農業協同組合新聞 JACOM
   

特集「改革の風をふかそう 農と共生の世紀づくりのために」

【対談】  2004 JAグループがめざすこと
改革の実践に踏み出す年 JAへの結集力を高めよう

山田俊男 JA全中専務
梶井功 東京農工大学名誉教授

 今年は、「改革の断行」をスローガンにした第23回JA大会決議を「実践」する年である。山田専務はその基本は「JAが地域づくりに貢献すること」と強調する。地域水田農業ビジョンづくりもJAグループの経済事業改革もそのための方策と位置づけ、全国のJAの役割は大きいという。一方で、FTA交渉や基本計画の見直しなど農政課題も多いが、「この国の食と農をどうするのかの視点を忘れてはならない」と主張、JAグループこそその結集力を高めこうした根本的な議論を巻き起こそうと呼びかけた。

■改革の基本的視点 地域づくりへの貢献  

 梶井
 あけましておめでとうございます。今年も日本農業、そしてJAグループにとって課題は多いと思いますが、まずは基本的なご認識をお聞かせください。

山田俊男JA全中専務
山田俊男JA全中専務
 山田 昨年は第23回JA大会を開き、「改革の断行」をスローガンにした決議をしました。今年はその改革の実践が最大の課題です。これはJAにとっては地域づくりにどう関与するかということです。
 その具体策として地域水田農業ビジョンづくりや担い手の育成など地域農業の発展への取り組みが求められています。そしてそれを実現するためにJAグループの経済事業改革があると理解すべきで、その具体策を示していくことが求められています。
 一方、食料・農業・農村基本計画の見直しの議論も本格化しますが直接支払い制度の導入など政策転換の実現に向けてJAグループも十分に議論し政策を打ち出していく必要があります。課題の多い年ですが、まさにJAへの結集力が問われる年になると考えています。

■米政策改革 地域での徹底した議論で水田農業ビジョンづくりを

梶井功東京農工大学名誉教授
梶井功東京農工大学名誉教授

 梶井 米政策改革が昨年から動きはじめました。その具体化が地域水田農業ビジョンづくりから始まったわけですが、現場ではなかなか苦労しているようです。取り組み状況も含めてどう評価されてますか。

 山田 まだまだ不十分だと思っています。昨年末までにビジョンのたたき台を作成したのは40%、協議会を開催したのが20%程度、そのほかはようやく打ち合わせを始めたという状況ですし、まだ手をつけていない地域も10%ほどある。
 これには、今回の米改革が理念先行で、具体的な施策提示が遅れたことが影響しています。米生産の目標面積をどう設定するのか、活用の仕方を市町村に任せる産地づくり交付金の総額が、いったいどのくらいになるのかといったことが11月末まで分からなかった。
 その点では都道府県別の産地づくり交付金額や米の生産目標数量も決まったわけですから、この1月から2、3月にかけて地域で徹底して議論を深めてもらたいと思っています。
 ただ、心配なのは米政策では国が責任を持つという部分がほとんどなくなったということです。過剰米の処理対策として集荷円滑化対策も仕組まれていますが、実際に機能するかどうか分からない部分もあります。まして昨年は不作でしたから、価格は上がっていますが収穫量が少なかった地域は所得を落としていて、やはり16年産の米づくりへの期待が大きい。
 こういうことを考えると米の過剰が起きてもその処理の仕組みが十分ではないわけですから、市場に米があふれ間違いなく米価は下がっていきます。そうなったときに今回の米政策改革の怖さが分かってくる。
 ですから、われわれが自覚に基づいて運動的に取り組むしかありません。誰も救ってくれませんから。JAにとっては、どれだけ集荷できるかが問われます。率直にいって容易ではないことだと思っていますが、かつてと異なり、今回の改革では米の過剰が起きてからでは手遅れだということです。今から種籾を用意して田植えをするまでに計画生産を現場でよほど徹底しないと大変だということです。

 梶井 その点での各JAの反応はいかがですか。

 山田 地域では非常に心配していて計画生産にきちんと取り組もうという動きにはなっています。本当にJAの力が試されると思いますね。そのためにも地域水田農業ビジョンづくりにJAがしっかり役割を果たす、そこにかかっている。JAを信頼してもらい、JAとしてはせいいっぱい作った地域の特色ある米をそれをきちんと販売するという形をつくることが大きな課題だと思います。

