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特集:農業・農村に“新風を送る”JAをめざして

元気の風

今こそ協同組合が食と農をつなぐ時機
―21世紀のJAと地域社会を考える―〈上〉

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出席者
中嶋 拡子氏(千葉県生協連元会長)
工藤 誠司氏(JA山形おきたま参事)
波多腰芳弘氏(JA松本ハイランド代表理事専務理事)
内田 正二氏(JAいずも代表理事常務)
桜井  勇氏((社)地域社会計画センター常務理事)
(紙上参加) 河野 直践氏(茨城大学人文学部助教授)


 BSEの発生とそれにともなう食品偽装事件、無登録農薬の使用など、食と農の信頼を揺るがす問題が相次いでいる。なかにはJAグループやJA自身が深く関与した問題もあり、食と農に大きな責任を持つべきJAへの信頼も問われている。
 今後、JAが役割を発揮し、農業をはじめとする地域社会に貢献していくためには、今、何が問われているのか改めて検証し、課題を探る必要があるだろう。今回は、現場のJAの実態をふまえた取り組みについて話し合ってもらうとともに、消費者の立場からも提言してもらう座談会となった。2回に分けて掲載する。

◆「正直」は協同組合の理念 近代化農法の見直しも

 桜井 BSEの発生とそれを契機とした食肉の偽装事件など偽装表示、さらには無登録農薬問題など食と農をめぐるさまざまな問題が立て続けに起きています。今日はこうした状況のなかでJAを含めて何が問われているのか、今後、JAはどうあるべきかを話し合っていただきたいと思います。まず最初になぜこのような問題が起きてきたのかについてみなさんのお考えを聞かせてください。

◆食の安全性とモノカルチャー

中嶋 拡子氏

なかじま・ひろこ
 昭和3年東京生まれ。36年登戸生協・43年専務理事、50年千葉県生協連専務理事、60年会長理事、平成元年顧問、現在千葉県畜産会・非常勤コンサルタント、千葉県環境衛生分野調整事業協議会委員。著書に『いのちの糧に なにを求めるか』(家の光)など。

 中嶋 食の安全の問題は、先進国が押し進めてきたモノカルチャーに原因があると思っています。近代化というモノカルチャーは、化学肥料と農薬を使い、機械で大量生産してきた。それを見直してもらわない限り消費者にとって基本的な安全はあり得ないと私は思っています。
 もうひとつ偽装表示の問題に関しては、化学肥料と農薬がセットになった近代化農法がずっと続いているにも関わらず、一部で減農薬とか有機農産物と表示された農産物が出てきたために、消費者はそういうものがもっとたくさん作られていると錯覚した。本当はそういう農産物は少ししかない、といっても、じゃあ表示を見て買えばいいんでしょ、ということでニーズがどんどん高くなって、供給するものがなくても、一部の正直じゃない人たちがうそつき表示をしたんだろうと思います。
 無登録農薬の問題にしても、生産者のなかにはどうしてもモノカルチャーと決別できない人がいるからではないか。これは当然なのですが、単品の大量生産による連作障害などの問題を抱えていて農薬が減らせるわけがない。
 そういうことを生産者自身がどのくらい認識しているかというと、私は生産者はほとんど認識していないと思います。そして指導者も4分の3は認識していない。なぜ農薬を使っちゃいけないんだ、消費者はわがままで虫がついたり格好が悪いのはいやがるのに・・・、という意識がどうしても底流にあります。だから、熱心な生産者ほど使いたがるので、近代化というモノカルチャーに農協がどれだけメスを入れられるのかということが私にはいちばん大きな関心になっています。

◆信頼の回復JAの責任

工藤 誠司氏

くどう・せいし
 昭和30年山形県生まれ。51年米沢市農協入組、平成2年上郷支店長、4年合併事務局出向(参事付部長)、6年山形おきたま農協に合併・総務部長、8年山形おきたま農協金融部長、10年同参事。

 工藤 今回の問題のなかで、とくに無登録農薬使用については、残念なのは地域の優良農家、熱心な農家ほど使っていたという現実がわが山形県でもあったことです。使用できる農薬が現実に少ないという登録制度上の問題もありますが、われわれJAも生産者サイドに変わりないわけですから、生産者を批判するばかりではだめであって、いかに「正直」ということを証明するか、それが単協レベルの仕事だと思っています。
 ですから、今回の問題では、行政の調査では1名だけ使用していたということでしたが、われわれの独自調査では4名と判明しましたので直ちに収穫させないという対処をしました。私たちとしては対応が早かったと思っていますが、ところが次々と他の地区でも問題が出て、今でも学校給食では全面解禁になっていない状況です。果物だけじゃなくて野菜でもです。
 そこで、われわれとしてはJA独自に分析機を導入して分析した後でなければ出荷しないという体制をつくることにしました。これは生産者を信頼しないということではありません。失われた信頼を取り戻すには精神的な部分だけでの対処ではだめだと思ったからです。この問題はすべて生産者の側の責任だけにできないと思いますし、JAとして消費者からの批判、要請にどう応えるかはわれわれの責任だと対策を練っています。

