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【小松泰信・地方の眼力】全方位等距離外交への道2017年4月19日

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【小松 泰信 (岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授)】

 ある県のJAグループ関係者と懇談した時の話。これまでの自民党一辺倒のやり方では、JAグループにとっても農業にとっても展望はないので、これからはすべての政党、つまり全方位での農政活動を目指す。ただし、これまでの歴史的経緯をふまえ、距離感には違いが出ざるを得ない。ゆえに、等距離ではなく「不」等距離外交とのことである。はじめの一歩ということであろう。

◆早急に野党統一農業政策づくりに着手すべし

 だとすれば、野党には等距離外交を目指した、距離を縮めるための努力が求められる。具体的には、JAcom「正義派の農政論」(4月3日)で森島氏が提起した、野党統一農業政策づくりへの早急な着手である。本紙による、自由党小沢代表日本共産党志位委員長、そして民進党玉木幹事長代理に対するインタビューからは、皆が統一農業政策づくりのテーブルに着くことには何の障害もないことが伝わってくる。そもそも野党は、共闘する方向で歴史的第一歩を踏み出している。当然、農政のあり方についての検討も不可欠である。
 問題は、全中をはじめとするJAグループの全国段階にある。彼らは、政権与党から受け続ける激しいバイオレンスによる被害者であるにもかかわらず、加害者である政権与党の推薦や支持を表明してしまうという、まさに組織的ストックホルム症候群に陥り、正常な判断ができなくなっている。しかしDV被害者の悲しい結末が教えているように、今のままでは嬲(なぶ)り殺しにされるだけである。止まるも地獄、進むも地獄。仏と会える可能性が高い地獄はどちらであるか、冷静に考えるべきである。答えは明らかである。機は熟しつつある。何よりも、JAグループに躊躇っている時間はない。

◆野党農政通への期待

 農業競争力強化支援法に対して、「私が反対する1番の理由は、本法案が農林水産省の官僚が考えたものでも与党の自民党・公明党が考えたものでもないことにある。官邸に設けられた規制改革推進会議が注文をつけていやいや出来上がったものである。いわば『二人羽織』法案である。もっといえば農林水産提出ではなく、規制改革推進会議提出法案なのだ。目的は一つ、農協、特に全農から、農業生産資材の仕事を奪わんとする悪い意図があるだけだ。...全農は農民の立場に立って、寡占状態になった農機具業界と交渉して、少しでも安く提供するのに大事な役割を果たしてきたのである。もし全農がなければ、もっと高い農機具を買わされていただろう。それを全農に代わって企業がもっと強欲に農民を儲けの種にせんとする邪悪な法案なのだ。アベノミクス農政は農業所得を減らし、経済界に儲けさせる『羊頭狗肉』農政である」と、斬り捨てるのは篠原孝議員(http://www.shinohara21.com/blog/ 4月13日)。さすが、民進党における農政の第一人者。
 ここまで言ったら、同法案が本会議で衆議院を通過したことを受けて、「多勢に無勢で数の力はいかんとも覆しようがない」と嘆くのではなく、野党の心ある農林議員をリードし、統一農業政策づくりにむけて一肌脱ぐことを期待したい。

◆アメリカ農業を頼るなかれ、目指すなかれ

 柴田明夫氏は、米農務省が11日に発表した〝2016~17年度の世界穀物需給見通し〟から、米国農業に潜むもろさを示している(日本農業新聞、4月17日)。米国の今世紀に入ってからの、小麦から、もうかるトウモロコシ、大豆への作付転換の進展より、「いまや作付け方式は大豆かトウモロコシに特化してきた。それだけ穀物生産は異常気象など環境変化にもろくなっていないか」と、その不安定化を指摘する。また、同省による農家の純所得(政府支払い除く)が13年の1356億ドルから16年は715億ドルへと半分近くにまで落ち込むとの見通しにより、経営状況の悪化に注目している。その要因として、遺伝子組み換え作物種子や情報通信技術(ICT)を活用した精密農業への設備投資コストがかさむことと、「経営自体が情報企業など外部に委託し、自由な経営判断がままならなくなったという話も聞く」ことをあげ、「大規模化・情報化することによって、農家の心配も大規模化している」と結んでいる。
 アメリカ農業に多くを依存するとともに、モデルとしてそのあり様を追いかけることの先に待ち受ける、二度と抜け出し得ない大きく深い落とし穴の存在を強く意識しておかねばならない。

◆求められるJAグループの積極的関与

 柴田氏の示唆に富む分析から、わが国の国土と歴史に馴染んだ、国民に持続的に受け入れられる農業政策の必要性は明らかである。野党統一農業政策の要諦は、この一点に集約されるといっても過言ではない。
 日本農業新聞(4月16日)の論説は、同紙が行った農政モニター直近調査での、「安倍内閣の農業政策を評価しますか」の問いに、評価する28.9%、評価しない63.7%であったことから、安倍農政への評価失墜としている。ところが支持政党については、自民党44.2%、支持政党はない35.9%、野党4党(民進、共産、自由、社民)17.7%。農政で期待する党については、自民党40.7%、期待する政党はない33.9%、野党4党22.2%。いずれも自民党のひとり勝ちである。
 野党共闘に否定的な人の存在と、農政モニターが対象であることから、楽観的な予測は控えねばならないが、JAグループが積極的に関与して、農業者はもとより消費者に超長期的な視角から責任を持つことを謳う統一農業政策が提示されるならば、3割強にも及ぶ「支持政党はない」や「期待する政党はない」は大きく動く。そもそも前代未聞の取り組みゆえに、国民の少なからぬ関心を集めること間違いなし。
 しかし野党4党のこの取り組みに、JAグループが他人事の姿勢をとるならば、全方位等距離外交はおろか、農業者、消費者、そして未来への責任、それらすべてを放棄した、いまだけ、自分だけの組織であることを宣言することになる。
「地方の眼力」なめんなよ 

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