【衆議院選挙2017】「国難突破解散」の真相 利益得る米軍と安倍首相2017年10月12日
安倍首相の「国難突破解散」による衆議院総選挙が10月10日に公示された。安倍首相は街頭演説で北朝鮮の脅威を強調し国民の不安を煽り、安倍政権の継続が必要だと強調している。しかし、この大仰な「国難」の真相とは何か。孫崎享氏はそこに米国の意図があると指摘する。
◆「北朝鮮」で支持率回復
北朝鮮の脅威にどう対応するかは、日本の外交・安全保障政策の重要課題というだけではない。日本政治の動向にも深く関与する問題となっている。
9月25日、安倍首相は衆議院を解散する意向を表明した。その際、「少子高齢化、緊迫する北朝鮮情勢、まさに"国難"とも呼ぶべき事態に、強いリーダーシップを発揮する」と述べ"国難突破解散"」と訴えた。ここでいう「国難」とは北朝鮮の脅威を意味する。
北朝鮮の脅威が表面化する前、安倍政権は瀕死の状態にあった。毎日新聞は、7月22、23の両日、全国世論調査を実施したが、安倍内閣の支持率は26%で、不支持率は12ポイント増の56%だった。この支持率が持ち直したのは、北朝鮮問題の危機が先鋭化したからである。北朝鮮問題の危機と安倍政権への支持は表裏一体の関係にある。
北朝鮮は最近、ミサイル発射実験、核兵器開発を強化してきている。9月15日朝、北朝鮮からミサイルが発射され、北海道地方を通過し襟裳岬の東約2000kmに着水した。
「襟裳岬の東2000kmに着弾」と聞いて、「大変だ」と思った人も多いだろう。
◆リアリティ無い「国難」
だが2000kmとは相当な距離なのである。東京-北京は2090kmである。米中関係が悪化して米国がハワイあたりから北京にミサイルを発射し日本上空を飛んだ時、日本国民が避難訓練するようなものである。ベルリンとトルコの首都アンカラが2030kmである。ロシアが北極周辺からベルリンの上空を通ってアンカラをミサイル攻撃した時、ベルリンの住民が避難訓練をしているようなものである。これが「国難」の実体である。
北朝鮮が、ミサイルを持ち、核兵器を持ったからと言って、即、北朝鮮が日本を攻撃するわけではない。歴史を見てみれば、冷戦時代ソ連にスターリンがいて、中国に毛沢東がいた。彼らは核兵器やミサイルを持っていた。そして共産主義革命を目指していた。我々は「国難」と騒いでいただろうか。
◆国連憲章を踏まえるべき
北朝鮮のような中小国が核兵器を持った時にどのように対処するか。こうした問題は、核兵器が開発された時から、米国の軍事戦略家によって議論されてきたことである。こうした議論を踏まえ書かれた、核戦略論の古典的な本がキッシンジャー著『核兵器と外交戦略』である。
彼は次の様に記載した。
第1原則:核兵器を有する国は、それを用いずして全面降伏を受け入れることはないであろう。
第2原則:一方で、その生存が直接脅かされていると信ずるとき以外は、戦争の危険を冒す国もないとみられる。
第3原則:無条件降伏を求めないことを明らかにし、どんな紛争も国家の生存の問題を含まない枠を作ることが、米国外交の仕事である。
北朝鮮のような国が、他国から攻撃を受けていないのに他国を核兵器で攻撃すれば、その国は確実に米国等国際社会によって破壊される。他方、自分の国が軍事攻撃によって破壊される時には確実に、攻撃する国々に核兵器の使用を行う。こうした状況であれば、北朝鮮のような国には「政権、指導者を軍事的に抹殺することはない」と確証を与えてあればいいとするものである。
この考え方は昨日、今日出てきたものではない。第2次大戦以降の国際約束の基本である国連憲章を見てみよう。
第2条3.「すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決しなければならない」
4.「すべての加盟国は、武力による威嚇又は武力の行使を、慎まなければならない」
