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【小松泰信・地方の眼力】人生100年時代構想を嗤う2017年11月1日

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【小松 泰信(岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授)】

 「芸人にとっては、バカであることが武器になる。だけど、社会全体がバカになったら、やっぱり困っちゃうよね。日本はかつて真珠湾攻撃とかインパール作戦とか、バカとしか思えないことを国を挙げてやっちゃった過去がある。時としてこの国は、社会全体が阿波踊りのような状態になって、バカ踊りしちゃうから油断ならない」(ビートたけし『バカ論』新潮新書、2017年)

◆やっぱり土下座ですか

 これも後の祭りのバカ踊りであろうか。佐賀新聞LiVE(10月25、26日)によれば、全国的には自民大勝の中で唯一小選挙区全敗だった佐賀県の自民党県議は、予算獲得や政策実現への影響を挙げ「0勝の非は認め、きちんと反省する。後は国に土下座してでも、今まで以上に汗をかかなければ、本当に存在感がなくなる」と危機感をあらわにしたそうである。「規制緩和を進める安倍農政への反発や、15年の知事選のしこりも引きずった県農政協議会は、自主投票を決めた」ことや、「建設業界も『従業員は減り、以前ほどは人を出せない』という状況」で、今回の結果の予兆はあったはず。土下座するからつけあがる。悪いのは政権与党の政策であり、驕り高ぶる姿勢である。自主投票を決めた農業団体にも農業者にも、何の問題もない。

 

◆刺さったトゲで踊れない

 しかし土下座したくなってもおかしくないのが現政権の姿勢。何せ、安倍1恐ですから。
 新聞各紙が伝えているように、衆院選後の記者会見で「謙虚な姿勢で真摯な政権運営に全力を尽くさなければならない」と述べた舌の根も乾かぬうちに、首相は、寵愛する萩生田幹事長代行に、国会質疑で野党の質問時間を減らし与党に振り分けることを指示している。もちろん反対する野党に対して、会期延長を交換条件に話し合うとのこと。やはりお得意の抱き合わせ販売。〝国難〟という極めて由々しき状況下にあって、実質3日間の国会開催など論外のはず。まして、身内である与党議員の援護射撃的質問など時間の無駄。「質疑を通して政策の問題点や閣僚の不祥事をあぶり出す役割は主に野党が担っている」(日本経済新聞、10月31日)ことからも、陰気な番頭菅官房長官の「議席数に応じて質問時間を配分するのは、国民の側からすればもっともな意見だ」との意見は、〝まったく当たらない〟。故に、時間配分についても譲るべきではない。
 支持者からは〝多くの国民に信任されたのですから、もっと堂々としてください〟という意見もあるはず。
 踊りたくても踊れない理由について、自民党長老から「政権深く突き刺さったトゲが、邪魔して動くに動けないに尽きる」との言葉を聞き出した野上忠興氏は、いわゆるモリ・カケ問題をトゲ、としている(日本農業新聞、10月31日)。「トゲが邪魔なら、自分で抜け」、これこそが国民の側からすればもっともな意見だ。違うか、陰気な番頭はん。
 ちなみに小泉議員も街頭演説で、「加計学園の問題を含めて、なぜ、いま解散をしたのかを含めて、誰が説得力のある説明をすることができるかといえば、安倍総理以外にいない」から、「逃げずに受け止めて」と言っていたではないか。

 

◆見返りは利益誘導

 もちろんご本人、そんな気はさらさらないはず。逃げの一手を支えているのは、経済界との強い絆か。
 24日の日本経済新聞によれば、榊原定征経団連会長は、23日首相官邸で首相と会談した際、安定した政権基盤を生かし「痛みを伴う改革も推進してほしい」と要望し、社会保障改革が重要だと訴えたそうだ。「痛みを伴う改革」なんて簡単に言うよな。自分は痛くも痒くもないからこそ言えること。許せない問題発言である。
 そして、経団連は会員企業に政治献金を呼びかけたそうだ。献金先や金額を決める材料になる各党の政策評価では、自民・公明両党について「高く評価できる」との考えを示すとともに、「痛みを伴う社会保障改革と財政健全化などに一層強力に取り組むこと」を忘れずに記しているそうだ。神戸製鋼所、日産、スバル、東芝...、さぞ弾むことでしょう。忖度と損得。
 この会長、政府の看板政策「人づくり革命」を議論する「人生100年時代構想会議」の民間議員にも名を連ねている。
 首相は27日、教育無償化・負担軽減と待機児童対策など2兆円規模の政策パッケージの財源に関して、選挙によって消費税増税分1.7兆円のめどが立ったため、「産業界においても3000億円程度の拠出をお願いしたい」と、異例の無心。これに会長は「従業員が活用できる事業なら応分の協力はすべきだ」と負担増を容認した。「ただ利益の改善が遅れている中小企業の経営者にとっては賃上げも拠出金の積み増しも負担感が重く、事業の足を引っ張る可能性もある」と、記事は記している(日本経済新聞、10月28日)。
 それにしても太っ腹な大盤振る舞い。選挙での大勝利へのタニマチからのご褒美ではあるが、決して無償の愛ではない。
 ソロバンはじいて〝見返りは利益誘導〟ですよね。

 
◆冗談じゃないよ!〝しごきの経済〟

 農水省に勤務していた知人から聞いた話。ある意見交換会で、日銀支店長が「気付いていない人が多いみたいですが、アベノミクスって、しごきの経済なんですよね」と言ったそうだ。知人は「しごき」という表現が、米国、中国、新興国などに伍してグローバル化に対処していくには、これらの国を上回るくらいに働かなければならないことを意味しているものと受け取ったそうだ。その解釈だと合点がいくことが多い。
 「人生100年時代構想会議」の第1回議事録によれば、「人生100年時代を見据えた人づくり革命は、安倍内閣が目指す一億総活躍社会をつくり上げる上での本丸であり、生産性革命とともに、これからの安倍内閣の最大のテーマであります」と首相が語っている。少子高齢化社会においては、早く老けこんでもらっては、カネが出る一方で困る。働かざる者食うべからず、ということである。榊原会長による痛みを伴う改革とは、「社会保障費の一層の抑制」を含むものと考えてよい。しかし、「ただでさえ高齢化で医療や介護の費用は増加が見込まれる。政府は所得のある人の医療や介護の保険料負担増や自己負担の引き上げ、低所得者向けの負担軽減措置の見直しなどを相次いで実施している」(毎日新聞、10月28日)。この状況下での抑制は、多くの国民にさらなる痛みを強いることになる。
 何のための、誰のための痛みなのか? 奴らに、だまされるな。油断するな。
 農業においては、高齢者が食料などの生産と多面的機能の創出に多大な貢献をしている。しかし議事録を隅から隅まで読んだが、この点に関する言及はなされていない。もちろん精通した有識者も入っていない。担い手重視、産業政策重視の安倍農政において、高齢農業者は遅れた産業、成長できない産業を象徴する〝排除〟すべき存在となっている。
 地域の自然と一体化し、いぶし銀のような光を放つ高齢農業者を意識の外に置く〝人生100年時代構想〟は権力者の戯言。
 ビートたけしが演じた鬼瓦権造なら、「冗談じゃないよ!」と怒りのギャグを飛ばしてこう続ける。
 「地方の眼力」なめんなよ

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