■実態に応じた担い手育成を

対談風景

 梶井 担い手づくりでは、地域の状況に応じた地域営農の組織づくりをどうやるかが一番肝心のところだと思います。
 農水省の米改革施策では、集落型経営体でも5年以内の法人化を支援対象の要件にするなど形式的要件を押しつけすぎているのではないかと思います。現場の生産者の納得こそが大事で、担い手に任せるといってもそれが大前提になると思うんですね。

 山田 そのとおりだと思います。産地づくり交付金の使い方や集落型経営体の要件については県知事が地域の実態に合わせて判断するという知事特認の仕組みがあるわけですね。本当に地域の実態に合わせたビジョンを認めるようにさせなければならんと思います。
 そのビジョンというのも、自分たちの地域はこういう農業を実現するんだという絵をまず描くことが必要なわけですが、それもたとえば5年、10年という期間で実現していくという計画があっていい。そういった計画があればきちんと認めていくべきだろうと思いますね。

■経済事業改革 数値目標を掲げて具体的に行動を

 梶井 さて、今年の大きな課題として経済事業改革がありますね。これまでJA組織は方針は決定すれども実行せずという批判が多かったわけですが、どのように取り組まれますか。

 山田 たしかに決定すれども実行がともなっていないとの批判はありました。ただ、前回の大会から改革の進捗状況を三か月に一回、全中理事会に報告するという取り組みをしてきました。また、ホームページにも載せています。改革の実行状況を点検すると、どこが遅れている部分なのか、そして今後はどこに重点を置いて仕事をしなければならないかを議論できましたから意味はあったと思います。
 今回の決議ではさらに改革を確実に進めるために、大会決議のなかに全JAが取り組むことを最重点項目として決めました。同時に全国・県段階でも取り組むことを決め、各県から四半期ごとに、報告をあげてもらい、年2回ごとに理事会に報告することにしています。
 経済事業改革については、より焦眉の急なわけですから、改革の事業目標と財務目標をきちんと定めました(別表)
 これらはすべて数値目標と行動計画もともなったものです。とくに早急に経営改善を要するJAに対しては、全国段階、県段階の改革本部が一緒になって個別に指導を実施することにしています。このように今回は、数値を明らかにして、より具体的、個別的な取り組みをしてもらうことにしています。

■FTA交渉 アジアとの真の協力関係を問え

山田俊男JA全中専務

 梶井 さて、今年はFTA(自由貿易協定)交渉が本格化しますが、JAグループとしてどう対応しますか。

 山田 厳しい問題だと認識しています。WTO交渉では多様な農業の共存の実現に向けてフレンズ国と連携して交渉していますが、FTAは1対1の交渉です。わが国の立場は工業製品を輸出し、相手国は農産物を日本に輸出しようということですね。そういう構図のなかでFTA交渉が行われているわけです。
 基本は国民の食料の60%も海外から輸入しているのに、さらに外国から買うんですか、ということを主張していきますが、相手国からも国内からも、農業が交渉の妨げになっているとして農産物輸入を迫られるということですから容易なことではありません。
 しかし、明確にさせなければならないのは、今や国内農業はぎりぎりの線で維持しているということです。圧倒的な量を輸入している穀物は関税はすでにゼロ。高関税をかけているのは米のような重要品目や地域特産物といったわずか10品目程度です。こういう実態をきちんと示したうえで、重要品目については関税撤廃の特例措置を講ずることについて何の疑問があるのかという点で国内が一致し、それを相手国に主張していかなくてはならない。

 梶井 FTAを主張する経済団体も日本に農業がいらないわけではないとは言います。しかし、どのような農業をどのくらいの大きさで維持していくのかという議論がない。その議論があってこそ、どういうかたちで守るのかという議論もできる。

 山田 われわれも単に日本農業を守れと主張するだけではなく、国際競争に耐えられる農業に向けて制度や政策の転換を求めていくべきだと思います。
 大事なのはこの国の食と農を
どうするかを議論することです。交渉を始める前にわが国の基本的な姿勢を確立しておかなければならならない。それを抜きにしてわが国は貿易立国だから、という議論は問題です。JAグループとしてもそこをしっかり見据えて基本対策を打ち出していかなくてはならないと考えています。