第51条.「国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない」
北朝鮮が核兵器の開発をするとか、ミサイル開発をするとか、それを行ったから、米国は北朝鮮を軍事的に攻撃できるというような権利はない。
さらに、日本が、北朝鮮に対して、「我が国は北朝鮮の国家及び指導部を軍事的に崩壊させる行動には関与しない」と述べれば、北朝鮮が日本を攻撃する理由はない。事態は極めて単純明快なのである。
米国はこれまで北朝鮮と交渉してきたと言っているが、「北朝鮮の国家及び指導部を軍事的に崩壊させる行動は行わない」と正式に提示したことはないはずだ。それだけではない。
昨年から、米韓軍事演習で、北朝鮮指導者を抹殺する軍事計画を発表したり、北朝鮮の国家自体を攻撃する作戦を強化している。
私たちは、国家の指導者は平和を目指すものとの思い込みがある。そうではないことを指摘したのがアイゼンハワー大統領であった。
アイゼンハワーは第2次大戦中、欧州戦線の連合国軍最高司令官であった。米国で最も尊敬された軍人と言っていい。その彼は大統領を辞める時に異例の国民への呼びかけを行った。主要論点を見てみたい。
・350万人の男女が防衛部門に直接雇用されています。私たちは、アメリカのすべての会社の純収入よりも多いお金を毎年軍事に費やします。
・軍産複合体による不当な影響力の獲得を排除しなければなりません。誤って与えられた権力の出現がもたらすかも知れない悲劇の可能性は存在し、また存在し続けるでしょう。
「悲劇の可能性」は、無意味な戦争に入っていくことを意味している。そして、アイゼンハワーの懸念通り、米国はその後ずっと戦争を続けている。その主たる要因は軍需産業に利益をもたらすためである。
このことと、北朝鮮問題の緊張を見てみよう。
◆北朝鮮特需に沸く米国
毎日新聞9月26日は次の報道をした。
「北朝鮮特需」に沸く米軍産複合体、米上院 政府案を600億ドルも上回る国防権限法案を可決、米国防産業が"北朝鮮特需"に沸いている。米上院は、2018会計年度の国防予算の大枠を決める国防権限法案を89対9の圧倒的な賛成多数で可決。予算規模は総額約7000億ドル(約77兆円)で、政府案を約600億ドルも上回った。北朝鮮が開発を急ぐ核・弾道ミサイルに備える予算などが上積みされた。主要軍事産業の株価も上伸を続け、軍産複合体が北朝鮮情勢の恩恵を受けているとの声も出ている。
軍の再建を掲げるトランプ政権は今年5月、前年度比1割増の約6400億ドルの国防予算案を議会に提出。だがマケイン上院軍事委員長らが北朝鮮を含む"現状の脅威に対応するには不十分"と主張し、議会側がさらに増額した。
北朝鮮問題の緊張は軍需産業だけでなく、米国は、日本関係でも利益を得られる。緊張を強化することによって、日本国内に「日本の安全は米軍に依存しなければならない」との空気をつくられる。それによって米国は日本を次の方向に誘導することが出来る。
(1)憲法を改正し、集団的自衛権を一段と強化し、自衛隊を米国の戦略のために海外に派遣し、時によっては戦闘もさせる。
(2)日本の軍事費を増大させ、米国製の兵器を日本に買わせ、それを米国の戦略に役立たせる。
(3)在日米軍基地を強化する。
これに加えて、米国国内で不人気のトランプ大統領は戦争ムードを盛り上げることによって、支持率を高めることを意図している。それは安倍首相も同様である。
北朝鮮を緊張状態に持っていくのは容易なことだ。北朝鮮向けの軍事演習を強化すればいい。金正恩に対して、米国は北朝鮮を軍事攻撃するかもしれないという恐怖に誘導すればいい。そうすれば自然に北朝鮮はミサイル実験や核開発を進め緊張が高まる。
安倍首相のいう「国難」は北朝鮮だけの意志で作られたものではない。米国が北朝鮮を巧妙に誘導しているのである。
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