農業協同組合新聞 JACOM
   

営農最前線

原油高騰と農業

悲鳴あげる園芸施設農家
地域農業にも大きなダメージ


  2004年秋以降、原油の値上がりが続き、指標となる米国産標準油種(WTI)の価格が本年7月には70ドル台後半の最高値を更新した。しかし、夏場の需要期が過ぎたことや、米国でのハリケーン被害がなかったこと、中東産油国で安定した供給が見込めることなどの要因によりその後は値を下げ、9月20日には一時1バレル59.80ドルと約半年ぶりに60ドルを割った。
 しかし、中国やインドなど新興国のエネルギー需要は減少しておらず、石油精製施設などへの設備投資も増えていないことなど、価格高騰の構造問題は解消していない。市場関係者には原油価格の下落は一過性のものだとの見方があり、暖房需要の増える冬場に向けて灯油や重油等の価格高騰が再び起こるのではとの懸念がある。
 暖房用燃料にA重油を使用する施設園芸は原油高騰の影響をまともに受け、生産コストが上昇し厳しい営農を余儀なくされている。
 本紙では生産現場が今どのような状況にあるのか、生産者は何を望んでいるのかなど、生産者と施設園芸の盛んなJAに取材した。

燃料費が約2倍にアップ

◆燃料費は上がったが生産者手取りは減少

 茨城県でキュウリ40アール、花き(トルコギキョウ)7アール、イチゴ7アール、計54アールのハウス経営を行っているAさんに話を聞いた。
 Aさんはハウス加温用に年間62キロリットルの重油を使っている。AさんのJA管内でも重油価格は高騰しており(図の関東A)、3年たらずの間に2倍以上値上がりした。Aさんの年間の燃料費は、04年の210万8000円から06年の378万2000円へと約160万円も増えた。しかし、収入はここ10年近く1200万円台で推移し変わっていない。
 Aさんは1970年代の2回の「オイルショック」を経験した。「過去のオイルショックでは、燃料を節約したため品質に悪影響を与え、結果的に収入を大幅に減らした。品質を保つためには同一の条件が必要で、そのためには同じ量の燃料を使わざるを得ない」と、品質を維持するためには、燃料の節約は考えられないと語る。そのほかの営農経費も削れないので、燃料費の増加分は、自分たちの生活費を切り詰めやりくりして「なんとか凌いでいる」のが現状だ。
 「かなりの設備投資をしていることや、家族の生活を守るためハウス経営をやめるわけにはいかない。転作すれば解決するというものでもない。作型を変えるのは、一から新しい技術を覚えなければならないので自分には無理だ。幸い、息子が後を継いでくれているので、苦しくても二人で頑張る」とAさん。
 この地域では、約30戸が30〜40アール規模のハウス経営を行っているが、「Aさん同様、どの農家も経営的にはかなり厳しいが、家計をやりくりして凌いでいるのでは」とJAの担当者は語った。

A重油価格推移

◆営農・生活両面を直撃する原油高騰

 それでは、他の地域ではどうなのだろうか。
 A重油1リットルあたりのJA渡しの平均価格(図)は、04年1月38円、05年1月45円、06年1月64円、そして現在(06年9月下旬)71円となっている。04年1月から現在までの3年弱の間に約2倍近く上昇している。各JAごとに見ても、ほぼ同じ曲線になっており、地域差は少ない(図)。
 また、石油情報センター調べの灯油の全国平均店頭渡し価格(18リットルあたり)を見ると、04年1月798円、05年1月1011円、今年9月1648円と、同じ時期に灯油は2倍以上値上がりしている。ガソリンなど他の石油製品も同じような傾向にあり、施設園芸の暖房用に灯油を使う地域はもちろん、家庭暖房を含めて、営農・生活両面に大きな影響をおよぼしている。
 A重油の品目別使用量と燃料費を計算したのが(表)だ。
 品目や地域により使用量に違いはあるが、東海B農協のキュウリを例にとれば、10アールあたり使用量は10KLで04年1月の燃料費は37万円だったが、現在は75万円。10アールあたり38万円も増えている。また、四国C農協のピーマンでは、04年の96万2000円から195万円へと、98万8000円も燃料費が上昇している。