◆もう一度「土」を見つめる

 波多腰 JAと組合員は国民の食料を生産するという重要な責務を持っていることから、安全性についてはこれまでもかなり重視したつもりです。しかし、これだけ問題が起きると率直に反省しなければならないと思っています。
 ただ、食品の流通がこれまでどちらかといえば見かけを重視した芸術品的なものが高値で出回っていて、生産者はそれをめざして生産してきたのは事実だと思います。それが、最近では本当に食味などが重視されるようになってきたわけで、やはり今までの流通のあり方にも問題があったのではないかと思っています。したがって、これからは安全性を確保するのであれば、見かけや規格について十分に情報も開示しますが、そのことを消費者も理解して、お互いに認識を共有して国民に安全な食料を供給するという気持ちを育みたいと思っています。

◆販売のあり方新たなる課題

波多腰 芳弘氏

はたこし・よしひろ
 昭和15年長野県生まれ。長野県園芸試験場(現農業大学校)卒。平成2年松本平農協地域開発次長、11年松本ハイランド農協金融部長、12年同副参事兼金融部長、12年同参事、14年同代表理事専務。

 波多腰 ただ、わがJAグループの企業で偽装問題が起きたことは非常に残念で、結局、JAグループが協同組合理念を失って、分社化という名のもとに利潤追求に走ったことがこういう問題になったのではないかと思いますね。われわれもJAグループですから、この問題とは無関係ではなく農協もそうですが、生産者の怒りというものは大きい。ここは十分反省してもらいたいと思っています。
 安全な食料を供給する責務を果たすためわれわれのJAでも分析機の導入などのほか、土づくりを重視しようと思っています。土、これをきちんと生き返らせるということから始めようという意識を改めて強く持って取り組んでいきたいと思っているところです。

 内田 今までご指摘があった問題のほかに、もうひとつ大事なことは、現在は生産者のみなさんの生産物を農協が集荷して販売するという形態になっているわけですが、いちばんの問題は生産者自身が自分のつくったものがどんな人に売れて、どういう人が買っているのかが見えない部分があることです。
 言ってみれば販売は農協に任せなさいということですが、これからは消費者が何を要求しているのかがもう少し生産者に直接伝わっていくことが大切だと思います。そのうえで今、みなさんからご指摘があった基本に立ち返ってどうするか、を考えることになると思います。このように流れを変える、販売の方式を変えていくということも考えていかなければならないと思います。
 たとえば、私たちのJAでも、店舗にファーマーズ・マーケットを取り込んでいこうと考えています。生産者が自分で値段をつけて出荷する組織をつくっていこうとしているところです。今、問題になっていることについては、おそらくそうした取り組みのなかで流れを変えることによって解決できることもあると考えています。

 中嶋 生協も最初に産直に取り組んだときには、生産者の自給的な少量多品目の野菜を手に入れるのがこんなに難しい問題だとは思っていなかった。ところが生協が活躍しはじめたときにはすでに“大産地”ばかりで、少量多品目生産はまったくなかったわけですね。
 生協の産直というのは差別化、つまり、減農薬、無農薬です、抗生物質は使いません、といった差別化にかなりこだわってきたと思います。一方、農協は、自分たちが産地形成として生産していることは当たり前のことであって、なぜ生協が目くじら立てるのかわからなかった。
 ですから、お互いが情報を共有して話し合う場はほとんどありませんでした。本当の無農薬栽培というのはどうしたら可能になるのか、土のなかに天敵をできるだけ増やして農薬のお世話にならないようにするにはどうしたらいいのか、そういうことは今までとは違う価値観の段階に新たに入ることです。今までは、お互いがモノカルチャーに振り回されてきた、ということを認識して、この次の生産と流通はどうあるべきかを生協ばかりでなく大勢の消費者と、それぞれ地域ごとに話し合うことが大切ではないかと思っています。

