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特集 第49回JA全国女性大会 農と共生の世紀づくりは私たちの手で

現地レポート 生き生き農村女性たち 女性が自立し輝けば家も村も明るくなる

一人ひとりが輝ける場を
JA南国市女性部(高知県)「かざぐるま市」と「豆腐を極める会」

◆市場では「破格の安値」でしか売れない少量生産の農産物

24坪と店は小さいが月1500万円販売する「かざぐるま市」
24坪と店は小さいが月1500万円販売する「かざぐるま市」

 「どれも瑞々しくて新鮮で美味しそうだから、ついついあれもこれもと両手で持ちきれないほど、たくさん買ってしまいますね」
 「2時過ぎだと品物がほとんどなくなってしまっているので、早い時間に近所に来たときは必ず寄りますよ。美味しくて良い野菜ばかりだから…」
 と、地域の主婦に大人気なのが、24坪と店は小さいが、1日平均500〜600人が来店し、月平均1500万円・年間1億8000万円を売り上げるJA南国市女性部の内部組織・直販部が運営する「かざぐるま市」(JA南国市直販店)だ。
 南国市は、高知平野の中心部に位置し、南は太平洋に面し北は四国山脈に連なる笹ヶ峰を起点とする緑多い山並みが広がり、年間平均気温16.2度、年間降雨量2288ミリと温暖多雨で日照時間が長い地域だ。こうした気候を利用して平野部では昔からコメの二期作を行ってきた。しかし現在は、JA南国市の販売事業取扱高約50億円の約8割をシシトウ・ピーマン・大葉・オクラなどの野菜や花卉類が占めているように、施設園芸を中心とする農業が行われている。
 減反率が55%ということもあって、多くの農家が野菜をつくりだしたが、生産量の少ない農産物は市場に出しても「破格の安値」でしか売れない。そのために生産意欲を失い自家菜園程度にとどまっていた。そうした生産者も「自分たちで作ったものを適正な価格で売りたい」という強い希望があり、一方で消費者には「農家が食べている安全で美味しい農産物を販売して欲しい」というニーズがあった。
 さらに、農業センサスなどで調査をしたところ、JA管内の販路不足農産物が年間8億8000万円もあることが分かった。

◆地域と組織に新しい風を吹かそう―部員倍増の「かざぐるま市」

 こうしたことを背景に、JA女性部では、地域農業と女性部組織の活性化をめざそうと平成7年に直販の取り組みについて検討を始める。その後、視察研修や学習会を積み重ね、9年に行政・JA・女性部による「直販店開設準備検討会」を結成し、JA理事会に直販店運営の事業計画を提案し承認され、女性部の内部組織として直販部を結成し、10年の2月28日に「かざぐるま市」を開店させた。開店にあたっては1200万円の事業費がかかったが、その内の半分は県と市の「こうちふるさとづくり推進事業」補助金でまかない、残りの600万円を直販部がJAから借り入れたが、開店2年ですべて返済することができたという。
 直販店名の「かざぐるま」は、風が吹かなければまわらないということから、女性部組織にも新しい風を吹かせ組織を活性化し、地域にも新しい息吹を伝えていこうという願いを込めて命名されたのだという。
 当初、122人だった直販部員が現在は倍以上の273人となった。さらに入部希望者が大勢いるが、店が狭いこともあって入部を受け入れできない状態だ。そのためJAでは、近く中央営農センターの一角に店舗を移転し約3倍の面積と増員を計画中だという。
 部員の年齢構成は、60歳代が40.9%ともっとも多く、次いで50歳代34.5%、40歳代9.9%、70歳代8.6%、30歳代5.2%となっており、80歳代の人も2人(0.9%)いる。60歳以上が5割強ということになる。
 出荷されるものは、野菜・果実が全体の66%と圧倒的に多く、次いで農産加工品22.6%、花卉・花木10%となっている。売り上げ金額は1人平均80万円弱だが400万円以上売り上げている人も数名いる(上記実績はいずれも14年のもの)。

◆安定した収入がやる気と生き甲斐を―多様な農業経営する農家が増加

 直販部員へのアンケートで71%の人が「家計の足し」になるから出荷しているというように、まだ「農村女性の経済的な自立」には達していないかもしれないが、たとえ少ない量であっても、かざぐるま市に出せば売れ、安定した収入が得られるので、やる気が生まれ生産意欲の向上につながってきている。同じアンケートで「生き甲斐」と答えた人が41%もあった。特に高齢者は生き甲斐が生まれて農業にいそしむことで元気へとつながり、また家族との絆が深まり協力し合っている。
 さらに、施設園芸・露地野菜・水稲・果樹・花卉花木・畜産さらに農産物加工品などを組み合わせた多様な農業経営をする農家が増えてきているという。まさに、かざぐるま市が地域の農業の活性化に寄与しているといえる。
 JAは道の駅に、JA直営の直売所「風の市」を開設している。こうした直販事業を通して地域とのつながりが深まり、地域農業・地産地消さらにはJAへの理解が促進され、社会的な信用が高まり活力が生まれてきている。

