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特集:稲作経営安定と集荷向上をめざして

  韓国「コメ余り異変」を探る
「コメ余り」で来春にも生産調整政策の発表か

 JA全中の関係者から「韓国では今、“米余り現象”が起きているらしい」と聞いた。隣国もいよいよ日本と同じ道を歩むのか?などと勝手に空想しつつ、本紙と縁をもつ農業経済学者に電話を入れた。「それは事実です。ですが、日本とはちょっと事情が違います」という。“お米とキムチ”にも関与しそうな食生活の光景が浮かんできた。

韓国の稲刈り風景
 まず、小紙に3年前に特別寄稿していただいた(1998年4月20号)ことのある李貞煥氏「韓国農村経済研究所首席研究員」に国際電話を入れた。若き頃日本で農業経済学を専攻した経歴をもつ李氏は、まず次のような事情を明快に指摘した。
 「現在、韓国における米の在庫量が大きく増えているのは事実です。それは、政府米の在庫量が140万トンにまで達し、これは適正在庫量と言われる60万トンの約2.5倍の保有高です(じつは韓国政府は適正備蓄基準量に関する政策がない)。これは国民の年間米消費量の30%近い在庫率になるのです。
 在庫量がこの5年間で急激に膨らんだ背景の第1は、20年来、米の年間消費量(国民1人当たり)が、年に2.5%づつ下がり、1980年には130kg台食べていたのですが、今日では100kg台を切ろうとしています。第2は、ここ数年は気象条件にも恵まれ豊作でした。耕作面積も増えるなか当然収穫高が上がりました。
 このように生産量が増え、一方で国民の米消費量が年々減ってくれば過剰になって当然です。しかもわが国ではこれまでは生産調整政策はありませんし、さらに国民の食生活上における米の消費減に対して、政府は有効な手立ても講じてきませんでした」と問題の核心を指摘する李首席研究員。やはり米余り現象は事実のようだ。

 しかし「米余り現象」をより読み解くために、李氏は、この数年間の次のような経過を知る必要があることを指摘してくれた。要点をまとめるとこうである。
 まず、起点は1996年の「米凶作」にあるという。気象要因を主因とするこの年の大不作により96年度の在庫量が25万トンにまで落ち込んだのだ(総消費量の約5%分に相当)。ところが皮肉にも、翌年にかけての米の収量が連続して史上最高水準を記録(10アール当たり507〜518kg)、在庫率で今度は25%と5倍に上昇し、事態は一転して「過剰状態」となったというのだ。
 韓国農民の中には「米作信奉」ともいうべき根強い農業観があるようだ。96年の凶作を機にその後今日まで米価が上がり続けた(物価上昇と並行し)ことも作用し、結果、米栽培面積がその後5年間で3万ヘクタールも増加した。それまで米から畜産や野菜作りに切り替えていた農民も再び米作りに転じたくらいだという。しかも今日までの5年間の収量は、安定していた。
 在庫増のもう1つの要因として見逃せないのは、輸入米による備蓄量の増加であろう。李氏は、5年間で約50万トン(1年間の米総消費量が約500万トン)の輸入米が在庫量の大量増加に連動したのでは、と見ている。

 こうした「90年代の米需給の劇的な変転の繰り返し」(李氏)の様相について、もう1人、韓国農協中央会日本事務所の金潤秀次長に聞いた。
 「私は昭和の37年生まれで来年40歳になりますが、若い時から今日まで朝、昼、晩とご飯を欠かしません。お酒を飲みながらでもご飯を食べますよ。だけど、いまの若い人は違います。日本での30数年前からの食習慣の洋風化現象と同様に、韓国でも追いかけるように食生活上の大きな変化が起きています。お米に関しては、私が聞いたところでは1人当たりの年間消費が、現在93.6kgだそうですから、20年前のご飯中心の食卓の光景に比べたら大きな変化が起きていることは確かです」。
 金次長によれば、米の販売価格は上質米で20kg(1袋)5〜6000円。「数人家族が月に買い求める量が2袋(40kg)ほどですから1万円位の支出です。それでもお米の値は他の食品に比べれば安いほうです」。

 ところで、韓国農協は最近「お米の消費拡大」を図ろうと、次のような3つの消費拡大運動を政府・他団体とともに始めたという。これは初めての本格的な消費推進運動だという。
 その1つは、若者向けのアピール「朝ごはんを食べましょう」運動。
 2つめは、ご飯食を呼び掛けたポスターデザインを国民から公募し、4万枚作成し、都市部に張り出したこと。
 そして3点めの大々的な運動は「お米をもう1袋(20kg)買いましょう」という都市消費者への「呼びかけ」だそうだ。韓国主要日刊紙の1つである「文化日報」紙上に特集記事を掲載し、国民的規模で取り組んだものだ、と。運動は金大中大統領も1袋買い求めたこともあり、大成功。2カ月足らずで13万6000袋も売れたという。こうした素早い反応の背景には、韓国国民の「キムチとご飯」という国民の食文明上の共通した価値観が運動に反映したのでは、と金次長は推測する。金次長の手元推計では、韓国の米の総生産量のうち自家消費米が30%ほど占めるという。だから米生産農家は買わず、一方で都市の生活者が年々消費を減らしてくれば自然に余剰米が増えるのは当然か。

 また前述したように、少なくない農民たちは、一旦は野菜作り等に転じても値が暴落したりすれば再び米作りに戻ってきたという。その結果が3万ヘクタール増という米栽培面積の増大に現れている。
 韓国政府は現在、このような米作の栽培・生産状況、都市生活者の20年来の米消費減、そして前述のような140万トンという備蓄在庫量の上に立って、新たな政策を論議、模索しているようだ。
 冒頭で李氏が指摘したように、韓国政府はこれまで「米の備蓄基準量と在庫管理原則」に関する明確な政策を持たないできたという経緯がある。
 政府は、「米余り」の現実に対して、2002年の田植え前までに、1つの政策的結論を出す方向だという。それは、「(日本のような)生産調整をやる」政策にするのか、それとも「生産者米価を下げる(=作付け面積の減少を狙う)」のかだという。いまだ結論は出ていない。国民共々、政策論議が続いている。


農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
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