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特集:トレーサビリティの確立で信頼回復を
    14年度畜酪対策を考える

畜産・酪農経営と生産基盤の回復を
BSE・14年度 畜産・酪農対策の決定
冨士重夫 JA全中・食料農業対策部長

 3月末、BSE関連対策も含め政府は14年度畜産・酪農対策を決めた。BSE発生の影響をどう評価し対策を立てるかが大きな焦点だったが、加工原料乳補給金単価の引き上げや、乳用メス子牛確保対策創設なども盛り込まれた。JAグループの運動経過と今後の課題などをJA全中食料農業対策部の富士重夫部長に解説してもらった。

運動の経緯

◆日程延期の背景

冨士重夫氏

 年度末のギリギリ、3月29日になって、BSE関連対策も含めて14年度畜産・酪農対策が決定した。自民党は昨年の9月には畜産・酪農対策小委員会に西川公也委員長(栃木県選出)を決定し、畑作や水田農業対策など一連の決定を秋に集中して実施する予定で、政府・与党の検討・協議をすすめていた。
 我が国の畜産・酪農基盤を危機的状況におちいらせたBSE発生によって、BSE対策本部を立ち上げ、対策を検討し決定しながらも、当初は14年度対策の年内決着も考えた。
 しかし、BSEの2頭、3頭の発生、予想をはるかに超えた、生産からト畜、流通、消費にいたる事態の悪化等により、14年度対策は年明け以降に延期し、BSE対策を優先し、万全を期すこととした。
 年明け以降の14年度対策の日程は、当初2月中下旬を想定していたが、雪印食品の表示偽装事件、次から次に出る不正表示、消費者の食品の安全性、表示に対する不信の拡大、そして雪印乳業本体の経営悪化に伴う酪農・乳業の再構築の課題解決に迫られ、年度末ギリギリの3月下旬まで延期することとなった。

◆JAグループの取り組みの経過

 14年度対策については、昨年の9月には、いったん要求を決めたが、BSE発生以来、BSE対策に専念し、12月までの年内までに5次にわたる緊急要請運動を実施してきた。
 年明け以降、遅々としてすすまない廃用牛対策の生産から流通・消費に至る総合的対策の強化や、経営安定対策のさらなる抜本的強化などのBSE対策とBSEをきちんと反映させた14年度対策を求めて、1月24日には、「畜産・酪農経営危機突破全国要請集会」を開催するなど強力な運動を展開した。
 2月上旬には再度、BSE関連対策と14年度対策の要求項目の整理を行い、3月末へ向けた要請内容を決定した。また、生産・流通の危機的状況をふまえ、現場実態に基づく説得力ある要求とするため主産道県からの人的応援を得て、全中にBSE対策プロジェクトチームを発足させ、アンケートや緊急調査を実施し、具体的な考え方を整理しながら運動をすすめた。
 3月末の決定の山場においては、3月25日に与党に対する全国要請集会、武部農水大臣への要請、26日にも全国代表者集会を開催するなど、連日、畜産・酪農対策中央本部委員会の責任ある体制のもとで精力的な運動を実施した。

◆JAグループの要求内容と争点

 BSE関連対策関係の要求は、
 (1)消費・安全・表示対策として、BSE感染源の究明も含めた長期的かつ抜本的な需要回復対策、生産から流通・消費に至るまで一貫して監視できるトレーサビリティの仕組みの構築、実効ある監視体制や罰則強化などJAS法改正等の法整備を含めた表示の信頼回復対策。
 (2)BSEマル緊や子牛生産拡大奨励事業の強化や、配合飼料価格値上げ対策の特別補てん対策。
 (3)消費減少・価格低迷・出荷遅延の長期化などをふまえ、生産者の経営実態や肥育期間に応じたBSE金融対策の抜本的強化。
 (4)多くのと畜場が廃用牛の受け入れを拒否している実態に基づく廃用牛と畜場対策、またBSE発生の風評により、農家・地域経済に損害を与える風評被害対策。
 (5)肉骨粉在庫、死亡牛、病畜の処理をさらに円滑にすすめるための公共焼却施設等の肉骨粉処理体制の強化、牛専用レンダリング施設や焼却施設整備の対策等を求めた。

 14年度畜産・酪農対策関係の要求は、
 (1)牛肉安定価格、子牛生産者補給金制度の保証基準価格・合理化目標価格、豚肉安定価格などの食肉関係政策価格の現行堅持。
 (2)加工原料乳補給金の算定方式は変動率方式を基本とし、単価はBSEによる副産物価額の下落などの実態を適切に反映して引き上げ。
 (3)補助付きリース事業などのふん尿処理施設整備対策、たい肥の利用促進のための流通円滑化対策、稲ワラ・稲ホールクロップサイレージへの支援対策などの自給飼料増産対策、経産牛1頭当たり飼料面積の水準ランクごとに奨励金を交付する土地利用型推進酪農対策。
 (4)食肉処理施設、乳業施設への支援対策、余乳の集約的処理の共同の取り組みへの支援、広域配乳調整への支援対策、生クリーム・ナチュラルチーズへの生産振興対策などを求めた。
 こうした要求の中で特に争点となったのは、BSE関係では、マル緊等の経営安定対策の現場実態に基づいた算定の反映、経営に配慮した支払方法。BSE金融対策として、1年間のつなぎ資金がある中での新たな金融対策強化のあり方。BSE発生に伴い損害を被った地域経済に対する風評被害対策などであった。
 また、14年度対策にあっては、加工原料乳補給金単価のBSEの影響を色濃く反映した水準のあり方、北海道、都道府県を含め、酪農経営全体に対する経営安定対策のあり方などが大きな争点となった。

