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シリーズ JAグループに望むこと

「安心」もおいしさの大事な要素
生産者は自信をもって安心・安全な農産物を作って欲しい

森川 義明 (株)島屋百貨店事業本部
営業推進室商品政策担当部長

聞き手 原田 康 前農協流通研究所理事長

 いまデパートの地下にある食品売場「デパ地下」は、時代のニーズに応えた充実した品揃えで消費者の支持を得て活気にあふれている。なかでも老舗の島屋は高まる安心・安全ニーズに応えるため「全農安心システム」をいち早く導入し、さらにこれを拡大しようとしている。そこで、小売りサイドの立場から、いま生産者やJAグループに何を望んでいるのかを、商品政策を実際に担当し推進している森川義明部長に聞いた。

 原田 食料品の小売りにはいろいろな業態がありますが、デパートは文化の一つのレベルをつくってきていると思います。その中でも、老舗である島屋さんは新宿店のように非常にユニークなお店をつくられたり、日本橋店のように伝統のあるお店があり、多彩な事業を展開されていますね。そして、地下の食品売場は「食の市場」といいますか、大変活気があり、新しいデパートの魅力となっていますが、量販店とは違う売場づくりをどのようにされているのでしょうか。

◆先見性・稀少性・話題性が
  「デパ地下」のいのち

森川 義明氏
もりかわ・よしあき 昭和22年石川県生まれ。47年立命館大学経営学部卒。同年(株)島屋入社、58年関連子会社(株)島屋商事に出向、平成元年島屋国際事業本部香港事務所駐在、平成7年島屋香港有限公司社長、12年(株)島屋百貨店事業本部営業推進室商品政策担当部長、現在に至る。

 森川 確かにいま、デパートの食品売場が「デパ地下」といわれ脚光を浴びていますが、デパートの地下売場は大変に歴史があります。1960年代には品薄状態で「質よりも量」の時代でしたが、70年代になりますと余裕が出てきて「量よりも質」を大事にする風潮が出てきます。80年代はそれがさらに進化していきます。そのときにデパート各社が何をしたかといいますと「差別化」です。島屋の場合には、70年代くらいからフォションとかダルマイヤーやペックといった海外商材を取り上げました。
 1990年代はそれがさらに進化して、ただ単に味とか盛り付けだけではなく「環境を大事にする」という要素が入り、「本質の時代」になります。そのときにいろいろな老舗のブランドがテナントとして食料品売場に入ってきました。この時代が「デパ地下」の原点ではないかと思いますね。
 「おいしさ」には、味と素材と見せ方という大きな要素がありますが、2000年代になると、これに「安心・安全」が入り、これが、おいしさの非常に大きな要素になっています。

 原田 「デパ地下」と一言でいっていますが、時代のニーズに応えて変遷してきているわけですね。

 森川 お客様が「デパ地下」に求められているのは、先見性・稀少性そして話題性ですね。したがって「デパ地下」は新陳代謝が激しい世界です。要は、お客様のニーズを捉えそれを具現化する。ニーズに合致しなければ、お客様はいっさい来られない。見向きもされない。しかし、パッと合致したときには行列ができます。つまり結果がすぐに分かってしまう。これが「デパ地下」の実態です。

 原田 デパートにとって「デパ地下」とはどういう役割をもつ存在ですか。

 森川 集客装置の一つだといえますね。お客様に他のお店にはない、いままで味わったことのない食材を求めて地下に来ていただき、上の階に上がっていっていただく「噴水効果」が、「デパ地下」の使命ですね。

◆安心・安全に対する考え方を
  本質的に変えたBSE問題

原田 康氏
原田 康氏

 原田 「安心・安全がおいしさの要素」になってきたということですが、そうお考えになったポイントはなんですか。

 森川 いままでにも食品事件はO―157とかいろいろありましたが、当時は偶発的なことだとお客様は考えておられたと思います。ところがBSEの発生でお客様の「安心・安全」に対する考え方が本質的にガラッと変わりましたね。牛肉でいうと、うちの売場で50%近く売上げがダウンしましたし、とくにギフト関係が一気に減りました。このときを境に、お客様の購買心理がハッキリと変わり、安心・安全が担保されなければ、お買い上げにならなくなりました。それに対応するために、前から検討していた「全農安心システム」認証の宗谷牛を導入することにしました。
 ご承知のようにデパートでは、食料品は専門性の高い分野ですので、テナントとして、専門家であるプロに仕入や人の配置、売場運営を任せているわけですが、BSEではテナントさんも危機感をもっていて、積極的にこれの導入に賛成しました。

◆1〜2割高くても
  お客は安心なものを求める

 原田 商品政策を進める中で、これから全農はどういうところをポイントにしていく必要があるとお考えですか。

 森川 生産者の顔が見えることが、お客様第一主義である私どもには一番大事です。したがって全農さんには、安心・安全に沿った商品開発を第一にお願いしたいですね。そのためにはコストがかかり、商品単価が上がることもあると思います。それでも、島屋の場合には、通常よりも1割2割高くても、安心・安全が担保されるなら欲しいというお客様がいます。島屋だけではなく、他店でもこうした商品は大きな支持を得ていますので、私どもではさらにこれを強化していきたいと考えています。そして、生産者の方には自信をもっていただきたいと思います。有機とか減農薬というよりも、農薬を使っても「俺はこういう風に作ったんだ」と、すべてを詳らかにする方が、お客様も納得されます。「全農安心システム」では、どういう農薬を何回使ったかが履歴として追えますね。これを見てお客様は安心されるわけです。「信頼の回復」ということは、そういうことではないでしょうか。
 私は香港に10年間いましたが、4〜5月の雨季から乾季に変わる、春野菜の出るころになると必ず食中毒事件が起こるんです。そうすると私たち日本人は、1.5倍から1.8倍くらい高いんですが、香港にある日本のデパートで日本野菜を買うんですよ。なぜかといえば、日本の野菜や牛肉は、安心・安全だからです。いま海外から農産物が入ってきていますが、生産者の方が自信をもったモノづくりをしていただければ、いろいろな可能性があると思いますね。

