農林水産大臣賞に松尾集落(熊本県) 平成27年度鳥獣被害対策優良活動表彰と第3回全国鳥獣被害対策サミット2016年2月12日
農林水産省は2月12日、東京都千代田区の日比谷コンベンションホールで「平成27年度鳥獣被害対策優良活動表彰式」を開き、農林水産大臣賞と農村振興局長賞を授与した。表彰式後、農林水産省鳥獣被害対策基盤支援事業として合同会社まかく堂主催のもと「第3回全国鳥獣被害対策サミット」が開かれ、受賞者による講演と先進事例報告が行われた。行政の鳥獣関係担当者やメーカー関係者など約300人が参加した。
表彰式に出席した齋藤健農林水産副大臣は挨拶で、野生鳥獣による被害が深刻で、被害金額は191億円、近年は200億円規模で推移していること、また鳥獣被害が甚大なため、営農意欲がそがれ、農業をやめる人もいることに触れ、農業を「活力あるものとして次世代に継承するためには、鳥獣被害対策をしっかりと推進し、鳥獣被害にまけない地域づくりをしていくことが重要」だと述べた。農水省としても現場をサポートし、平成28年度予算で、捕獲された鳥獣をジビエとして活用するための新たな支援メニューを追加。鳥獣被害対策を総合的に推進するための予算を95億円(概算)決定し、本年度は、野生鳥獣の区画を強力に推進するための予算を補正予算として12億円追加で措置することも報告した。また「地域の実情に応じて、知恵や工夫をこらして取り組むことが重要」だと述べた。
今回の受賞者は以下の通り(敬称略)。
【農林水産大臣賞(団体の部)】▽松尾集落(熊本県あさぎり町:集落代表 遠山好勝)
国有林に囲まれた中山間地域集落の松尾集落は、住人が9人。昭和29年に山林を開拓して入植した集落で、野生鳥獣の侵入防止柵設置のため、集落の全員が参加して放任果樹の除去や雑木林などの刈払いなどを行った。そのほか、熊本県立大学の学生なども設置に参加。結果、サルについては被害が少しあったものの、イノシシの被害はなくなった。次年度の目標としてアナグマの対策を掲げている。わな猟の狩猟免許取得も推進し、現在は住人9人のうち4人が免許を保有しているという。営農意欲も向上し、特産加工品を作成したり、栗拾い体験を現地の小学生や観光客に行ったりして、次世代の消費者を育てることにも注力している。
【農村振興局長賞(団体の部)】
▽(一社)阿久根市有害鳥獣捕獲協会(鹿児島県阿久根市:牧尾正恒会長)
同協会は、ジビエに使うための食肉処理施設の設置や食品衛生責任者の確保などを行う他、農業者と緊密な連絡体制を取り、捕獲された鳥獣が短時間で搬入できる体制をとっている。この取り組みにより、全国でジビエとして処理されているのは1割程度なのに対し、市内で捕獲された鳥獣の9割が同施設でジビエとして処理されている。
施設設置後、捕獲数はイノシシで約3倍、シカで約10倍増加した。ジビエの効果的な利活用体制と被害対策が両立するモデルとして評価された。
▽猪苗代町(福島県猪苗代町:前後公町長)
猪苗代町は、平成22年に鳥獣被害対策の専任職員を配置。ニホンザルなどの加害獣をラジオテレメトリー調査している。「住民が主体となる」ことが大切とし、行政は情報をメルマガで配信するなど、支援を行っている。例えばサルは群の位置を把握し、村に降りてくる頃に全員で追い払うなどの対策を行う。これによりサルの被害も激減し、サルの群は集落を避けて通るようになったという。
対策には行政と住民との信頼関係が大切。専任職員を配置したことにより、住民との関係が密になり、対策が進んだ。
▽上ノ村自治会鳥獣対策協議会(三重県津市:代表者・山口俊博)
同協議会は、現時点で確信のもてる方法として「恒久柵と電気柵の管理を徹底すれば被害はかぎりなくゼロに近づける」と話す。
集落の周り8kmを、平成23年に恒久柵、25年にそのうち5kmを電気柵にした結果、被害金額が355万円減少、被害割合は8割減少した。シカなどの被害が設置後にあっても、柵があることにより、侵入経路の把握ができること、またイノシシのもぐりこみについては早急に対処することが大切だと述べた。
「自分の田畑は自分で守る」ことを中心に、ていねいな合意形成による無理のない全員参加が大事だとした。
【農村振興局長賞(個人の部)】
▽中森忠義(岩手県八幡平市)
中森氏は、恒久電気柵を使った被害活動の低減に向けた活動について話した。
キャベツ栽培にニホンジカによる食害被害があったが、キャベツ栽培のほ場が集落から独立しているので集落での対応は難しい地域だった。そのため、電気柵を活用することになった。
飼料用トウモロコシ畑は柵を毎年設置し、毎年撤収する。野菜でこれをすると大変だと考え、作業通路の外側に恒久電気柵を設置することで、機械で行う防除作業などがスムーズに行えるようにした。「電気柵はきちんと設置するときちんと効く」と住人に説明していると話した。
同サミットでは、受賞者による講演の他、先進事例報告が行われた。
趣旨説明を行った日本獣医生命科学大学野生動物教育研究機構の羽山伸一氏は、鳥獣被害対策について「ピンポイントでの効果はあるが、動物たちに県など地域の区切りがあるわけではないため、広域での取組みや対策が不可欠」と話した。
行政の取り組み事例として、国定公園の保護から始まった被害対策として神奈川県自然環境保全センター自然保護公園部野生生物課の谷川潔氏、群馬県鳥獣被害対策支援センターの須川均氏がそれぞれ報告を行った。
また民間として鳥獣被害に取り組んできた福島ニホンザルの会の大槻晃太氏、全国にネットワークを作っていこうとするNPO法人新潟ワイルドライフリサーチの山本麻希氏、行政として鳥獣専門指導員を雇用し、各地域ごとに対策を行っている島根県西部農林振興センター益田事務所の大谷浩章氏がそれぞれ報告を行った。
このほか資機材展示として電気柵や電気柵設置後の管理に必要な除草剤、ネット、鳥獣の位置把握のためのGPS付の首輪などが展示された。展示していた企業は以下の通り。
▽(株)赤城商会▽北原電牧(株)▽(株)キャムズ▽(株)サーキットデザイン▽サージミヤワキ(株)▽(株)GlSupply▽JA全農生産資材部園芸資材課▽大豊化学工業(株)▽タキロンプロテック(株)▽(株)バーテックスシステム▽ファームエイジ(株)
(写真)齋藤健農林水産副大臣と受賞者、講演を行う受賞者
(関連記事)
・鳥獣被害 前年度より8億円減-農水省 (16.01.25)
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