品目別10アール当たり重油使用量と燃料費の推移

◆260万円強のコスト増 省エネ対策では解決できず

 実際には、これに作付け面積を乗じたものが生産者の負担増となる。
 宮崎県でハウス・キュウリを100アール経営するSさんは、10アールあたり年間9303リットルのA重油を使用している。価格は03年の1リットル43円から、04年48円、05年65円、06年75円へと年々上昇し、今年は03年と比べ10アールあたり26万484円、100アールで年間260万4840円のコスト増になった。
 Sさんは、省エネ対策を行うと同時に、一部の作期をずらす(冬から春、夏へ)などリスクを分散して対応するとしている。しかし、「根本的な解決にはほど遠く、なんとかしてほしい」と訴える。
 一方、生産コスト増に見合う、価格上昇は見られるのか。
 農水省「ベジタブルレポート」によると東京都中央卸売市場の06年1月の1kg当たり平均価格は、「キュウリ」が423円で平年比(過去5年の月別価格平均値との比較)117%。「なす」331円で同88%。「トマト」308円で同93%。「ピーマン」498円で同99%と、キュウリ以外は価格が下がっているが、キュウリも含めて、A重油の価格高騰によるコスト増を価格に反映できず、生産者が負担せざるを得ない実態が見て取れる。

◆価格交渉や低金利融資 検討するJAも

 取材したJAや生産者は、すでに国や全農が推奨している「こまめな温度設定」などの省エネ対策を実施している。そのうえで販売対策として再生産のために必要な価格を各品目ごとに決め、大手量販店などとその価格を下限として契約交渉を始めるというところが2JAあった。これから契約交渉を行うので不透明な部分が多いとしながらも、出荷量の3割程度は『再生産できる価格』での契約をめざしている。
 また、輸送運賃を入札制として輸送費の低減をはかるJAや、2重、3重の覆蓋など省エネ対策を実施する農家に、その費用として300万円を限度に低利融資する制度を今冬から検討しているJAもある。

◆「国は直接的な支援を」 現場の切実な要望

 全農には、重油の安定供給、昨年実施したような何らかの助成措置、農水省(国)には、何らかの助成措置、価格高騰を回避するような対策、(省エネに向けた)補助事業による各種資材の導入などを求める声が強かった。
 しかし、農水省は「施設園芸を選択するのは個々の農家の経営判断」として、今のところ静観する構えだ。ただ、将来的には石油に大きく頼らなくても済むような施設園芸をめざし、19年度からガス燃焼により発生する電気・熱・二酸化炭素を利用するトリジェネレーションシステムや、農業用水を利用した小型水力発電等に対応した「施設園芸脱石油イノベーション事業」を実施する予定だ。しかし、この事業は3年間のモデル事業として計画しているため、実用化は不透明だ。
 また、5年で2割の食料供給コスト削減をめざす「食料供給コスト縮減検証委員会」でも、原油価格高騰に関するコスト増について検討する予定はない(農水省・野菜課)。

◆「5年後には半分の農家しか残らないだろう」

 原油価格が今後、現在の水準で推移したとしても04年と比べて依然として高値だ。もし、A重油や灯油の価格が下がったとしても、06年春の水準程度の高止まりではないかとの予測もある。原油価格の高騰が続くとしたら、園芸農家および地域農業はどのようになるのだろうか。
《後継者がいるため、離農する農家はないと思う。今後は燃料をあまり必要としない品目に切り替える生産者が増える。燃料費高騰がこのまま続けば、作付面積および所得の減少が予想され、地域は深刻なダメージを受ける》
《5年後には約半分の農家しか残らないだろう。また、施設園芸を続ける農家でも、燃料が少なくて済む品目に変えるようになる》
《直売所に持ち込む生産者が多くなる。しかし、直売所での販売はリスクが伴うため、生産者の安定した収入を確保するために、JAの販売力が問われる》
というのが現場のJA営農指導員の声だ。
 生産現場では、コストを低減するための努力が積み重ねられ、一定の成果が見えてきている。しかし、その努力を吹き飛ばす燃料費の高騰が今後も続くようであれば、施設園芸の現場から多くの人が退場し、取り扱う品目も様変わりするなど、地域の農業が大きく変わる可能性がある。

◆施設園芸だけではなく農業全体の問題

 今回はA重油に焦点を当てて施設園芸を見てきた。しかし、農業の現場では、燃料以外にも石油製品を多く使用しており、原油高騰の影響が農業全体に大きな影響を与えている。
 農水省の「農家経営統計調査 個別経営の四半期収支(18年第1四半期)」によると、「光熱動力」は前年同期よりも23.4%増加しており「農業経営費は…光熱動力、飼料等の支出が増加したことから4.4%増加した」としている。また、米についても、17年産米の生産費はほとんどの項目で16年産米より低減しているのに「光熱動力費」は10アール当たり8.3%も増加している(農水省「農業経営統計 平成17年産 米生産費」)。というように、施設園芸だけの問題ではないということも、シッカリ認識すべきだ。
 国はカロリーベースの自給率を27年度までに45%に引き上げるという。そのためには、生産現場を直撃するこうした事態に的確に対応する施策を早急にとるべきではないだろうか。

 


(2006.11.6)


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