◆焦らずに増やしていきたい
  「全農安心システム」の商品

森川 義明氏

 原田 いままでの流通ですと、農家は真面目に作っていても、情報が途中で切れてしまい消費者に正確なことが伝わらないので、格好ばかりつけて「見てくれ」だけがいいモノを作っていた面がありますね。そうではなくて、「全農安心システム」のように、正直ベースのものを生産者から売場まで途中で切らずに伝えることで、生産者が自信をもって作って欲しいということですね。

 森川 生産から小売りまでの流れがおかしくなっている部分があって、「見てくれ」だけになってしまっている面はあったかと思います。そこを全農さんが、私ども小売りと生産者の間に立って、完全なものにしていく役割があると思いますね。
 そういう意味で「全農安心システム」には、非常に期待をしています。

 原田 いま取り扱われている「全農安心システム」認証の商品はいくつあるのでしょうか。

 森川 牛肉、おコメ、お茶、シイタケの4品目です。

 原田 実際に生産現場にも見に行かれる・・・。

 森川 お客様のなかには、記帳が改ざんされていたらという方もいらっしゃいますので、生産現場に見に行き、確認しています。私も鳥取のシイタケや宗谷の牧場に行きましたが、鳥取の日本きのこセンターはすごい設備ですし、そこの指導によって丹精を込めて作っておられますね。宗谷牛の牧場も広大な牧場で、自然な空気と水と風がこういう健康な牛を育てるのかなと感じましたね。

 原田 これからもこうした商品を増やしていかれる・・・。

 森川 これからは、安心・安全が把握できる商品が一つの方向性だと思います。そういう意味で、いまは4品ですが「全農安心システム」の商品品目を拡大して、「安心システムコーナー」として10坪くらいの売場を打ち出せるようにできればいいなと考えています。
 そうはいっても、急いで広げて問題が出ても困りますので、あせらず、一つひとつ確実にやっていこうと思っています。全農さんもとにかく確実に、確実に、がもっとも大切です。

◆お客の立場に立って、すべてを
  透明にすることが大事

森川 義明氏

 原田 次々といろいろな問題が出てきていますからね。

 森川 食料品の場合には「黙っていれば分からないよ」ということがあるのかもしれませんが、それではいけないと思いますね。とにかく、お客様の立場に立って、すべからく透明に、クリアにすることが大事だと思います。先ほどもいいましたが、農薬を使っていても、どういう農薬を何のためにどれくらい使っているかを明らかにすれば、お客様は納得され、お買い上げになるんですよ。無理に無農薬とかにしなくても・・・。

 原田 無理をして無農薬とかいってもそのツケは大変高いものになりますね。効率性ばかりを求めると、人工的な条件をつくって狭い畜舎で多数を肥育し、コストを下げて単価の高いものをつくるという競争になりますね。そういうことをすると、農産物の場合は、必ずどこかで無理がきますね。安心・安全を追求していくと効率性を求めるものとは違うものになりますし、それを消費者に提供する場がないと、生産者も取り組みにくくなりますから、島屋さんのように売場をつくっていただけると、生産者も安心して、自信をもって作れますから、これが大事ですね。

 森川 生産者と小売りが一つの情報で結ばれる、それを実現するのが全農さんですね。
 いま「全農安心システム」の宗谷牛を取り扱っていますが、一番最初は高崎店、そして日本橋店、横浜店、大宮店と拡大してきました。今度、港南台店でも置きますので、関東で5店舗となります。牛肉の世界は、松坂とか神戸や近江というブランドは昔からありますが、新しいブランドはなかなか出てこない世界ですから、5店舗で扱えば新しいブランドだといえます。
 「安心ですよ、安全ですよ」と、その具体的な内容を全部お客様に開示できれば、お客様の満足度を満たすことができる。だから5店舗にまで広げることができたのだと思います。だから、生産履歴をふくめて情報を開示することは、非常に重要なことなんです。それが可能な商材があれば、お客様のニーズはありますから広がっていくはずです。

 原田 しかし、確実なものでなければダメだということですね。

 森川 そうです、確実でないものを扱えば、元も子もなくなってしまいますから・・・。ですから、全農さんとも相談して、年に一つでもいいから確実なものを広げていきたいと考えています。ある意味では完璧なものを求めますので、なかなか大変ではあるんですが・・・。

 原田 どうしても「見てくれ」で市場で高値をとれるものをと追求してきた歴史がありますから、考え方と技術を変えていかないといけないわけですから、時間をかけないといけないでしょうね。

 森川 日本農業が生きていくのは、その部分ではないでしょうか。値段とかで競争すれば中国とかに負けてしまいます。お客様は値段だけでなく、安心・安全なものを求められていますので、ぜひ、生産者の方々には自信をもってそういうものを作っていただき、全農さんにはその情報を私どもにつないでいただきたいと思います。

 原田 お忙しいなかをありがとうございました。




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