使いやすい商品をねらう 多様な情報発信も誇る
◆緑に安らぎ求めて
――家庭園芸と関係業界の状況はいかがですか。
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かしわだ ゆうぞう
1945年生まれ、鹿児島県出身。70年東京大学農学部卒。武田薬品工業入社、アグロカンパニー・農薬製造部長などを歴任。その後、2002年住化武田農薬・技術本部光工場長を経て、03年6月住化タケダ園芸(株)代表取締役社長。 |
「家庭園芸人口は、経産省のレジャー白書によると、約4000万人で大変裾野の広い趣味の世界です。最近、読んだガーデニングの歴史の本に、日本では江戸時代から、すでに庶民の間でも園芸が盛んで、来日した外国人もおどろいた、とありました。幕末までに約200冊の園芸書が出版されるなど、歴史の古い文化ジャンルだということです」
――ガーデニングは、かなり以前からマンションのベランダなどにも広がっています。
「栽培面積では、やはり庭が主体ですが、居住地の都心回帰もあり、ベランダはもちろん今後は屋内や、さらに屋上で楽しむ人も増えるでしよう」
――緑に安らぎを求める需要はすごく多いと思います。これからも伸びる業界ですね。
「将来性があり、伸びる仕事だと希望を持っております」
――御社の取り扱い品目は?
「家庭園芸に関する業界は、植物そのものと、それに付随する資材の分野に大別され、資材には、植物を育てるための農薬や肥料、用土や、鉢などの用具もあります。当社はもともと武田薬品工業の子会社としてスタートしたため、直接の取り扱いは農薬がメインで、次いで肥料、用土、資材関係を扱っています。大半が家庭園芸用ですが、花き生産者向け資材や、街路樹の殺虫剤も一部販売しています」
◆宣伝ベースでなく
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坂田正通氏 |
――園芸店には、すごく便利な商品がたくさん並んでいますが、余り知られていませんね。
「当社だけでも200アイテムほどを販売し、他社の商品を合わせれば大変な数ですから、とても覚え切れませんね」
――情報発信や普及活動は?
「関係団体などのアンケート調査では、害虫や病気に対する薬品や肥料の使い方、花や野菜の上手な作り方を知りたいという回答が多いため、これらに応える活動に力を入れています」
「1つは、ホームページ『eグリーンコミュニケーション』の充実です。単なる商品紹介ではなく、作物や虫や症状からやさしく検索できるようにしています。また日本植物防疫協会の病害虫発生予察情報をもとに家庭園芸関係の作物を選び、タイムリーに載せています。ホームページは宣伝をベースにしていません」
「また園芸相談員を1980年からホームセンターや大型専門店に派遣し、シーズンには全国で約100人以上がお客様の相談を受け、一般的な園芸知識、園芸薬剤や肥料の正しい使い方を説明しています。この活動は店の方の勉強にもなるのじゃないかと自負しています」
「難しいのは、次々に開発される新品種の植物についての応答です。それから最近は農薬取締法が厳しくなっていますから改正後の勉強も求められます」
◆突っ込んだ問診を
――相談員になるのは、どんな方々ですか。
「農業試験場や普及センターのOBとか専門店のベテランやまた武田薬品のOBなど深い知識をもった方です」
「さらに小売店様の講習会を大都市では毎年、隔年開催を含めると全国20都市以上で開いています。参加は園芸用品の売場担当者の方が中心で、非常に喜ばれています」
「電話による『お客様相談』もあり、メールの相談は別にして、年間1万件ほどの多様な電話相談を受けていますが、それを集計すれば需要動向がわかりますから、小売店様講習会ではそれを研修材料に、さらに突っ込んだ問診や診断の仕方を説明したりもしています」
――農業用と園芸用薬剤の違う点は?
