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【2016 年頭所感】森山 裕 氏(農林水産大臣)2016年1月1日

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 平成28年の年始にあたり、農林水産大臣から農業協同組合新聞・JAcomに寄せられた年頭のごあいさつを紹介します。

森山 裕 氏(農林水産大臣) 明けましておめでとうございます。
 平成28年の輝かしい新春を迎え、皆様の御健勝をお祈りいたしますとともに、「農政新時代」とも言うべき新たなステージを切り拓くに当たっての所感の一端を申し述べ、年頭の御挨拶とさせていただきます。

 環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉は、昨年10月5日に大筋合意に至りました。その直後に農林水産大臣に就任し、約3ヶ月が経ちましたが、この間、現場の懸念と不安を払拭し、更には将来への意欲を後押しできるようにするための枠組みづくりに取り組んでまいりました。
 交渉結果やその国内への影響について丁寧に説明するため、機会あるごとに私自身が現場に足を運んだほか、ブロック別・品目別の地方説明会を開催し、また、地方公共団体や関係団体からの要望をお受けするなど、可能な限り現場の声に耳を傾けてまいりました。こうした現場の声にしっかり応えるものとして、十一月末には政府として「総合的なTPP関連政策大綱」をとりまとめたところです。
 本年は、大綱に掲げた施策を着実に実行していくとともに、これまで進めてきた攻めの農林水産業に向けた施策を更に前に進めていくことにより、新たな国際環境の下でも、「強くて豊かな農林水産業」と「美しく活力ある農山漁村」を実現できるよう、全力で取り組んでまいります。

 以下、農林水産行政の主な課題と取組の方針を申し述べます。

 第1に、「総合的なTPP関連政策大綱」の着実な実行です。
 関税削減による長期的な影響が懸念される中、まず、「攻めの農林水産業への転換」に向け、農林漁業者の将来への不安を払拭し、経営マインドを持った農林漁業者の経営発展に向けた投資意欲を後押しするため、体質強化対策を集中的に講じてまいります。
 具体的には、次世代を担う経営感覚に優れた担い手の育成に取り組みます。人材力を強化し、力強く持続可能な農業構造を実現するため、意欲ある農業者の経営発展を促進する措置を充実させるとともに、農地の更なる大区画化・汎用化を進めてまいります。
 また、水田・畑作・野菜・果樹の産地の強みを活かしたイノベーションを促進するため、高性能な機械・施設の導入や高収益作物・栽培体系への転換を支援するほか、水田の畑地化、畑地・樹園地の高機能化、戦略的な革新的技術の開発を支援します。また、農林漁業成長産業化支援機構の更なる活用などを通じ、農林漁業者が主体となって取り組む6次産業化を推進してまいります。
 畜産・酪農については、収益力・生産基盤を強化します。畜産クラスター計画の下、地域全体の収益性向上を図るため、中心的経営体に必要な機械・施設の整備や家畜の導入に対する支援を拡充するほか、これを後押しする草地の大区画化、和牛の生産拡大、生乳供給力の向上、豚の生産能力の向上等に取り組みます。
 高品質な我が国農林水産物の輸出等、需要フロンティアの開拓を進めます。今般、TPPにより、米、牛肉、茶、林産物、水産物など重要品目の全てで、TPP参加十一カ国への輸出に際し関税が撤廃されることとなり、高品質な我が国農林水産物の輸出拡大を加速化させることが可能となりました。これを活かし、品目別輸出団体を活用したオールジャパンでの取組や、戦略的な動植物検疫協議等による輸出阻害要因の解消、輸出拡大に必要な施設の整備等を行い、平成32年の農林水産物・食品の輸出額1兆円目標の前倒し達成を目指します。外食産業等と連携した国産農林水産物の需要拡大や、訪日外国人旅行者による国産農畜産物の持帰りを促進し、新たな市場を開拓します。
 また、地域で長年培われた特別の生産方法によって高い品質と評価を得ている産品について、昨年から開始した地理的表示(GI)を活用し、その登録を一層進めるとともに、TPPを踏まえ、諸外国との間で相互にGIを保護できる制度を整備してまいります。