 梶井 同感です。FTAを結ばないから何千億円も損しているんだというような話ではありません。得か、損かという形で議論すべきことではないということを主張すべきです。

 山田 東アジアの国々とのFTA交渉を考える場合、それぞれの国の農業者の利益になるのかという視点も大事だと思います。モンスーン気候の東アジアの国々は日本と同じ小規模な水田農業であり、しかも日本にくらべて圧倒的に貧困です。そういう問題をFTAで解決できるのでしょうか。利益を得るのは中間に介在する商社だったり、多国籍企業でしょう。果たして東アジアの農業者の所得向上につながるのかどうか。
 そういう点では、本当の農業発展につながるための協力こそが求められているのではないか。それは技術協力であったり、港湾などのインフラ整備であったりすると思いますが、そういう取り組みがなく単に貿易だけでは農村の貧困問題は解決しないと思います。
 それから日本にとっては農産物輸入は圧倒的に米国からですね。それを幾分かでもアジアにシフトし輸入先の多元化をはかればアジアへの貢献にもつながると思いますし、日本の食料確保の安定化にもなる。そういう議論がなされてしかるべきです。

■基本計画の見直し 農地制度と担い手支援策が焦点

梶井功東京農工大学名誉教授

 梶井 FTA交渉の前提として、日本としてどのような農業をどう維持していこうとするのかの議論が大切ですが、それが今回の食料・農業・農村基本計画の見直しだと思います。この問題についてのお考えを聞かせてください。

 山田 いちばん重要な問題は、水田農業をどうしていくのかという点だと思います。逆にいえば弱点が水田農業だということですね。
 この水田農業の問題はひとえに土地利用の問題ですから、土地利用の仕組みをどうするかです。これは年来の課題ですが、所有は個別でも利用を担い手や集落組織も含めた法人などにどう集中していけるか。今回の見直しのなかで、農地制度についていったいどれだけ踏み込めるのか。これは農業農村政策だけでなく、広くわが国の土地政策、国土政策にも関連することです。理念だけではなく、具体的な政策として展開できるかどうかにかかっていると思います。ここを避けないで議論していくことだと思います。
 二つめは、経営所得安定対策ですね。そしてもう一つは作物対策だと考えています。
 麦、大豆については助成金も含めて対策を講じていますが、ほかに水田でどういう作物をつくっていくのかも大事です。たとえば、乳用牛や繁殖用肉用牛のための粗飼料なり、飼料用米を生産する、同時に水田地帯にこれら大家畜をどう導入するのか、そういった点についての直接支払いなど支援策を、循環型農業の実現という課題と合わせて基本計画にすべきだと考えています。

 梶井 私は、自給という問題もしっかり議論すべきだと思います。最近はどうも自給という点について問題意識が薄れていると感じますが、基本法の成立時には国会修正で自給率向上を入れた。それが議論の大前提にならなければいけない。
 山田 ご指摘のとおり重要な問題だと考えています。今年はわれわれも改革の実践に取り組むことが重要ですが、同時に政策の転換も実現していく課題もあります。JAの結集力が問われる年だと思います。

 梶井 ありがとうございました。

対談を終えて
 “課題は多い年ですが、JAへの結集力が問われる年になると考えています”と専務は語られた。その通りだと思う。
 具体的に動き始めた水田農業ビジョンづくり、先行きのきびしさが予想されるWTO、FTA交渉、自給率引上げなど空文に終わりそうな食料・農業・農村基本計画の変更等々、どれ1つとっても難問だが、今年はその難問が目白押しになっている。その難問に自らの体質強化という問題をかかえながらJAは取り組まなければならない。“むら”のなかももはや一枚岩ではない。“JAへの結集力が問われる”所以である。しっかりした楫取りを期待したい。
 同時に、いうべきことは毅然としていってほしい。全頭検査を当然要求すべきアメリカのBSE対策について、農相は“外食関係(団体)から要望もある。そういうことも考慮しなければならない”と語ったという(03・12・27日本農業新聞)。ダブルスタンダードを認めるかのようなこうした発言を、そのままにしておくべきではなかろう。(梶井)
(2004.1.6)

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