◆JAグループならではの農産物流通の構築を

 桜井 情報の開示という点が指摘されましたが、生産者の作ったものを消費者が見える関係ということもこれからの鍵になりそうですね。そういう意味では一方で市場流通のなかでもどう対応するのかということも課題だと思います。
 生産者に食の安心、安全の確保が求められているときにJAサイドとして生産者への対応も含めてどのような取り組みが考えられるのかについてはいかがでしょうか。

◆生産者への公平な対応を

内田 正二氏

うちだ・まさつぐ
 昭和15年島根県生まれ。島根協同組合学校卒。41年出雲市農協入組、51年総務部人事課長、60年生産部長、平成4年参事兼企画管理部長、8年いずも農協(合併)同年参事兼総務部長、12年代表理事常務。

 内田 市場流通の問題は、農協が間に入ることによって、生産者へ市場からの情報をさえぎっているということがあると思います。
 たとえば、先日も大阪の青果市場関係者に聞いたんですが、産地で一生懸命、ぶどうを高級な箱詰めにしても、その箱はゴミになりますよ、というんです。この話を生産者にしましたら、一生懸命やっているのにゴミですか・・・、と当然がっかりする。市場のニーズというのが通じていないわけですね。
 それなら、島根ぶどうは、もうバラ売りでコンテナに入れて市場やスーパーに直接出していくというように形態を変えて出すなど、全体の流通の変化について生産者にもきちんと認識してもらわないといけないわけですね。そうしないとコストも下がらないことになる。
 そのうえで土づくりなど努力した生産者に対してどう評価するかですが、私はそれぞれの努力に点数を与えて、販売全体の利益を分配するときにそういう生産者には多く還元するという方法で調整はできると思っています。

◆市場流通をどう評価するか

 工藤 東北や北海道、九州といった地域は大食料基地なわけですね。しかも大消費地に遠いというハンディを持っていますから、依然として今のところは市場流通が中心にならざるを得ないのが私たちの現実です。
 ただ、そういうなかでもファーマーズ・マーケットは、とくに無登録農薬の問題が発覚してから、売り上げが200%に伸びています。そのほか生協との提携や段ボール以外の流通もやっていて、まだよちよち歩きでありながらも相当、ノウハウが蓄積されてきてはいます。
 だから、市場流通がだめだということではなく、新たな流通を徐々に立ち上げていく。正直な生産者をわれわれ集荷団体である農協がどう区別してあげるのかという問題、つまり、共同プール計算でない販売の仕組みを考えなくてはなりません。
 この点で私たちが今検討しているのは手数料に差をつけるということです。プロ集団は営農指導の必要ありませんしどんどん売れる。こういう方からは極端にいえば販売手数料はいただかなくてもいいだろうと。そして、セミプロ集団、この層からはたとえば5%程度はいただきましょうと。
 後はいわば初心者集団ですが、私たちのファーマーズ・マーケットは初心者集団の訓練の場としています。ですからこれは手間がかかりますから、10%程度の手数料はもらおうと。実際にファーマーズ・マーケットの手数料は15%ですが、だれも何も言いませんね。
 つまり、形式的な平等が実質的な不平等をもたらしていたという過去のわれわれのやり方、これは販売事業でも購買事業でも同じですが、それをどうやって乗り越えていくか、これはまさにわれわれの気概以外のなにものでもないと思っています。

◆ネットワークでJAの強みを

 

 波多腰 私たちも将来的には、日本の食料を供給する総合基地でありたいと考えています。そうなると1品目最低でも10億円という品目をつくらないと基地にはならないわけですから、とにかく10億円品目をつくろうと取り組んできました。
 ですから、それを売るとなると、地産地消や直売所ではとても売り切れないですね。それと安定的に供給することも考えると、どうしても市場流通ははずせないことになります。
 ただ、大型品目だからという理由でJAが無条件委託販売をしていることは確かに問題があります。専業農家で、こだわって作り相当高いレベルのものも、共選という名のもとに平準化されてしまう。先ほどの話では、そこをどう区別するかですが、私たちもできるだけこだわり品はこだわり品として扱うために、今、生産区分した複数の共計を結ぶことを取り入れています。
 それからコストを下げるにはコンテナ流通ですが、すべての品目がこのルートに乗るかという問題もあります。
 一方、一部ですが篤農家の本当にすばらしいものは量販店に直接送るというルートは実現しています。
 ただ、これも限度があってなかなか広がりませんね。理由はネットワークが確立されていないからだと思いますが、今後はネットワークをどう構築して、総合供給基地として役割を果たすかというのが課題だと思います。

