野菜作の機械化を追求 農業施設事業も拡大
◆キャンペーン展開
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なかの ひろゆき
昭和15年2月愛媛県生まれ。37年愛媛大学文理学部卒。同年入社、開発製造本部松山製造所長を経て、平成6年取締役、11年常務、12年代表取締役専務、13年4月代表取締役社長。
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――来年の創業80周年に向けて、今年からキャンペーンを展開中だと聞いていますが。
「80年間培ってきた技術力を活かした新製品群を立ち上げて農家に認知していただけるようにと6月1日から活動を開始しました。その中で顧客満足度の向上も追求しています」
――新製品群には例えばどんなものがあるのですか。
「トラクターの中心機種ではオート変速のジアスATというのを6月に発売しました。これは路上では自動車感覚で走れるアクセル変速です。また圃場では作業の速度を記憶していて、次の圃場に移動しても自動的に作業を開始します。さらに地面や路面の状況に応じて2駆、4駆の自動切り換えもできます」
「これは10年目のモデルチェンジで良いものを造るというレベルを超えた革新的な新製品です。このため実際に機械を運転してもらおうと体感試乗キャンペーンを全国で実施中です」
――高齢者や女性でも乗れるという感じですか。
「そうです。農業就業人口の57%は65歳以上ですから、安全で使いやすく、しかも低価格で経済的という狙いです。ジアスAT以外にも、今の時代のニーズに応えた低コストのシンプルな機械も6月に発売しました」
◆地域特性に応じて
――次に、野菜作の機械化についてお話下さい。
「まだまだ未開拓の領域ですし、野菜は地域特性が千差万別ですから、需要が数10台といった機械を造る必要もあります。しかし野菜や果物の地域ブランドづくりが、これからの農業の大きな課題ですから、井関はこれを応援するため農業生産コストに見合う機械をどう造るかを追求していきます」
「例えば、ほとんどの苗に対応できる半自動野菜移植機などをすでに発売しています。シリーズ名は『ナウエル』です」
「またサツマイモのツルを植える移植機は当社だけの製品で、生食用と焼酎用では植え方が違うため2種類の植え方ができます。このように野菜作では作物と地域特性によって型式も仕様もいろいろです」
――刈取用はどうですか。
「たばこ幹刈機などがありますね。それから山形のだだちゃ豆や、埼玉の深谷ネギといった特産品の専用機もあります」
――新製品開発のコンセプトについてはいかがですか。
「昔は付加価値の高いものは値段も高かったのですが、今は良いものを造って値段を下げるという流れです。農業が大型化すると機械を使う時間も長くなるから耐久性の高さも求められます。そうした中で高品質とコストダウンを追求しています」
――難題ですね。
◆コスト削減を徹底
「部品段階から個々にコストダウンを図るのは困難です。そこで、うちは数多くの部品を造って、溶接したり、ネジでとめるような工程を省くために最初の設計段階から部品のいらない一体化構造のものを造るように改善を進めています」
――しかし輸入品に比べて国産品が高いのは、肥料や農機などの生産資材が高いからだという声がまだありますが。
「メーカーはコスト削減に限界まで努力していますし、現実に値下がりしています。また、農家所得トータルでみることも必要だと思います。生産資材コストの中に農機が占める割合は約2割です。また農家の所得は、農業所得が100万円強で、それよりも農外所得のほうが圧倒的に多い。例えばサラリーマンとして農外所得を稼ぐために農機を購入して、土日曜日だけで農作業を終わっている形になっていますから、農外所得をひっくるめた中で農機具代の割合を見れば、決して高くはないと思います」
――農機が農外所得を支えているというわけですか。
「農機の国内需要は昭和52年のピーク時に約6000億円でしたが、今は4000億円を切るほどです。パイが縮小する中でシェアを維持拡大するために、各社ともしのぎを削ってお値打ち感のある機械を出してきているわけです。農機の価格は統計上は3年ほど前と比べても約2%下がっていますが、機械の装備や性能は格段に上がっていますから、実質の値下がり率はもっと大きいと思います」
◆養液栽培システム
――農機の普及は農業の省力化に大きく貢献しましたね。
「昔は一日中、うつむいて作業する大変な重労働でしたが、今は農村でも腰の曲がった人を余り見かけませんね。振り返れば、高度成長期は若者がどんどん都市に出て工業労働者になり、農村に残った人たちが機械を使って農業生産を守りました。だから高度成長と工業国家を支えた縁の下の力持ちは農機だと思います。私どもも土にまみれて農機を開発してきたという誇りを持っています」
――農機以外の事業にも進出していますね。
「養液栽培システムの施設事業があり、計画から栽培・出荷までをトータルに支援しています。これは井関独特の方式による水耕栽培で、野菜工場といった感覚で高生産性を実現しました。すでに全国で数多くの企業などが、これを導入してシステムを稼働させています」
「今のところ採算の取りやすいトマトを作っていますが、イチゴなど多くの作物に適応します。低農薬で、花粉はマルハナバチがガラスハウスの中を飛んで媒介するという環境に優しいシステムです。オランダからバイオ技術を導入し、日本の気候風土に合うよう改良しました」
「すべてがコンピュータ管理で年間9カ月ほど続けて収穫できます。これをうまく活用すれば、国際的なコスト競争に勝てる可能性が出てきて、夢のある農業になると思います」
――元気の出るお話ですね。ところでJAは農機に弱いといわれますが、どうですか。
「農家の51%は農協さんを通じて農機を買っていますから、決して弱いとはいえないと思います。私どもはその流通シェアをもっと上げたいと努力しています」
◆順調に輸出伸ばす
――中国に現地法人をつくられたそうですが。
「向こうの工場では部品を造っていますが、来年からは本格的に生産します。今年は試験販売します。中国の経済発展は急速ですし、政府も農村近代化に取り組もうとしていますから将来に期待しています。中国市場は大きく発展する可能性があります」
――中国以外への輸出はどんな状況ですか。
「一昨年の製品輸出額は約101億円ですが、これを5割増の155億円に伸ばしたいというのが昨年からの3カ年計画です。今年は134億円の計画は達成できる見込みで順調です」
「輸出先は欧米とアジアですが、米国へは0EM生産で供給し、中小型のトラクターを中心に伸びています。ヨーロッパでは井関ブランドで販売し、もう30年以上の実績がありまして、一部の国ではシェアが3割以上に達しています」
――御社では、この3月期決算で復配を実現するなど経営は明るい状況ですね。
「繰り返し再建計画に取り組んできました。今の執行体制は3年前にスタートし、生き残りをかけて全社を挙げた効率化で収益構造の改革にチャレンジしました。不採算事業は見直し、工場は松山も熊本もそれぞれ自主自立の子会社とするなどして再建を成し遂げました」
「お陰様で3年前に比べ在庫は大幅に減少して効率的な体質になりましたし、有利子負債も間もなく半減します。財務体質も改善しました。今後も農業と農業機械一筋で100周年を迎えたいと思っています」
井関農機(株)(本社=松山市、本社事務所=東京・西日暮里)▽創業=大正15年▽資本金225億3425万円▽主な事業は整地用・栽培用・収穫調製用機械と、作業機・補修用部品の製造・販売。さらに農業用施設の分野に事業を拡大▽工場(製造子会社)4▽全国に支店と販売会社ネットワーク▽田植機の代名詞ともなった「さなえ」と、稲に適した日本独自のコンバイン(自脱型)を最初に開発。
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