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シリーズ 農協運動の前進のために「農協改革」を考える ―


業務執行体制の強化はどうあるべきか
「経営管理委員会」制度の課題を探る

 本シリーズでは、昨年まとめられた「農協系統の事業・組織に関する検討会」の報告書と今国会に提出されている農協改革法案をめぐって、農協改革の課題を探ってきた。シリーズの4回目は農協組織の業務執行体制の強化のために導入が必要とされている「経営管理委員会」をテーマとした。今回は、三輪昌男國學院大学名誉教授と森島賢立正大学教授を中心に、全国連、県連、JAの役職員に参加してもらって議論した。その内容を紹介する。
やはり二重構造では? わかりにくい理事会との関係
委員会導入の4つの要点

  今回のテーマは、「経営管理委員会」です。まず最初にこの問題に関わる部分の農協法改正案の概要を確認しておきたいと思います。
 農水省のまとめでは、「組合員のメリットを大きくするための業務執行体制の強化」として整理されており、そのポイントは4つです。
 (1)信用事業を行う農協は常勤役員を3人以上置かなければならず、そのうち1人は信用事業専任とすること。(2)農協の常勤役員などの兼職・兼業規制の強化。(3)経営管理委員会に青年部、女性部、作目別生産部会の代表など正組合員以外の者も入れるようにすること。さらに経営管理委員会には、理事の選任権だけでなく代表理事の選任権も与えること、そして(4)連合会については経営管理委員会の設置を原則として義務づけすることですね。まず議論をする前に、経営管理委員会とはそもそも何なのか、なぜ導入されたかを改めて確認しておきたいと思いますが。
  経営管理委員会制度は、平成8年の農協法改正で出てきたものですが、この話は、われわれJAの経営に携わる者にとっては突然のことで、農協系統に必要だという意向がわれわれにあったわけではないと思います。
 そのころは住専問題で批判が厳しくなっていたときでした。
 三輪 住専問題では、外部から農協組織にはとくに金融事業のプロがいないと批判されました。そこで、農水省としてもそういう世論に応えるためにともかく手を打つ必要があると考えたのではないですか。
  農協系統に対しての具体的な提言となったのは平成8年の農政審議会の答申です。そこにすでに大蔵省の金融制度調査会が他の金融機関に対して示していた早期是正措置や兼職禁止規定、ディスクロージャーの必要性などの課題も同じように盛り込まれたわけですが、そのなかにどういうわけか経営管理委員会の導入という考え方が出てきたんですね。
  兼職兼業規制との関係で導入しようと考えられた面もあるのではないかと思います。経営管理委員は兼職は自由だから、この制度を導入すればJAの代表者が連合会の代表者にもこの制度ではなれるわけです。ですから、私は積極的にマネジメントを考えて構想された制度ではないのではないかと思っています。

監督機能と執行機能を分離 機構図

  ともかく経営管理委員会制度とはどういうものなのか、正確に認識しておかなければいけませんね。
  経営管理委員は総会で選任されます。役割としては、(1)業務執行に関わる重要事項を決定し、(2)理事を選任して、(3)委員会が決定した範囲、および委任された権限の範囲内での日常的業務執行を理事会と代表理事に任せる、というものです。経営管理委員は、現行の理事会の一般の非常勤理事と同様だと考えられています。
 三輪 つまり、意思決定・監督機能と業務執行機能を分けるということですね。そうすると、現実には、今までの理事会は学経理事だけで構成し、組織代表は経営管理委員会を構成するということになるわけですか。
  そうですね。信用事業やそのほかの事業も含めて競争が激しくなってくるから、経営の専門性や効率性を高める必要があるという問題意識があったんでしょう。実態としてはJA合併によっても学経理事はなかなか増えていないんです。
 ですから、職員の能力を高めて存分に能力を発揮してもらう仕組みが必要ではないかという発想があったんだと思います。
  兼職規定の関係でいえば、従来の組合長さんが経営管理委員会の会長になる。そうすれば先ほども指摘があったように連合会の経営管理委員会の会長にもなれる。
 三輪 欧米の企業で導入されているような取締役会と執行役員制度のような対応関係にするという話として理解していいのでしょうか。
  ところが、そこは明確ではないと思います。というのも、執行役員という位置づけは日本の現行法制上ありません。しかも法律上は現在の理事会はそのままにしておくわけですから、さらに経営管理委員会を導入するとなれば、経営管理委員会と理事会の関係は分かりにくく、やはり二重構造ではないかとも言えると思います。
 そもそもこの制度の導入は、今回の改正も含めてガバナンス論から発想されているわけではないような気がします。農協には経営の専門家がいないから法律上こういう仕組みをつくろうという考え方があったにすぎないと思います。ガバナンスの点から問題がある、したがってこういう制度が必要だという考え方ではなかったわけです。