 これらの競争力強化・体質強化の取組に加え、「経営安定・安定供給のための備え」として、関税削減等に対する農業者の懸念と不安を払拭し、TPP協定発効後の経営安定に万全を期すため、生産コスト削減や収益性向上への意欲を持続させることに配慮しつつ、協定発効に合わせて、経営安定対策の充実等の措置を講じてまいります。
 具体的には、国産の主食用米の需給及び価格に与える影響を遮断するため、毎年の政府備蓄米の運営を見直し、国別枠の輸入量に相当する国産米を政府が備蓄米として買い入れるほか、国産麦の安定供給を図るため、引き続き、経営所得安定対策を着実に実施することとしております。
 また、国産の牛肉・豚肉、乳製品の安定供給を図るため、牛マルキン及び豚マルキンの法制化など畜産・酪農の経営安定対策を充実させるほか、国産甘味資源作物の安定供給を図るため、加糖調製品を新たに糖価調整法に基づく調整金の対象とすることとしております。
 意欲ある農業者が安心して経営に取り組めるようにすることにより、確実に再生産が可能となるよう、TPP協定の国会審議と合わせて、関連法案を提出したいと考えております。

 このほか、人材力の強化や戦略的輸出体制の整備など、農林水産業の成長産業化を一層進めるために必要な戦略について、生産者を始め国民の皆様の御意見を伺いながら、本年秋を目途に具体的内容を詰めてまいります。

 第2に、「農政改革の更なる前進」です。従来から実施してきた「農林水産業・地域の活力創造プラン」に基づく農政改革の取組を引き続き前に進めてまいります。
 生産現場の強化に向け、農地中間管理機構による農地の集積・集約化を進めるとともに、農協・農業委員会・農業生産法人の改革の着実な実行による農業者の所得向上を図ります。
 水田農業については、昨年は、生産現場の多大な努力により、主食用米の過剰作付けが解消されましたが、引き続き、需要に応じた生産への環境整備に取り組み、飼料用米等の戦略作物の拡大を進めてまいります。園芸については、地域エネルギーや先端技術を活用した次世代施設園芸を地域へ展開してまいります。
 加えて、市場の更なる拡大に向け、ライフスタイルの変化に対応した加工・業務用野菜の生産や、介護食品の開発、薬用作物の産地化等の医福食農連携等を推進するとともに、2020年のオリンピック・パラリンピックも視野に入れながら、知恵と技が凝縮された日本食・食文化の魅力を国内外に発信してまいります。また、科学的知見に基づく食品の安全性の向上、家畜・農作物に対する防疫、食品表示の適正化等に万全を期し、食の安全と消費者の信頼の確保に努めつつ、国民への食料の安定供給を図ってまいります。
 これらの農業の成長産業化を促進するための産業政策に加え、車の両輪として、農業・農村の有する多面的機能の維持・発揮を促進するための地域政策を引き続き進めてまいります。新たな国際環境の下でも、我が国の豊かな食や中山間地域を含む美しく活力ある地域を次の世代に引き渡していくため、引き続き、日本型直接支払制度を着実に実施するとともに、都市と農山漁村の交流や都市農業の振興、地域ぐるみでの鳥獣被害対策も併せて推進してまいります。

 第3に、「東日本大震災からの復旧・復興」と「災害への対応」です。
 被災農地の7割で営農が再開し、水産加工施設の8割で業務が再開されるなど、復旧・復興は新たなステージを迎えています。昨年10月に福島県を視察した際も、新たな農林水産業のモデルとなるような取組を目の当たりにし、現場の変化を肌で感じました。東日本大震災からの復興は、安倍内閣の最重要課題であり、私も復興大臣であるとの覚悟の下、原子力災害に対する風評被害対策、販路の回復や輸入規制の緩和・撤廃への働きかけのほか、単なる復旧にとどまらない将来を見据えた復興に取り組んでまいります。
 さらに、昨年は、豪雨や台風等、多くの災害が発生しました。大臣就任直後に茨城県を視察した際には、被害状況の把握に努めるとともに、一刻も早い復旧に向けて固く決意した次第です。今後とも、被災された農林漁業者の方々への支援に取り組んでまいります。

 以上、年頭に当たり、今後の政策展開についての私の所感の一端を申し述べました。

 「農政新時代」を切り拓くということは、現場が直面する課題に目を背けず、新たな技術、他分野の知恵も総動員して対応していかねば到底できない大仕事であると認識しております。時代の転換期に立っているという意識を持ちつつ、私の好きな言葉である「一日一生」のように、一日一日の積み上げが我が国の未来に繋がっていくという思いで、私が先頭に立ち、農林水産省を挙げて、日々、全力で諸課題に取り組んでまいります。
 農林水産行政に対する皆様の御支援と御協力を賜りますよう、本年もよろしくお願い申し上げます。

 平成28年1月
農林水産大臣 森山 裕

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