すでに恒例になったが、今(01)年の夏も
本紙の「米政策アンケート調査」が行われ、その結果が発表された。全国の約1200のJAから202のJAを無作為に抽出して行われ、精巧に集計されたものである。回答率はこれまでと同じように、きわめて高く、実に89.6%だった。
米政策の転換期の中で、生産現場の第一線のJAは、いま何を考え、なにを要求しているのだろうか。
転換期の様相をアンケートの結果からみてみよう。98年から始まった、今の米政策体系の柱ともいうべき「米需給安定対策」と「稲作経営安定対策」への加入者の人数をみると、「米需給安定対策」への加入者が昨年よりも増えたと答えたものは9%だが、減ったと答えたものは30%だった(Q1)。
また「稲作経営安定対策」への加入者が増えたと答えたものは13%だったが、減ったと答えたものは33%だった(Q3)。
このように、いまの米政策は、その柱となる2つの「対策」への加入者が減りつつある。つまり、根幹の部分から腐食が始まり、空洞化が進行している。
これに対して、政府はいま、米政策を根本的に転換しようしている。すなわち、いままでの政策を修正するのではなく、修正を断念し、新しい構想のもとで米政策を再構築しようとしている。
新しい構想の基本的な考えは、農業政策の対象を40万戸程度の大規模農家に限定するというものである。
この構想によれば、減反は、計画米として出荷する大規模農家だけが行い、小規模農家と、計画外米として出荷する大規模農家は減反しなくてもよいことになる。
その代わり、米価が下がれば計画米として出荷する大規模農家には、ある程度の補償をする。しかし、小規模農家には、計画米として出荷しても、計画外米として出荷しても全く補償しないし、計画外米として出荷する大規模農家にも全く補償しない、というものである。
だから、小規模農家を米作りから排除し、計画外米を流通から除外するには、米価を下げる方がいいことになる。
この構想を現場のJAは、どのように評価しているのだろうか。アンケートの結果をみてみよう。
「所得補填の対象を40万戸程度の大規模専業農家だけにしぼること」について「良い」と答えたものは僅か1%にすぎない。「やむを得ない」と答えたものの13%を加えてても14%にしかならない。それに対して「良くない」と答えたものは圧倒的に多く68%である(Q7)。
組合員を選別する政策は、JAの協同組合としての存在理由を根底から否定するもの、と考えているのだろう。それに、小規模農家の協力なしに、大規模農家だけでは米作りなどできはしない、というのだろう。
また、「減反を所得補填の対象である大規模専業農家などに重点的に配分すること」についても「良い」とするものは9%しかない。これに対して「良くない」とするものは42%で、これに「やむを得ない」とする28%を加えると70%になる(Q9)。
実際には各地で大規模農家が減反を多く担っているが、このことを大多数のJAは決して良いとは考えていないのである。
このように、いまの米政策に代わる新しい政策の構想も、選別政策の是非をめぐって重大な問題をはらんでいる。
いまの米政策の何が問題なのか。そこには、つぎのように重大な欠陥がある。すなわち、米が余っているのに輸入し続けてきた。しかも輸入量を増やしながら減反を強化し続けてきた。減反はその大義名分を失ったのである。そのうえ、減反を強化してきたのに米価は下がり続けてきた。
減反は、いうまでもなく米価を回復する目的のために行っているのだが、実際には米価は回復するどころか下がり続けてきた。ここに問題の根源がある。いったい何の目的のために減反しているのか分からない、ということになる。その結果、減反の限界感がますますつのってきた。
また、減反しても米価が下がるのなら、いっそ減反などやめてしまえ、と考える農業者が多くなった。その結果、減反の実行者は非実行者との間の不公平感を、ますます強く感じるようになった。
このようにして、減反で米価を回復して再生産を確保するという、いまの米政策は破綻してしまった。実は、この政策は昨年の秋にすでに破綻した。つまり、98年から始まった、今の米政策体系は、98年と99年の2年間しかもたなかったのである。
米政策を再建するには、初心に戻り、輸入の中止を目指した輸入量の削減を行って、減反の大義名分を回復し、公平な減反によって実際に米価を回復すればいいのだが、しかし、政府はこの考えを放棄した。
政府の新しい構想では、米価を回復するという考えを捨てて、米価は下がってもいい、という考えに転換した。
政府の構想は次のとおりである。米価が下がればどうなるか。そうなれば、コストの高い小規模農家は米作りをやめるだろう。それはいいことだ。だから、小規模農家に対しては、政府は放置して援助はしない。しかし、大規模農家が米作りをやめるのは困る。だから、大規模農家に対しては、政府が援助する。そうして、大規模農家を主力にした米作りを行ってコストを引き下げる、というのである。
また、米価は下がってもいい、という考えだから減反をしっかり実行しよう、という考えはない。減反は「ポジ配分」などという名前に代えるという。
また、コストを引き下げて輸入米と競争しようという考えだから、輸入をやめるどころか、輸入量を減らすという考えもない。
この構想が実行されたら、実際にはどうなるのだろうか。はたして力強い米作りの体制ができ、輸入米と競争できるような、コストの安い米作りができるのだろうか。いや、それとは反対に、稲作崩壊が加速されるだけではないか。
もしも仮に、この構想が実行され、米価が下がったたとしても、小規模農家は米作りをやめないだろう。米価は下がり続け、やがて1万円を大きく割り込むだろう。
仮に8000円になったとしよう。それでも小規模農家は自家消費米と縁故米は作り続けるだろう。その量は200万トン程度になるだろう。需要量は全体で1030万トンだから、残りは830万トンで、そのうち77万トンは輸入米が当てられるから、それをさし引いた約750万トンが大規模農家の生産量になる。
しかし、大規模農家は8000円の米価では米作りは続けられない。そこで政府が援助するというのだが、その金額はどれ程になるだろうか。
大規模農家が米作りを続けるには、生産費を確保せねばならない。大規模農家の生産費は約1万4000円だ。だから政府は生産費と米価の差額である6000円を助成せねばならない。750万トンを確保するには7500億円が必要になる。いまの米関係予算の総額をはるかに超える。
もしも政府がこれだけの予算を確保できるのなら、良いとは言えないが、1つの政策体系として成り立つだろう。
しかし、政府はこれだけの予算を確保しないで、助成単価を減らすにちがいない。そうなれば、大規模農家は赤字になり、やがて大規模農家も米作りをやめだすだろう。
そうなると、米不足になる。米価は乱高下し、供給量は不安定になる。その間隙をぬって、輸入米が増えるだろう。そうして、稲作崩壊を加速させるだろう。
では、どうすればいいのか。それは再生産の確立を、出来もしない政府に直接に依存するのではなく、また、「価格政策から所得政策へ」などという掛け声で踊らされるのでもなく、米価を生産費にまで回復することである。
そのためには、輸入の中止をめざした輸入量の削減を行うことで、減反の大義名分を回復し、全員が参加した減反によって米価を着実に回復することである。
JAは政府に対して、そのための体制を整備する政策を用意させ、誠実な実行を迫るべきではないだろうか。