農業協同組合新聞 JACOM
   

シリーズ 韓国の米問題(3)

米の流通と高品質化

北出俊昭 前明治大学教授


◆米の流通経路

 最初に、最近時の米流通形態を示すと図の通りである。これは金堤、唐津、平澤の3産地からソウルへの流通を総合したものである。この事例の3地域総合では、生産者が販売する米の割合は、産地組合40%、政府買上17%、産地流通業者(精米業者)37%のほか直売が6%となっている。韓国でも米流通形態は多様化し、米政策の転換はこれを促進しているので、最近、民間の流通量が増加する傾向にある。なお、この図で産地組合と政府買上が分かれているが、政府買上の実務はほとんど産地組合が行っている(後述)。
 韓国の米流通で注意すべきことは、産地組合、政府買上ともに生産者との関係では、わが国とは異なり、「委託販売」ではなく「買上げ」なことである。その意味では産地流通業者や消費者への直売と同じである。
 これを前提に、流通割合は検討する余裕はないので、図の経路にかかわる業者について簡単に説明する。産地組合(以下「農協」)は生産者から米を籾で買入れ、籾すり・乾燥・精米して卸売業者などに販売する。韓国でも従来からの伝統的な小規模精米所や乾燥貯蔵だけの施設(Drying and Storing Centers. 以下「DSC」)が存在するが、最近、より高性能の米総合処理場(Rice Processing Complexes. 以下「RPC」)が増加している。これは、近年増加している高品質米需要に応えるためで、農協、民間業者に限らずその整備が進んでいる。なお、政府買上米については、農協は政府の指示に基づき貯蔵・販売することになる。
 産地流通業者も生産者から籾を買入れるが、DSCやRPCを整備している業者は、そこで農協で述べたのと同様な処理をして米を販売することになる。
 農協や産地流通業者はこうして調製した精米を卸売業者に販売するが、流通形態が変化するにしたがい卸・小売業を一緒に営む業者が増加している。また、小売商のなかでも大型のディスカウント・ショップやマート、百貨店などの大型流通業者の取扱量が増加する傾向を示している。と同時に、外食産業、団体給食業者、食材業者など、一括大量購入業者も米流通・消費で重要な役割を担うようになっている。

米の流通経路

◆高品質米需要とRPC

 韓国でも高品質米への需要が高まっているが、そのために重視されているのがRPCである。前述したように、このRPCは生産者から買い上げた籾を乾燥・貯蔵・精米する施設で、農協、産地流通業者はこうした処理を経た上、精米を販売する。持ち込まれた籾の保管などのサイロや簡易集荷場、販売米の保管場なども併設されており、わが国のカントリエレベーターやライスセンターと似ている。
 販売は農協別、地域別にブランド名が印刷された20kgの米袋の利用が多いが、消費者のニーズに合わせ3kg、4kg、5kg、10kgなど、多様化している。また、近年親環境農業が重視されているので、米についても生産段階と同時に自然乾燥・保管などの取り組みが強まっている。品質も含めたこうした農協別・地域別の販売の多様化が競争を激しくし、流通経路の多様化を促進することにもなっている。
 一例をあげれば、ソウルから特急で4時間半のところに所在する南原市・南農(ナンノン)営農組合法人では、RPCで普通に乾燥・貯蔵・精米する「一般米」のほか、特別高品質のチュンヤング米(地元民話にでてくる娘の名前)も販売している。そして「一般米」は4kg、10kg、20kgの3形態であるが、チュンヤング米はそのほか800gと40kgを加えた5形態の販売となっている。当然チュンヤング米は特定ルートで、生協、農協など特別な需要者に販売されている。
 現在、RPCは農協系202カ所、民間系132カ所の合計334カ所あり、米の品質向上に重要な役割を果たしているが、一方では米の生産と流通を統一し、労働力節減による米産業の競争力強化を促進する要因ともなっている。RPCの整備を通じて規模拡大と生産費節減についての生産者の認識も深まったという意見も聞かれるのである。
 ただ、それだけに課題も多い。その一つが経営問題である。いま農協系のRPCについてみると、05年でほぼ半数の92カ所が赤字といわれている。その原因はいうまでもなく競争の激化で、とくに農協系RPCは生産者を考慮して利益最優先ではないので、価格や取引条件は民間に比較して経営にとっては不利な内容になるという。RPCの売上金に対する利益率の推移をみると、99年2.6%、01年0.8%、05年0.67%と(韓国農協中央会調査)、近年では年々低下しているのである。
 このため、現在行われている生産者からの「買入制」を、わが国と同じ「委託販売制」に変更した方がよいとする意見もみられるようになっている。「買入制」では米販売の利益・損失はすべて農協内部の問題となるが、「委託販売制」では生産者にも関連し、損失が予測されるような状況では、生産者にもその一端を負担させることが可能となるからである。これが実施されるとすれば、韓国の米流通システムは根本的に転換されることになる。

(2007.4.12)


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