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特集:農業・農村に“新風を送る”JAをめざして

元気の風

JA組織基盤 再活性化のカギを握る教育文化活動

山本 昌之 (社)家の光協会専務理事

聞き手:白石正彦 東京農業大学教授


 JAグループ(社)家の光協会の定期刊行物には『家の光』『地上』『ちゃぐりん』に加え、日本で初めての家庭菜園雑誌『やさい畑』(季刊)がある。今春、第1号を出した。取次店を通じての市販が中心だが「農」にいやしを求める都市住民に受けて定着しそうだという。山本専務の話題は「あなたの元気は私の元気」というスローガンそのままに元気よく市民農園にまで広がった。聞き手に回った白石教授はJA教育文化活動の原点を押さえながら家の光事業の新展開について専務の抱負をひき出していった。

やまもと・まさゆき
昭和19年和歌山県生まれ。京都大学農学部卒。42年(社)家の光協会入会、平成3年東京第二支所長、6年普及局次長、7年総合企画局長、8年総務局長を経て、9年常務理事、12年専務理事。

 白石 全国段階のJAグループの中で最初に女性理事を登用されたのは社団法人家の光協会ですね。そういったことに関連して家の光協会の組織運営面で最近とくに工夫されている点はどんなことですか。

 山本 戦前もそうですが、とりわけ戦後、農協婦人部ができてから、家の光と女性組織は二人三脚で活動してきましたから女性理事を迎えたのは、ごく自然なことでした。平成12年3月に就任していただいたのですが、その前からJA全国女性協の会長会議などで、家の光協会の理事就任要請の声がありました。女性組織のあらゆる段階で『家の光』を活動に活かしていただいているのですから当然のことです。
 その後、12年10月のJA全国大会で、JA運営への女性参画促進に数値目標を掲げて取り組むことが決議され、女性組織からJAグループの各組織に対して女性理事登用の申し入れがなされるという展開となっています。

 白石 JA事業に活かす家の光事業についてうかがいたいのですが。

 山本 最近こんなことを感じました。
 「次世代との共生」という趣旨で長野県のJA北信州みゆきで子どもたちの「あぐりスクール」が開かれていますが、JA松本ハイランドでも今年の夏休みは一泊二日で子ども向け行事が行われました。
 すると、参加した子どもたちは家に帰ってから、校長先生役を務めた農協の組合長がこういっていたとか、先生役の農協のお姉さんやお兄さんがこんなことを教えてくれた、などと詳しく親や祖父母に報告するんです。つまり家の中に「農協」を持ち込んだわけです。
 営農指導員が組合員にいろいろ知らせるのも農協からの発信情報であるわけですが、とにかく子どもたちによる口コミ効果はものすごいということです。
 以上は両組合長から聞かせていただいた話です。農協の話題が家庭内や、または若い層の間でどれだけ語られるかを考え、様々な農協の事業の中で話題を提供していく活動が今一番求められているのではないでしょうか。
 もう一つは福祉活動ですが、親が亡くなった時に、都会に出ている長男夫婦が子ども連れで駆けつけ、JAの葬祭施設や付随の宿泊施設を利用し、心から感謝していたという話も聞きました。この都会の家庭でも農協が話題になるでしょう。
 ありがたがられる事業をする、普通の家庭の話題になるような風をJAが送っていく活動、文化活動が、それだろうと私は思います。


◆本店と支店が一緒に取り組む広域JAの活動スタイル求め

しらいし・まさひこ 
昭和17年山口県生まれ。九州大学大学院修了。農学博士。東京農業大学国際食料情報学部教授。昭和53年〜54年英国オックスフォード大学農業経済研究所客員研究員、平成5〜7年ICA新協同組合原則検討委員会委員、10年ドイツ・マーブルク大学経済学部客員教授。