◆期待高いJAの機能

 中嶋 今のお話を聞いていて、私はだからこそ現在の市場をどう見ていくかが非常に大事になると思うんです。みなさんが100%信じて3大市場に的確にものを送っていたにも関わらず、いつのまにか梯子がはずされていたわけですから。
 生協はもともと市場外流通が中心で、市場流通とは関係が薄かったんですが、私は農協といえども流通資本に提供する歯車の一つでしかなかったと思っています。
 つまり、流通資本が牛耳っていたのが今までの市場の仕組みですから今後は、新たな市場といいますか、農協の新たなネットワークで流通資本に振り回されないようなあり方を築くことは重要な課題だと思います。

◆販売対策はJA改革の課題

桜井 勇氏

さくらい・いさむ
 昭和23年岐阜県生まれ。名古屋大学農学部卒。JA全中生活部生活課長、同部地域振興課長、地域協同対策部次長、、平成8年地域振興部長を経て14年(社)地域社会計画センター常務理事。

 波多腰 確かに私たちは集荷業務の域を超えていなかったと思いますね。これは長い間、米を中心に事業をやってきたわけで、自ら生協など消費の末端部分に売るという努力がなかったことは事実です。

 工藤 私が思うにはわれわれJA段階は集荷レベルで、県連合会と全国連合会が先ほどご指摘のあった流通資本にどう対抗するかに取り組むという機能分担を持ってやってきたと思うんです。
 それが全農や経済連がどんどん販売の市場対抗策から手を引き始めたのではないか。つまり、儲からない分野から手を引いていくという構図があったと思います。その点では今後のJA改革の議論とも関係してくると思いますね。

 桜井 これまでの話では消費者に誰が作ったのか分かるという形での新たな流通形態を模索することも今後の課題だということだと思います。
 各地のJAが取り組んでいるファーマーズ・マーケットは出荷された農産物に生産者名が入っているわけですが、今後は地元だけじゃなくJA間の提携でそうした農産物の売り先を広げていくようなあり方も考える必要があると思います。私は日本全体の農産物の3割なり4割なりをJA自らのネットワークで売っていく体制にする必要があるのではないかと考えています。そのためにJAグループ全体の事業としても何ができるのかを考えていく必要があると思います。
 また、私の問題意識で言いますと、家庭のなかから調理がだんだんなくなってきていることが問題だと考えています。こうなるといくら生産者が一所懸命作っても消費者が輸入の冷凍品や加工食品に流れてそもそも手に取らないという事態も生まれているのではないか。
 そういう意味ではJAの女性部のみなさんにもう一度、調理のノウハウなり食という問題をきちんと地域に広げていく取り組みが大切だと思います。食材の提供だけでなく加工もJAの事業にとって大切になると思っています。中嶋さんはどうお考えですか。

 中嶋 確かに家庭のなかから調理がなくなっていますね。これには社会的な背景の変化もあります。年寄りと一緒に住まない、核家族になった。その一方では高年齢化してくる。それから女性が働き、昔のような専業主婦が極めて少なくなっているという状況があります。
 こういうなかで、生協でも冷凍食品がかなりヒットしています。値段がそこそこで、無駄が出ない、ゴミが出ない、半加工で後の調理がしやすいからです。さらに年寄りのなかには、調理をすることすら不可能になってコンビニで全部をまかなう。こういう現状をふまえて考える必要があると思います。
 そこで私が今進めているのは、旬の野菜を加工して一年中提供するということです。旬というのは必ず限りがありますから、そのときに冷凍なり水煮にした真空パックなりにする。
 私は第一次加工の素材を非常に重視しています。これは一般の家庭もそうですが学校給食、民宿、旅館、飲食業にしても、生で野菜を買ってきて茹でれば半分はゴミになるわけです。ですが、地元の人たちが作った農産物をその時期に冷凍なり水煮なりしていれば、ゴミを出さずにいくらでも使えるわけです。 (続く)


重大な岐路に立つJA

河野 直践氏

こうの・なおふみ
 昭和36年東京生まれ。東京大学農学生命科学系大学院博士課程修了。農学博士。全中営農部・広報部職員、協同組合経営研究所研究員を経て、平成10年より茨城大学人文学部助教授、現在に至る。著書に『産消混合型協同組合』(日本経済評論社・1998年)、『協同組合の時代』(同・1994年)、『有機農業――農協の取り組み』(家の光協会・1988年)など。

