農業協同組合新聞 JACOM
   

営農経済渉外員活動
その土地にあった作物振興と きめ細かな営農指導で
JA三重四日市(三重県)

若い後継者と対話をひんぱんに重ねる水野さん
若い後継者と対話をひんぱんに重ねる水野さん

 生産者の高齢化や担い手不足などによって農業基盤が弱体化する一方で、大規模化する生産者が増えJAの生産資材の取扱高が減ってくる。こうした状況をなんとかして大規模農家の信頼を回復し供給を取り戻したいと考えているときに、JA全農三重県本部から大規模農家対策として、農家に出向く営農経済渉外活動の提案があり、そのモデルJAとして手を上げたのがJA三重四日市のこの活動のスタートだった。スタートして2年弱だが、現在、どのような活動しているのかを同JAの山下昌美営農生活部農政・指導担当次長と実際に渉外活動を行なっている水野誠営農生活部経済課経済渉外係長に、JA全農みえの取り組みを同県本部営農対策部担い手対策担当の永作吉賢副審査役に聞いた。


どこでも誰でもやれること

◆米麦に変わる作物を探すために自ら栽培

 「誰でも、どこの農協でもできることをしているだけですよ。新聞に書いてもらうような特別なことはないですよ」。
 水野さんは取材が始まるとそういった。本当にそうなんだろうか?と思いながら話を聞いていくうちに、確かに誰でもできることだけれど、そこまでのモチベーションがある人はいまは少ないのではないかと思った。
 水野さんは入会当初、信用事業の担当だったが、その後、水稲と畜産が中心の支店の経済担当になる。そこで供給実績を伸ばすには、飼料なら頭数を増やすしかないし、水稲で8割程度のシェアをもっていたので肥料・農薬を伸ばす余地はあまりない。それではどうしたらいいのか。水野さんは「米麦から離れ、減反している田んぼで何かを作ってもらい販売高を伸ばしながら、肥料・農薬を伸ばしていこう」と考えた。
 そのために田んぼを借りて自分でキャベツの栽培を始める。また、同じ作物でも品種の違うものを何種類か植えて「四日市の土地に合った品種を探す」ことを始める。さらに、「楽に作るにはどういう肥料を開発したらいいか」と考えメーカーに四日市に合うものを開発してもらう。そのことで天候による影響や儲かるとか儲からないということを、身をもって知った。生産者もそういう水野さんの姿をみているから「あれをしてもえらいやなぁ」と話を信用してもらえるようになる。
 「彼はそうやって、支店時代に農家を引っ張ってきた」と山下次長と語る。だがそれは計算したものではなく、「普通のことだ」と水野さんはいう。そうやって「農家と一緒にレベルを上げてきたのだ」とも。
 当時を振り返って水野さんは「作物に対して欲があった」という。それは、隣接する地区が「すごい指定産地だったので、隣に負けたくない、勝ちたい、市場やスーパーの担当者に絶対いいといわせる日本一のキャベツを作りたい」という目標があったからだ。

◆大規模農家には個別対応が必要と全農みえが提案

 JA三重四日市では、生産資材については各支店に担当者がいる。しかし、冒頭に触れたように農業基盤が弱体化していることと、一部生産者の大規模化で規模格差が拡大し、大規模農家のJA離れがあって生産資材のJA取扱高が減ってきている。また、支店の担当者が若いことや水野さんのように自分で作った経験や知識が少ないために「買ってくれる人だけでいい」という感覚になり、農家に出向いていくことが少なくなっていた。
 そうしたときに、JA全農みえから「農家に出向く営農経済渉外員の設置について提案があったので乗った」のだと山下次長。
 JA全農みえは、経済連と全農の統合時に、県中央会との共通部署として大規模農家対策事業専任担当者を配置して取り組みを始める。その担当者が永作さんだ。
 14年7月に県内約100戸の大規模水稲農家へ聞き取り調査を行なったが「すべての農家がそれぞれ異なる多様な要望・意見をもっていたために、集約した事業対応は難しい。個別対応ができる体制づくりが必要だ」(永作さん)ということで、営農経済渉外員制度を導入するモデルJAを募る。そして、JA三重四日市、JA鈴鹿、JA津安芸、JA三重中央、JAいがほくぶの5JAがモデルJAとなるが、専任担当者を配置したのはJA三重四日市で、他JAは兼任でスタートした。

◆きめ細かな営農指導でJA利用率の向上めざす

 JA三重四日市では、農業の好きな職員で経験豊富な2名を水田営農中心担当と茶農家担当の専任担当者として配置した。
 そして、水田面積トップ100戸、茶経営面積トップ100戸をリストアップし、各支店の経済事業担当者と連携して計画的な巡回活動を行なっている。目標は、各農家の肥料・農薬のJA利用率を明確にしてこのパーセンテージを高めることだ。また、米農家については、米の集荷率を高めることも目標となっている。そして、肥料・農薬の注文はすべて支店の実績とされることになっている。
 前回紹介したJA常総ひかりの廣瀬さんもそうだったが、水野さんも各生産者のほ場がどこにあり、何をどこのほ場で作っているかを把握し、それぞれのほ場の土質まで分かっている。だから、今日会いたいと思えば、どこのほ場にいるのか分かるという。
 そして、「この田んぼは昨年転作して草が多いからこの薬を。こっちは転作しなかったし草が少ないからこっちの薬を」ときめ細かく生産者に勧めている。そのことで生産者から信頼され、確かな人間関係をつくり上げてきている。

◆若い職員の意識も制度導入で変わってきた

 JA三重四日市でこの制度がスタートしてまだ1年半、実績は「ぼちぼち」で本当に伸びるのは来年からだというが、米の集荷も含めて確実に成果をあげてきている。
 一方で、専業農家を対象にする予定で始めた「畑の学校」はいざ蓋を開けてみたら9割方は「家庭菜園のおばちゃん」が集まり、専業農家に負けないような野菜が作れるようになりJAの直売所で販売され「おばちゃん」たちに喜ばれているという。大規模農家だけでなく、JAの裾野を広げる役割まで果たしたことになる。
 そして「支店の雰囲気が変わり、積極的になった。いままでは水野という点だったが広がりがでてきた」と山下次長。水野さんはいまでも「農業は面白いし楽しい」と自分のハウスでさまざまな実験を行なっているが、毎朝、出勤前に寄っていく若い職員がいるという。「俺が5年かけて分かったことを、彼らは現物を見ながら話を聞けるんだからいいよな」というが、その目は若い後輩が育っていることを喜んでいた。そして別れ際に水野さんは「どこでも誰でもやれることをやっている。それだけです。そう書いて下さいよ」と記者に念をおすことを忘れなかった。
 大規模農家の信頼回復、家庭菜園のおばちゃんへの広がり、そしてJA職員の意識の変化など、営農経済渉外員の導入をきっかけに、いまJA三重四日市は大きく変わろうとしているというのが、取材を終えた実感だ。

(2005.12.27)


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