【コラム・森田実の政治評論】安保法案衆院通過報道に重大な欠落 「日米同盟の重大な変質」2015年7月30日
2015年7月16日の『毎日新聞』は、安保法案の衆議院特別委員会における可決に関する韓国、中国、米国の反応を伝えました。見出しは「韓国は静観」「中国、抑制的」「米国は歓迎」です。韓国政府は中立的、中国政府は安倍政権の安保政策に強い懸念を抱きながらも冷静な対応を心がけています。日米同盟を刺激しないように注意しています。
「井の中の蛙大海を知らず」(荘子)
◆安保法案衆院通過海外の反応を見る
米国政府は大喜びしています。米国政府と議会は安倍政権による防衛政策の転換を強く要求してきました。7月15日の衆議院特別委員会での可決は、安倍首相が4月に米議会上下両院合同会議での講演で示した「夏までに成立」という安倍首相の対米公約実現の第一歩と評価しています。さらに7月16日の衆議院通過について大喜びしています。
しかし、これはあくまで表面的な見方です。中国政府は、安倍内閣の安保法制整備は中国の発展を止めるための日米軍事同盟の強化であり、米国政府が主導する対中国・米日豪比軍事同盟の形成だとの厳しい捉え方をしています。中国の知識層の間に、安倍首相は必ず中国を武力で攻撃してくる、との見方が急激に広がっているようです。これは中国通の友人の情報です。中国の指導層のなかに、安倍政権の対中国軍事行動への警戒感は高まっています。私は、6月末に中国にいましたが、中国指導層の厳しさを痛感しました。
現在の世界情勢を動かしているのは、力が低下しつつある米国の挽回・復活へのもがきだと私は思っています。米国政府の政治、軍事、経済の力は相対的に低下しています。もはや一国ではかつてのような世界の警察としての役割を果たすことができなくなった状況を、日本政府の下請け化によって克服しようという復活への願望・執念が米国政府のなかに芽生えているのです。安倍内閣は、日本政府を政治的、軍事的、経済的に米国政府の「下請け」にしようとしているのです。 米国政府にとって安倍内閣は、ありがたい「従米政権」です。米国政府は、安倍首相が去る4月の訪米において日本の自衛隊が生命をかけて米国を守ることを誓った、と捉えています。米国にとってこれほど嬉しいことはないと思います。安倍首相は、日本国民の利益よりも米国政府の利益を優先する、米国政府にとって可愛い政権なのです。国民は安倍政権への姿勢を変える必要があると思います。
◆戦後日米関係史と安倍政権の位置
1945年8月15日の敗戦とともに、日本は米軍の占領下におかれました。第二次大戦に向かって暴走した当時の大日本帝国の指導者の罪は計り知れないほど大きいのです。当時の日本を破壊し国民を不幸にしただけでなく、永遠の従米国にしたのです。戦後の占領体制は、建前上は連合国の日本支配ですが、事実上の支配者は米国一国でした。 敗戦後の連合国と日本政府との課題は、日本政府が受諾したポツダム宣言が示していました。そこには日本政府の課題だけでなく占領軍の責任も記されています。それは、日本政府がなすべき義務を果たしたとき、占領軍は日本から直ちに撤退するというものです(ポツダム宣言12項)。しかし、米占領軍にはポツダム宣言12項を実行する意思はありませんでした。米占領軍はポツダム宣言を無効化する努力をしてきました。そして、日米安保条約によって日本を永遠に占領し続けることにしたのです。
戦後70年間に今の安倍政権まで34人の首相が登場しました。このうち、今の安倍首相のほか、吉田茂だけが再登場です。33人の政治家が首相の地位に就きましたが、彼らの最大の課題は日米関係でした。米国に従順な政治家は長期政権を実現しました。吉田茂、岸信介、佐藤栄作、中曽根康弘、小泉純一郎です。
今の安倍首相も長期政権になる可能性があります。米国に抵抗した政治家は短命に終わりました。片山哲、芦田均、鳩山一郎、石橋湛山、田中角栄、鈴木善幸らです。
歴代首相のなかで米国政府に最も忠実だったのは吉田、岸、佐藤、中曽根、小泉の5首相ですが、今の安倍首相は、「忠米度」で、この5首相を超えようとしています。安倍内閣は、近代国家の基本である「法の支配」を否定する解釈改憲という非道を行い、米国政府が悲願として日本政府に要求し続けてきた集団的自衛権の行使容認に踏み切ったのです。これによって日本の自衛隊は、米軍の下請け軍隊の役割を担うことになるのです。
戦後70年間、米国政府の対日政策を見てきた一人の観察者として率直に言えば、米国政府の対日政策には日本への「愛」などない、ということです。米国自身の国益へのあくなき追求のため日本を利用するだけだということです。安倍首相は、日本を米国政府の下請け国家にしたのです。この罪は取り返しのつかないほど巨大です。
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