◆自主的に参加し楽しい組織づくりを―目的別グループ

古巻敏子さんと奴田原貴美さん
古巻敏子さんと奴田原貴美さん

 JA女性組織の活性化は全国に共通する課題だが、そのためにはかざぐるま市のように「一人ひとりが輝ける場」(依光ふみJA南国市直販部長・JA理事)として、「自主的に参加したくなる楽しい組織づくり」をと、JA女性部(岡田廣子女性部長)で検討し、14年度から自分たちがやりたいことを年齢に関係なく、同じ目的をもつ部員5名以上で、自主的に活動する「目的別グループ」が誕生した。直販部もこの目的別グループの一つで、その他にフレッシュミズ、趣味・文化、ボランティア、料理、健康・体操、農産加工、リサイクル、家の光記事活用グループなど32ものグループが楽しく活動している。その中の一つに14年7月に発足した「豆腐を極める会」(現在は「立田チャレンジクラブ」)というユニークなグループがある。
 このグループのリーダーである奴田原貴美さんは、高知県経済連に在職中に、女性としては全国で初めて「農業機械整備士」の資格を取り、定年退職後は150坪のハウスを2棟作り専業農家となるが、集落の女性部組織が2名にまで落ち込んでいることを知り15〜16軒ある農家を訪れ、女性部に入るよう説得、該当する10名全員に加入してもらうなど、何事にも前向きで積極的な人だ。

◆30歳代から80歳まで、非農家の主婦も参加する「豆腐を極める会」

38歳から80歳まで「豆腐を極める会」のみなさん
38歳から80歳まで「豆腐を極める会」のみなさん

 その奴田原さんが女性部の学習会で豆腐づくりに出会い「これは面白そうだ」と思い「豆腐づくりの道具をコトコトと揃えて」準備し、「豆腐を極める会」の結成を目的別グループとして呼びかけた。目的別グループは年間10回以上活動しなければいけないという決まりがあるので、最初の頃は1軒1軒「まわってお願いして集めた」が、いまでは30歳代から80歳まで幅広い年齢の12名のグループとなった。
 JA南国市女性部は、農家組合員の家族ではなくても加入できる。古巻敏子さんはそうした一般家庭の主婦で着付けの先生だが、女性部に加入し地区の役員をしているときに、奴田原さんから豆腐の会の話を聞き参加をする。
 古巻さんはこの会の魅力について「南国市の大豆を使った本物は素晴らしい。味が違う。38歳から80歳まで、同じ本物の豆腐を極めたいという目的が一つなので、活動は違和感なく、楽しい」という。そして、豆腐づくりを通じて「本物とは何か?に目を向けるようになったので、スーパーに買い物に行っても、いままでと見方が変わった」とも。

◆チャレンジした以上、売って人の評価聞きたい―豆腐が広げる新たな世界

 初めは思うようにできなかった豆腐も会を重ねるなかで上手にできるようになったし、毎回作り方を工夫して新しいものにチャレンジしている。さらに、毎回、会員の持ち回りで大豆を使ったおかずのレシピを考え提案することで、豆腐だけではなく大豆料理のレパートリーが広がっていることも魅力の一つだといえる。奴田原さんや古巻さんは、そうしてできた豆腐や料理を近所にも配り、その評価を次回に活かしている。
 そうして続けていけば「みんなが教えてくれるし、自分の知恵になる」。失敗もあるけれど、そうした「みんなの知恵を出し合った作業の後はスカッとした顔をして帰る」という。
 奴田原さんも古巻さんも「やるなら前向きにチャレンジし、極めたい」そして「チャレンジした以上、売って人の評価を聞きたい」と考えている。もしかするとこの春以降に、かざぐるま市で、奴田原さんたちが「極めた豆腐」が売られるのではないだろうか。そうなれば趣味から一歩踏み出すことになる。
 地域の学校や女性部の支部から「豆腐づくりの講師」の依頼もあるという。地元の大豆を使った極めつけの豆腐が、彼女たちに新しい世界を広げようとしている。
 豆腐づくりという12名の小さなグループ活動が、食の安全という命をささえる農の本質をとらえた活動へと結びつき、地域を巻き込んだ活動へと展開してきている。まさに「かざぐるま」のようになってきつつある。 (2004.2.5)



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