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特集:地域農業活性化と系統信用事業の役割

現地ルポ
地域に密着、貢献するJAの取り組み
定積を中心にした積極的な渉外活動で貯金を伸ばす

JA流山市(千葉県) 大塚信昌常務理事

JA流山市

 JA職員が組合員宅を訪問すると、応対に出た若い人は「おじいちゃん、おばあちゃん、農協の人が来たよ」と呼び出し、自分たちはすぐ奥へすっ込んでお年寄りと入れ代わってしまう−−そんなケースが全国的によく見られる。農協に用があるのは年寄りだけと頭から決め込んでいる次世代が多いようだ。
 流山市内でも同じだ。畑の中に疎林や竹やぶが点在している風景が目立つが、組合員家庭にも電車で約1時間の東京へ通勤するサラリーマンが多い。
 正組合員戸数約1500戸。主産はワケギ。あとは普通のネギ、枝豆など。稲作は少ない。都市化の波に洗われる近郊とあって競合する金融機関の店舗数が多く、リテール(小口個人金融)分野での攻勢は激しい。
 そうした中でJA流山市は千葉県でも上位に位置する資金量を誇る。財務も健全だ。大塚信昌常務は先のJAバンク全国大会で農林中金理事長から感謝状を受けた。

◆若い層に食い込め

 実績は挙がっているが、重い課題が多い。その1つが冒頭に挙げた事例の打開だ。組合員訪問をした職員が次世代との対話のきっかけをつかむこと。そのためマイカー、教育などJA統一ローンの推進に力を入れ、大塚常務は「若い層に食い込め」と絶えずゲキを飛ばしている。教育関係では小学生の子供がいる3、40代の父母をねらって、昨年9月には市内の小学生約8200人全員に貯金魚グッズの防犯ブザーをプレゼントした。通学時の安全用だ。
 これはすぐに効果の出る企画ではないが、徐々に若い親たちのJAバンクに対する意識が定着してきたようだという。
 マイカーローンでは組合員が経営する自動車教習所と連携している。JA各店舗の窓口などに用意している紹介状を持って教習所へいけば教材は無料で、乗車時間も少し長くサービスしてもらって免許が取りやすい?といった特典がある。これは学校卒業・就職時のタイミングに合わせて宣伝している。

◆情報をいち早くキャッチ

大塚信昌常務理事
大塚信昌常務理事

 JA流山市は平成9年に市内の3JAが合併してできた。機構は金融部、共済部など5部があり、金融部は資金課と融資課の2課からなる。
 合併当初の職員数は120人だったが、信用事業の渉外活動を重視し、専任渉外担当職員を一挙に20人に増やして7支店に配置した。今は21人。「もっと増やしたいと考え、今、養成中だ」と大塚常務はいう。
 共済事業には専任渉外がいない。一斉推進が基本で、全職員が推進に当たる体制だ。
 専任渉外は定期積金を軸に営業を展開している。定積なら毎月1度集金に回るから顧客とのコミュニケーションで情報が入りやすい。これがねらいだ。
 農業はやめても土地を手放さない組合員が多い。積極的な渉外活動で組合員から土地活用の相談を受けたりして、いろいろな情報をキャッチするという体制がすでに定着した。
 昨年は、ゴミ焼却場建設の用地を買収したいという市の申し出を受けた地権者からの情報をいち早くキャッチ。敏速に対応した結果、組合員たちが売却した土地代金の約90%はJA貯金に入った。定積を中心にした積極的な渉外活動の成果だ。

◆年金振込指定が年々増加

 JA貯金の残高は13年3月末で910億900万円。今年3月末には、焼却場建設による土地代金流入などもあり、935億円に伸びる見込みだ。
 年金振込指定も年々増やしており、年金相談会は年3回開いている。年金友の会の会員も増えて約2500人。年1回の旅行をして、参加しない会員にも記念品を贈っている。
 また、会の活性化へ年間400万円の助成金を出すなど積極的だ。しかし旅行参加者が会員の1割程度にとどまっているため、企画を再検討する予定。年金アドバイザーは3人を養成中で今はまだいない。ファイナンシャルプランナー(FP)は4人だが、渉外活動はせず、資産活用相談などにあたっている。
 顧問税理士による無料税金相談会も活発で、毎月1回開いている。内容は相続税の相談が圧倒的に多い。確定申告期には3支店で毎日申告相談を受け付けており、扱い件数は1500件ほどにのぼって好評だ。
 悩みは給与振込指定で、まだごく少ない。東京に通勤するサラリーマンたちをひきつける対策は今後の課題となる。
 専任渉外は1人月平均80軒ほどを訪問しているが、「もっと軒数を減らし、きめ細かく相談に乗れる方向を考えている」と大塚常務は語る。さらに取引を深化させ、給振指定なども増やし、家計のメインバンク化を追求したいという考えだ。
 サラリーマンとの対話をねらえば夜間か休日の訪問となる。飛び込み訪問では「農業者以外は農協を利用できないのではないか」と聞かれたりする状況の中で訪問の効率化は難しい。
 一方、剰余金の多い好決算の年度には組合員の貯金者に特別配当金を出し、また一定額以上の員外貯金者には特別利子を上乗せしている。セグメント(区分け)としては、経済事業を含め全体としてJAの利用度が高い組合員を特別功労者として年1回の1泊旅行に招待。さらに年金振込者の定期貯金100万円には優遇金利をつけている。

◆JAバンクのセーフティネットをPR

JA流山市のカウンター
JA流山市のカウンター

 貸出はローンなどを積極的に推進して昨年3月末残高は346億円となった。しかしシェアが高いのは、賃貸住宅建設資金で残高全体の半分を上回る。
 ローン比率は15%どまりだが、農業融資はそれよりもぐんと低い。自己資金を投下する組合員が多いのだ。施設園芸のハウスなどは県市の補助金つき建設が利用されている。貯貸率は38%。当面の目標はこれを45%に引き上げたいとする。
 JAの事業は、生産性の高い都市農業を目ざす営農指導を中心にした経済事業を柱としているが、やはり営農指導で結びついた組合員は信用、共済などの「各事業にわたって利用度が高い」と大塚常務はいう。
 ペイオフ時代に向けて資金調達力を強め、貯金残高を伸ばしてきたが、今後はJAバンクの安全網(セーフティネット)などのPRを強化する。新聞折り込みチラシなども検討中だ。

◆組合員の良き相談相手に

 「これまで地道にやってきたが、今後も着実にJAバンクの重点実践事項に取り組み、サービスを向上させたい」というのがJAの方針だ。それは具体的には「職員一人々々が組合員の立場に立って、よき相談相手になれるように能力を高めることだ」と大塚常務は説明した。
 ここの特徴は職員の平均年齢が35、6歳と若いこと。専任渉外に限ると、もっと若く30歳前後だ。このため教育研修をさらに強化していくが、経験の浅さを補う若い情熱と可能性も大いに期待されている。

 【JA概要】
 長期共済保有高2741億8000万円▽購買事業供給高7億4000万円▽販売同5億500万円▽収支は剰余金3億6600万円(13年3月期決算)


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