 今の日本は、かつてのような「成長の時代」から、「成長しない時代」「マイナス成長の時代」に向かう、不可逆的な転換期にある。構造改革がすすめば成長軌道に回帰できるかのような議論もあるが、それは幻想だ。爛熟期に達した日本経済にとっては、マイナストレンドの到来は必然と見るべきだし、地球環境問題もまた、これ以上の日本の成長を許さないであろう。成長トレンドから頭を根本的に切り替えて、覚悟を決める必要がある。
 こういう時代になると、人々も組織も小さくなる一方のパイを争う関係になるから、おのずと競争が激化する。従来は互いに棲み分けていたものも、その図式が壊されて競争に巻き込まれる。存在意義の乏しい組織は、まっさきに社会的なリストラの対象にされる。むろん農協(JA)も例外ではない。自らの存在意義が厳しく問われる時代に入ったわけで、それに明確な答を出せなければ、即刻退場を迫られるであろう。
 これから生き残るのは、一つには、グローバルな経済競争に勝ち抜くだけの力を有した、多国籍資本を筆頭とする巨大な経済組織ということになろう。それらによる経済支配は、効率優先の結果として産業を空洞化させて失業を増やし、地球環境を破壊するなど、人々の生活を足元から掘り崩していく危険が大きい。だが人々は、「背に腹は替えられない」といった雰囲気で、これらの組織が生み出す悪循環から容易には抜け出せない。残念ではあるが、これが一つの現実になるだろう。
 だが同時に、それらとは対極的な組織や活動もまた急成長する。悪循環によって生活が苦しくなり、生活基盤が崩されれば崩されるほど、人々はそれとは別の方法で生活を支え合う必要が出てくる。それに、生きがいや働きがいなどもまた、熾烈な効率競争中心の組織や活動では達成できなくなっていくからだ。つまりは、地域に根ざして人々の生活を支え合う協同活動や、顔の見える参加型の組織が同時に成長する時代になる。
 いま各地にさまざまなNPOが生まれたり、地域通貨(エコマネー)導入の動きが広がっている。こうした動向はまさにその兆候にほかならないし、協同組合の可能性もそこにある。グローバルマネーの跳梁と無節操なビジネスがもたらすであろう人間性喪失の社会において、協同組合は「人間の顔をした経済組織」として対抗的な魅力をもつ。際限のない競争や成長願望を相対化した、より人間らしい「のんびり・ゆったり型」社会の提案者・立役者であることが、人々を協同組合にひきつけていく。
 その点では、お世辞ぬきに農協が大切な意味をもつ。アグリビジネスによる食の囲い込みや農地の取得要求など、食と農業と環境をめぐる情勢は悪化する一方だ。人間の立場で歯止めをかけ、命の糧を人々が協同して保証する仕組みを作らないと、とんでもないことになる。
 だが問題は、今の農協(JA)がこうした時代の要請や庶民の期待にこたえることのできる、協同組合としての実態を有しているかどうかである。筆者は以前、大学生に農協のイメージについてアンケートをしたことがあるが、そこではほとんどの学生が農協とは「企業の一種」か「行政機関の一種」と考えていて、NPOなどと近縁の非営利組織だという認識はきわめて薄かった。問題は、そうとしか思われていない自らの実態にある。
 もはや農協(JA)は、旧来のような保守的・閉鎖的な利益集団や地主組合的な実態にとどまっていては、社会的な支持は得られないし、存続もおぼつかない。政治力で生き残るということも、ありえないことを認識すべきである。食と農と環境や、地域福祉などを真剣に考える人々ならば、誰もが自らすすんで参加してくるような、いきいきとした真の協同組合に脱皮することにこそ役割があるし、他に存続の道はない。
 それには、参加型の組合を徹底的に追求することだ。農家だけの閉鎖的な組織は清算して、志ある者なら誰もが参加できる組合にする。合併組合の支所は窓口化するのではなく、さまざまな協同活動の拠点にしていく。組織や事業のあり方を、「組合丸がかえ・お客さま」方式から、基礎組織への分権を基本にした自主運営型に一八〇度転換する。職員の働き方や系統組織のあり方も、ピラミッドをぶち壊して、ボトムアップ・水平連帯型に移行する。
 もちろん、経済効率の向上に努めることは必要である。しかし、農協が多国籍資本の後追いをしたところで、しょせんは敗退するだけだろう。経済効率競争ではこぼれ落ちてしまうものを、同時に大切にしていく複眼的な経営姿勢と、複線的でしたたかな事業戦略こそ求められている。いまJAは、協同組合の本質を捨てた果てに消え去っていくのか、それとも真の協同組合に脱皮して時代の牽引車に名を連ねるのかの、重大な岐路にある。


農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
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