 白石 家の光事業全般はどういう状況ですか。

 山本 『家の光』の部数は平成4年に100万部ありましたが、今は月平均80万部です。ざっと10年で2割減りました。このことはJA合併構想実現の推移と相関関係にありますが、一昨年あたりからは広域合併JAでの部数が反転して4ケタの部数増が8JAありました。
 それまでは1JAの部数増は200か300でしたが、全職員一斉運動で増部するところが出てきました。中には合併1、2年目は上層部が積極的でも実績が挙がらなかったのに3年目にして一挙に7000部も増部したところがあり、また職員すべてが1部ずつを達成した県も出ました。
 さらに今年は中央会が800部増を提案したのに2000部の成果を出したJAもあります。ここは6月に合併し、全職員の心を一つにするため、JA共済の一斉推進で目標達成されその後すぐに同じような方法で取り組んだといいます。ほかのJAでも部数を増やした結果「これで本店のいったことが全支店に通るレールが敷かれた」と総括するJAもあります。
 合併JAにおいて組合員の結集を図ろうと何か新しいことに取り組もうと考えたとき、それは、やはり文化活動になるのではないだろうかと思います。
 これまでの普及運動には、特定のJAに的をしぼってやろうというパターンがありましたが、今年は全県運動をやる県が22県にもなり、だいぶパターンが変わってきています。
 広域合併JAは、自らが教育活動もやっていくという方向ですが、組合員教育・協同学習を企画する人材・体制はまだまだ十分とはいえません。やはり、組合員教育・協同学習は、中央会の機能発揮が欠かせないとの声が多く、合併はしたものの教育はどうもという状況があって、家の光事業に期待されているのではないかと、考えています。
 平成11年に策定した「家の光事業基本構想」や、その具体化をはかるための「21世紀第一次家の光事業中期計画」(13年度から3年間)に「組合員意識を高める『参加・参画する仲間づくり』をすすめます」など4つの事業目標を掲げましたが、現場では組合員意識を高める活動が『家の光』の普及というかたちにあらわれてきているのではないでしょうか。
 それから白石先生にもご指導をいただいている「家の光文化賞トップフォ
ーラム」に広域JAトップの参加が年々増え、熱が入ってきていることも、そうしたあらわれの一つと思います。
 話は女性部のことに戻りますが、創立50周年の県組織が3年前の静岡をはじめ今年も東北などで続々出てきています。それを記念して『家の光』は定価据え置きで16ページずつの各県版を増刷します。記事の素材はすべて県下の女性部が提供して構成するという編集です。
 その結果、この秋に1万部新規購読する県組織が出てきました。女性組織のパワーにあらためて感動させられました。
 50周年の女性部と家の光の二人三脚を確認し、さらなる活用で再出発しようという取り組みなんですね。
 もう一つ話題があります。皇后さまが国際児童図書評議会創立50周年記念大会(スイス)でのあいさつに引用された竹内てるよさんの話は、本会が昭和52年に出版した「海のオルゴール」からです。今は絶版ですが(再販予定)。


◆「感動こども雑誌」をめざして『ちゃぐりん』の部数が急増

 白石 家の光図書とともに家の光3誌を活用した生活文化活動の状況はいかがですか。

 山本 活字の魅力を教えるこども読書運動のことを話したいと思います。『ちゃぐりん』は2年後に創刊40周年を迎えますが、少子化のため平成に入って部数が減りました。ところが2年前からは反転して増えています。これはJAが次世代対策に力を入れ始め、『ちゃぐりん』がめざす「感動こども雑誌」が受け入れられたからだと思います。
 JA段階では読者参加による「ちゃぐりん大会」を催していますが、全国合計で2万5000人の参加です。発行部数5万だから半数参加という高率です。これは冒頭に申し上げたように各JAが様々な次世代対策に取り組んでいるからです。これに応えて『ちゃぐりん』の機能をもっと発揮する必要があります。
 一方、家の光大会は全国で350のJAが開催し、約15万人が参加します。これは部数の2割弱ですから、広域JAとしては、本店だけでなく基幹支店でも取り組んで参加率をもっと上げていくことが課題になってくると思います。
 家の光協会の文化活動で、JAが最も喜んでくれている一つに「家の光クッキングフェスタ」があります。テレビの料理番組に出てくるような有名な先生から受講して料理を食べて話し合う企画で、これは参加者にとって魅力的です。予算の関係で昨年までは15JAに限定して開催しましたが、今年は1県1JAの割合以上で開催できるようにと一挙に47JAに増やしました。これは1年目は家の光協会が開催するが、次年度からは広域JAに独自で開催してもらいたいというねらいからです。
 この場合も、広域JAのイベントにふさわしく本店だけでなく基幹支店でも取り組んでほしいと願っています。やはり現場の行事として主体的に盛り上げてほしいと思うのです。
 一方、平成7年から『家の光』記事活用グループの登録制度というグループづくりもすすめており、現在2180グループが家の光協会に登録しています。自主的な読書グループですが、一人では記事活用の効果が薄くてもグループで活用すれば定価600円の『家の光』を1000円にも2000円にも活用できるという趣旨です。そうした現場活動の積み重ねが広域JAの組織を強化していくのではないでしょうか。
 JAの諸事業が厳しい中で、教育文化活動は、組合員基盤を再活性化させるキーワードだと考えます。このため協会は、まず広域JAが教育文化活動をしっかり位置付けるにはどうすればよいのかを検討する、「家の光事業促進委員会」を最近設置しました。構成は9広域JAの専務さん、常務さん方です。
 最近の複数の広域JAの調査で正組合員の年齢比率と出資金比率を見て驚きました。組合員構成のうち年齢は60歳以上が56・9%です。
 出資金比率でみると70歳以上で32・8%を占めています。5年10年先のことを考えると、組合への結集を訴えても結集する人間がいなくなるという状況が想定されます。