決定内容

◆14年度食肉政策価格関係

 食肉の安定価格は当然のことBSEの影響を除外して算定され、争点もなく据え置きと決定した。牛肉の安定価格据え置きは13年ぶりとなった。豚肉の安定価格のうち基準価格の据え置きは2年ぶり、上位価格の据え置きは9年ぶりとなった。これまで豚肉安定価格と地域肉豚生産安定基金の発動基準価格400円/kgとの隔離が問題とされてきたが、現在の豚価水準等から、これも現行据え置きとなった。

◆14年度加工原料乳補給金関係

 加工原料乳補給金単価は、BSEによる乳牛償却費、副産物価格等の直近の動向をどれだけ反映した水準とするかで大きな争点となった。40銭から60銭程度の途中経過の議論はあったものの70円台のコスト全体の1割程度のコストアップの実態が適正との判断で、70銭アップの11円/kgで決着した。算定方法は変動率方式により、生産費変動率1.0742、乳量変動率1.0062でトータルの変動率を1.0676とした。
 飲用乳も含めた乳価関連対策としての酪農経営全体に対する別途対策が大きな課題・争点として検討がすすめられたが、1頭当たり飼料面積に応じて奨励金を交付する土地利用型酪農推進事業の充実強化では、全体を通じた効果的対策とならないことから、別の視点に立った対策が求められた。検討の結果、円滑にすすんでいない乳廃用牛対策の後押しとしても機能し、BSE発生で縮小が懸念される我が国酪農基盤を確保する観点からも、乳用メス牛に着目した優良後継牛確保の緊急対策として乳用メス子牛を生産した場合の母牛1頭当たり3万円を交付する事業(総額予算89億5000万円)を創設することで決着した。要件として、(1)廃用牛の出荷計画を有し、出荷後の更新牛の確保が確実なこと、(2)メス牛の保留や導入繁殖が行われ、メス子牛を出産すること、(3)純粋種の種付け率がおおむね5割以上の酪農経営体とすること、などとなった。

◆BSE関連対策関係

 (1)BSE関係経営安定対策としては、BSEマル緊の継続(675億円)、子牛生産拡大奨励事業を4半期ごとの算定から毎月ごとの算定と支払いに改善して強化(178億円)、マル緊事業も同様に1カ月ごとに改善して強化(300億円)、子牛補給金も1カ月ごとに改善して強化することとした。
 また、牛用配合飼料価格の4月〜6月期の引き上げに対しては配合飼料価格安定制度の通常補てんとあわせ1300円/トンの特例補てんを実施し、農家の実質的負担を現行維持とした。
 さらに、BSE発生地域への風評被害対策として、当該地域への影響、態様などに応じた全国平均以上の収益低下への緊急補てん、出荷できない農家への経営維持対策、産地ブランドの消費回復対策・地場消費拡大対策など必要な支援対策を講ずることとし、その具体的仕組みや内容などを早急に詰めることとされた。
 (2)BSE金融対策としては、償還期限2年の無担保・無保証人での機関保証を伴った新たなBSE対応畜産経営安定資金が創設された。また、従来のBSEつなぎ資金については1年以内の元金一括償還が困難である場合は2年間を限度に償還期限を延長することも併せて措置された。
 (3)肉骨粉、死亡牛などの処理対策としては肉骨粉の焼却処分の経費の助成(168億円)、豚・鶏原料と区分して処理するレンダリングの牛専用ラインの設置等(41億円)、死亡牛のBSE検査施設、死亡牛の収集・保管処理施設への助成(19億円)などの対策が確保された。
 (4)その他、国産牛肉の需要回復総合対策(30億円)や、牛肉のトレーサビリティに関する事業や、BSEに対応した食肉処理体制の整備対策を確保することとした。

◆畜産・酪農関連対策

 ふん尿処理施設整備の補助付きリースなどや、たい肥の円滑な流通対策などの環境対策、稲ワラやホールクロップサイレージへの支援対策などの自給飼料増産対策。生クリームやナチュラルチーズに対する生産振興対策など畜産・酪農の生産・流通・消費に係わる関連対策として総額800億円の事業が措置された。
 前述のBSE関連対策の2064億円と合わせて全体で2800億円の対策費を確保することとなった。
 今後ともBSEによる我が国畜産・酪農経営や生産基盤の回復に向けて、生産・流通・消費の実態に応じた適切な対策をすすめていかなければならない。それはBSEの影響が除外されるまで、従前に回復するまで続けていかなければならない。
 また一方で、BSEを契機にして消費者に信頼される生産・流通システムや表示制度の抜本的改革、耕畜連携による資源循環型農業や環境保全型農業の取り組みなど、グローバル化している世界の中で、我が国畜産・酪農生産基盤を維持・確保していくための基本政策をもう一度再構築する対策に取り組んでいく必要がある。

平成14年度畜産・酪農政策価格の決定内容


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