自分達の農協ではなくなる

  この制度を実際に導入するとしたら、どのような問題があるとお考えですか。
  私は、今の理事会制度の方が合理的だという気がします。というのは経営管理委員会が非常勤の体制で別個にあったとしたら、執行役員のほうが何をやっても、現実にはとてもコントロールが効かないと思います。
 理事は毎日現場で仕事をしており、一方、経営管理委員は農家組合員であって毎日、自分の農業経営をしているわけですからチェックできるのか。選任権、解任権はあるけれどもふだんの命令権がないんですよね。月に1回ぐらい理事を呼んで状況を聞くぐらいでしょう。
三輪 現行制度の理事であれば日常的に発言できるわけですね。日常的な業務執行に対して命令権をもっているし、責任をもっている経営者ですから。
 それからこの制度には、現在の部長クラスを理事にするという発想があるようです。もし、JAの使用人兼務の理事でいいというのでしたら、その点で常勤理事3人以上という規定はクリアできるかもしれない。ただし、すべて非常勤の経営管理委員会は理事会をしっかり監督できるかという問題はありますね。
  私は、単協ではこの制度はなじまないと思っています。せいぜい県連レベルかなと考えています。その理由は、やはり組合員からすれば理事は、自分たちの代表であって、その人間が経験を積んで農協を運営していると受け止めているからです。つまり、非常勤理事であっても日常的な業務を担っているんだとみなさん思っていますし、それが、農協は自分たちが組織し自分たちが運営しているんだという意識もつくってきたんだと思います。
 しかし、経営管理委員会制度を導入すると、現場では経営から遠ざけられ、自分たちの農協だから自分たちで経営するという意識が分断されてしまうような気がするんですね。
 三輪 なるほど。協同組合の組合員は、組織者であり利用者であり、そして経営者であるという原則が崩れはしないかということですね。経営者が分離されて、自分たちは外から見張るだけなのか、それで本当の経営者といえるのかと。
  これまでは総代会・総会があって、そこで理事が選任されて理事会を構成をして、その互選で組合長を選任して、俺たちの農協をしっかりやってくれ、と託したわけです。
 しかし、経営管理委員会制度を導入すると、総会では経営管理委員を決めて、その人たちが業務執行する理事を決めて、さらに代表理事も選任して経営をいっさいまかすとなると、組合員からすれば、自分たちの意向が届かないところで物事が決められるという感じさえ持つのではないでしょうか。
経営管理面だけ強調 「組織運動」の観点がない

意思反映面で制度上も問題

 三輪 経営管理委員会の機能は、方針の意思決定と監督です。しかし、今の制度の場合は監督ではなくて自分たちが経営をしているという感じ方ができる。そこが違うというのが現場の感覚のようですね。
  その場合、逆に経営管理委員は経営に対して従来の理事よりも責任が軽くなるということになるのでしょうか。
  それは違うでしょう。今度の改正では、代表理事の選任権と解任権も与えられるわけですね。そうなれば、ただの監督ではなくて、業務執行に対する監督の責任が発生するのは当然と考えられます。
  その通りですが、ただ、そこは法律上問題があるのではないかと思っています。というのも理事会は理事会として残っているわけで、理事は相互に監督義務を負うわけですね。
 三輪 業務執行権と監督権は一体ではないか、ということですね。どう整理されているんですか。
  今のところ法律上は明文化されていません。業務監査権は理事会と監事が持っています。しかし、経営管理委員会には理事の選任権、解任権がある。これは意思決定のひとつですから業務執行を監督するという立場でなければおかしくなってしまう。監督権がないのはおかしいから、実質上はある、ということになると思いますね。
  今度の改正案では、経営管理委員会に正組合員以外でも入れることになっています。そこで青年部や女性部も代表を経営管理委員に出せるため、連合会に設置が義務づけられる経営管理委員会に入れるよう働きかけています。これはJAグループの経営に自分たちの意思反映をしたいというのが理由のようです。しかし、議論を伺っていると経営管理委員は、経営に対して相当の責任を負っているわけですね。
  そうです。意思反映のための単なる諮問機関というような性格ではありませんからね。意思反映ということなら従来の総代会、総会という場を活用すればできることになります。
  実際に業務執行を監督するとなれば、おそらく常駐して業務にあたらなければならないでしょう。そうなると実際に役割を果たせるのかという問題も出てくると思います。
 三輪 この問題に関連して指摘しておきたいのは、経営管理委員には正組合員以外を4分の1まで認めるということですね。しかし、農協の総会はすべて正組合員で議決するのだから、これは制度上問題があると思います。

理事会活性化になるのか?

  経営管理委員会制度を導入する狙いは、理事会の活性化を図ることと言われています。
  経営管理委員会を導入した場合の理事会は、非常に少数の理事で構成されるわけですね。法律では3人以上となっていて、たとえば、理事長、専務、常務とその他部長兼務の理事で構成できるわけですが、このメンバーは日頃から話し合って業務を推進しているわけです。ですから、理事会といっても確認するだけで議論がなくなってしまうのではないかと思っています。
  理事会が日常的な会議のような場になってしまう、と。
  そうです。それから同じ器のなかでの少人数の議論ですから、別の視点からの意見が出てこない可能性もあります。そういう意味では、現在の理事会は、各地域から理事が集まってきて常勤役員とは異なる視点からの意見も多く出ているのが実態です。
  たとえば、ある融資案件について検討するときも、非常勤理事さんのほうが地域の貴重な情報、つまり適格な案件だとか、問題ありとかの情報を持っていてそれを参考にして議論ができることもあるわけです。
  もうひとつ問題だと思うのは、経営管理委員というのは理事会の業務を監督するということですから、そうなると組合員や組織のほうをあまり向かなくなるのではないかとも思います。現在の非常勤理事は組織代表として組織を強化していく、その先頭に立つわけですが、この制度では組織運動が弱まってしまうのではないかということです。単協でも理事ががんばって経営をしているなということが分かるから、農協運動への結集の力になっていると思います。
 三輪 そうですね。確かに組織運動という観点がないんですよ、この制度には。
  本来なら、今後の組織運動をどう展開するのかということも論議されるべきだと思いますが、そこが抜け落ちてJAや連合会の経営管理という面だけが強調されすぎていると思います。
  この問題には、経営参画ということだけでなく農協運動という観点からの検討も大切だということですね。ありがとうございました。


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