◆協同学習をしっかり 次号が待ち遠しい雑誌に

 白石 今後のJAの事業・組織運営を考えるうえで、次世代への出資金振替えで各JAがどんな方針を出しているかが、問題だと思いますし、女性の正組合員比率を25%にするという先のJA全国大会の決議の実践も極めて重要です。それと、新しい協同組合原則を次世代の若い層に学習してもらうことが、大切です。

 山本 そのとおりですね。東北のあるJAは複数組合員化で40代が2割となっています。ですから、中核的な組合員や女性リーダーの協同学習をしっかりやることが、JAの将来を考えるとたいへん重要になってきています。
 本会としても、女性組織の活動を引き続き支援するとともに、次世代対策や新規加入組合員対策に役立つテキストや教育資材の開発をすすめていきたいと考えています。

 白石 またデフレ経済の中で、集落活動も大きく変化し、共感を分かち合うような活動をみなさんが求めていると思います。

 山本 ファーマーズマーケットにしても朝市にしても現場には新しい芽があります。

 白石 JAのファーマーズマーケットには心のつながりがありますね。今までは政府の保護措置もあり、経済も伸びていたから組合員の協同意識が十分でなくても、組合員の結集と事業伸長が容易でした。
 しかし今は情勢が大きく様変わりして21世紀のJAは、次世代・女性・地域の人々に共感を呼びおこす事業活動、創造の新時代に入ってきたと思います。

 山本 そういった意味で、今年の全国家の光大会のスローガンは教育文化活動の活性化で協同運動をさらに興していくため、「あなたの元気がわたしの元気」としました。人が元気、組織が元気、そして地域も元気になってほしいという願いもこめました。家の光協会はそうした現場の活動のお手伝いをしますよということです。
 最後に一つ申しあげたいことは、『家の光』をさらに感動あふれる雑誌、楽しくて、次号が待ち遠しい雑誌にしたいと考えているということです。

 白石 家の光協会による共感の輪をひろげる新たな教育文化活動の取り組みを期待しております。


インタビューを終えて

 山本専務理事は、JAの組合員とその出資金に占める高齢者割合の増大が急テンポで進行しており、このような組織基盤の問題を直視して家の光協会の教育文化活動に取り組みつつある点を強調された。とくに、先進的な広域合併農協において「あぐりスクール」に参加した子どもたちがその感動した体験を若い世代の両親やおじいさん、おばあさんにおしゃべりし、その語らいの中から地域社会におけるJAへの共感が伝わりつつあるという新しい協同組合事業活動の新しい波が基盤となってJAの経済・金融・共済事業活動にも波及する点を指摘された点が印象的である。さらに、全国に30万区画ある市民農園を楽しんでいる市民や組合員を読者として、今年から家の光協会が発行している『やさい畑(季刊雑誌)』がとくに都市市民に好評で7〜10万部販売されているなど家の光協会の公益的機能発揮に向けての努力も注目される。
 平成15年度から家の光協会では(1)「食と農」を軸とする元気づくり、(2)協同組合学習を軸とする元気づくり、(3)グループ活動を軸とする元気づくり、(4)子どもとの活動を軸とする元気づくりを重点的に取り組む方針を固めているが、これらはICA新原則(とくに定義)で「組合員の経済的、社会的、文化的ニーズと願いをかなえる」ことを協同組合の目的としている点(とくに文化面)に照らして妥当だといえる。家の光協会の教育文化活動がJA組合員、役職員さらに農村・都市の人々が学び合い教え合いの文化的風土づくりによって、協同組合らしい人的パワーアップの役割発揮を大いに期待したい。(白石)


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