「家庭園芸用薬品類はメーカーの出荷ベースで約160億円規模です。農薬全体では約3200億円ですから20分の1の市場規模です」
――農業用の薬剤に比べ家庭園芸用は使いやすくなっていますね。
「大きく分類すると2タイプで、1つには一般農薬の少量包装をしています。例えば、殺虫剤のオルトラン水和剤は通常100〜500グラムですが、家庭用は10グラム(1グラム10袋入り)にして使い切れるようにしています」
「もう1つは、そのまま手軽に使える家庭用に特有のタイプが例えばベニカXスプレーです。通常の乳液剤ならば500倍から1000倍位の水に溶かして使いますが、ベニカXスプレーは最初から希釈液にしてあります」
「水で薄く希釈しながらも殺虫成分を2、3年安定させているスプレー剤などの開発は技術的に難しいのですよ」
◆研究所が大きな力
――ネーミングですが、ベニカとはどんな意味ですか。
「美しい紅色の花を咲かせようという意味です。以前からベニカという商品群がありましたが、02年度にはベニカXシリーズという商品群を発売しました。これは殺虫と殺菌の両方に効きます」
「家庭園芸はプロと違って病気のほうが虫よりも、わかりにくくて手遅れになりがちです。それで殺虫剤に比べ殺菌剤は多くは売れないのですよ。しかし主立った植物には必ずといってよいほど病気が出ますので両方に対応できる成分を配合した剤をつくりました」
「そしてベニカX、ベニカXスプレー、ベニカX乳剤の3種類を同時発売してヒット商品になりました。中でもスプレーがメインになっています」
「ベニカXシリーズなど園芸薬品を開発するには技術的な蓄積やノウハウが必要ですが、家庭園芸資材の会社で本格的な研究所を持っているのは当社だけです。名称は製品開発センター(浜松)です。これが一番の強みです。自前の研究所だから、お客の声をスピーディーに商品に反映できます。これが大きな力になっており、もちろん肥料の研究もしています」
「また、住友化学アグログループの一員となって商品開発はこれまで以上に進みますよ」
◆天然成分による商品も
――安全性の関係は?
「当社は毒劇物は一切販売していません。最近は合成農薬はいやだという方がおられますから、そういった方にも対応し天然成分を原料にした新商品も出しています。例えば、パイベニカスプレーの成分は除虫菊ですし、粘着くん液剤は、でんぷんが原料で、ハダニなどを窒息させます。またシイタケの抽出物でつくったレンテミン液剤は、ウイルス病感染を予防する殺菌剤です。これらは、すべて農薬登録を取得しています」
――では、御社の業績などについてお聞かせ下さい。
「ずっと右肩上がりできましたが、ここ数年はガーデニングブームの伸びが停滞したといわれる中で、全体の需要も停滞しており、当社もほぼ、年間80億円くらいの売上げで推移しています」
「ガーデニングは不況に強いといわれ、バブルがはじけた後も園芸への支出は少しずつ伸びていましたが、ここにきて停滞気味となりました」
「総務省の消費動向調査では一般家庭の園芸支出は植物・資材を含め年間約1万円です。切り花への支出も同額なので、緑に関する支出は合計2万円となります。これは総支出400万円のうちの0.5%です。ヨーロッパは、もっと多いと思いますが、日本も園芸人口が4000万人ですから、もう少し各家庭が園芸費を増やしてくれればそれで需要も伸びるはずです」
「そうしたことからも当社は住化アグログループの1社として今年の浜名湖花博に出展するなど“花と緑と安らぎ”の普及に努力しています」
住化タケダ園芸(株) 旧社名はタケダ園芸(株)。親会社の武田薬品工業と住友化学工業が農薬事業の強化で02年、合弁会社・住化武田農薬を設立したことにともない社名変更▽資本金1億6000万円。株主は住化武田農薬▽社員約80人▽年商約80億円▽主な取扱品目は大別して(1)家庭園芸用の農薬、肥料、用土など(2)緑化用の農薬や活力剤(3)花き生産者の肥料と農薬。 |
インタビューを終えて |
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柏田社長は、一年前家庭園芸のこの会社の経営を任された。武田薬品の時代は農薬の技術普及・開発から営業まで担当した。営業の時、防除暦に自社の農薬を採用する東北地方の農協との接点もあった。これからの農協は営農指導が、もっと重要となるのではないかとアドバイスする。
若い頃は山登りやテニスに凝ったこともある。休日には音楽鑑賞、ピアノやリュートなどソロの演奏曲を好む。クラッシックギターは自分で弾いていたこともあり、特にお好きだそうだ。家族と一緒に洋ラン栽培など家庭園芸も楽しまれる。単身赴任の間に、自宅の庭木はすっかり奥様流にアレンジされてしまったとか。一男一女4人家族。
住化タケダ園芸(株)には、一般的な殺虫剤、殺菌剤、除草剤等のほか、ナメクジ剤、アリ剤、ネズミ・犬猫忌避剤など家庭で簡単に使える園芸薬品、肥料がいろいろある。
東京本社電話番号(03)3270−9758
住化タケダ園芸(株)公式ホームページ『eグリーンコミュニケーション』 http://www.sumika-takeda-engei.co.jp
(坂田) |
(2004.8.26)
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