産から貯蔵・輸送、配合飼料の製造・供給までを一貫して行っているJA全農は、こうした消費者ニーズに応えて、遺伝子組み換え穀物を使わない、徹底した分別管理による配合飼料の供給システム「くみあい配合飼料IPハンドリング」を確立している。そのシステムの内容をクローズアップし紹介する。

◆91年から始めている分別生産流通管理

ハイクオリティーコーン
ハイクオリティーコーン

 IPハンドリング(Identity Preserved Handling)とは、トウモロコシなどの飼料穀物の栽培・収穫・貯蔵・輸送から配合飼料の製造・供給までの全過程を徹底した分別管理するもので、日本語では「分別生産流通管理」といわれている。このシステムでは、穀物を農場から飼料製造工場までの各段階で混入が起こらないように管理し、そのことが各段階ごとに書類で証明されている(図参照)。
 このシステムで分別生産流通管理されているのは、PHF(ポストハーベストフリー)トウモロコシ、NON-GMO(非遺伝子組み換え)トウモロコシ、HQC(ハイクオリティーコーン)とNON-GMO大豆粕だ。
 JA全農は、生産者・消費者のニーズの応えて、1991年から収穫後に保管のための農薬を使わないPHFトウモロコシの取り扱いを始め、残留農薬検査を行うとともに、徹底した分別管理プログラムを実施した。これが飼料穀物の分別流通管理の先駆けとなった。
 その後、「スターリンク問題」などから食品の安全性に対する意識が高まるなか、NON―GMO原料への要望に応えて、98年からNON―GMO種子を使った新しいプログラムを実施する。さらに米国における遺伝子組み換え作物(GMO)の急増による混入の可能性が高まったため、これに対処するために穀物生産農家を組織するとともに、トウモロコシのGMO混入比率5%以下という定量基準を設定した。

IPハンドリングプログラム
IPハンドリングプログラム

◆一般トウモロコシ畑から15m離して作付

 さらにNON―GMOの純度をさらに高め、米国の生産者との提携関係をよりいっそう強化するために、より高品質なHQCの契約生産プログラムを開始している。このプログラムでは、GMOとの混入を避け、NON―GMO性のさらなる徹底をはかるために、契約農家は一般トウモロコシ畑と15m以上離して作付けするなど、種子の選定から作付け・収穫・保管・集荷にいたるまで分別管理を徹底している。
 大豆粕については、JA全農の米国での飼料穀物集荷・輸送拠点であるコンソリデイテッド・グレイン・アンド・バージ(CGB)社の搾油部門・マウントバーノン工場(インディアナ州)で、NON―GMO大豆を原料にした分別製造を行い、全農グレイン、全農サイロなどを通じて、分別流通管理されて、くみあい飼料工場へ搬入されている。また、国内でも一部の製油メーカーで分別製造されたNON―GMO大豆粕を購入し、くみあい飼料工場に供給している。

◆各段階で分別管理と各種検査を徹底

5万トンクラスのパナマックス型穀物輸送船
5万トンクラスのパナマックス型
穀物輸送船

 それでは、IPハンドリングの流れを生産段階から順にみてみよう。
 生産段階では、CGBが組織する約2000戸の穀物生産者(プレミアム・グレイン・グロアーズ)などが、種子選定から収穫後の保管・デリバリーまで、マニュアルにもとづいてIPハンドリングを行い証明書を発行している。CGBのカントリーエレベーターやリバーエレベーターに輸送トラックで運ばれるトウモロコシは種類別に色分けされたカードで区別され、搬入の際に混入しないようになっている。搬入されたトウモロコシは、サンプルが採取されスターリンクが混入していないか簡易検査が行われる。
 サイロで品質を維持しながら保管後、はしけに積み込まれる時点で残留農薬検査のためのサンプルが採取され分析機関に送付される。はしけ(1500トン)に積み込まれたトウモロコシは、ミシシッピー川を下り、穀倉地帯から運ばれてくる飼料穀物を本船に積み込むための輸出用エレベーターをもつ全農グレイン(ZGC)の船積み施設へ輸送される。

◆飼料工場でも厳密な品質管理

CGBのカントリーエレベータ

CGBのカントリーエレベータ

 ZGCに到着したトウモロコシは、米国農務省穀物検査官によるサンプル採取、品質検査、輸出検査を受けると同時に、サンプルの一部はGMO検査機関にも送付され分析される。ZGCでも徹底した分別管理がされているが、日本へ輸送するためのパナマックスと呼ばれる大型穀物輸送船(5万トンクラス)へ積み込まれるときも、一般品と混合しないよう船倉単位(7000〜8000トン)で積み込み運ばれる。
 日本の港に到着後も混入しないように荷降ろしされ全農グループの専用サイロで分別保管され、再度、サンプルを採取して、国内検査機関で残留農薬検査を受ける。くみあい飼料工場へ搬入後も、きめ細かな製造工程管理によって配合飼料が製造される。工場では、すべての製造ラインからサンプルを採取し、厳密な品質検査を行うなど、分別管理に万全な注意をはらって製造され、畜産農家に出荷されている。

◆100倍に増えた需要

 91年に全農が一部生協の要望に応えて分別管理を始めた頃は、量的に少なかったために、大きな船倉を区切って混入を防ぎ輸送していた。その後、生協全体から量販店までNON―GMOの要望が広がり、当時の100倍、配合飼料にして70万トンが供給されるまでになった。そのため、いまは5万トンの穀物輸送船の全船倉にIPハンドリングされたトウモロコシが積まれ太平洋を渡ってくる。
 消費者の安心・安全を求めるニーズが高まれば高まるほど、飼料原料の生産から製造・供給、そして畜産物の生産・販売まで一貫して携わっているJA全農グループへの期待も高まっている。その期待に応えているのが、このIPハンドリングだといえるだろう。



農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
webmaster@jacom.or.jp