農業協同組合新聞 JACOM
   
この人と語る21世紀のアグリビジネス
SS改造の需要加速、
川下展開へ事業再編
小澤 芳夫 全農エネルギー(株)代表取締役社長
小澤 芳夫社長
 全国で黒字経営のJA−SS(給油所)は50%強。これを今年度で60%にするのがJA全農の目標だ。SSの収支確立と競争力強化は経済事業改革の課題の一つ。そのなかで全農エネルギー(株)はSS経営受託の実戦部隊だ。今年は40店舗以上のSSを受託する。4月に新社名で発足したが、小澤社長は合併前3社のうち2社の社長を兼ねていて、以前から川下に向かう経営戦略を考えていた。SS受託は建設費の投資から経営受託までやる。社長は「数が多く荷が重い」といいながらも「ビジネスにリスクはつきもの」と意欲的だ。同社には石油とLPガス類の保管管理という川上の主要な仕事があるが、経済事業改革にともない、川下の仕事が加速的に増えている。

◆SS投資から経営受託まで、多いセルフへの転換


 ――JA全農グループの燃料関係3社が合併し、4月に全農エネルギー(株)となりました。背景などをお聞かせ下さい。

 協同会社再編の一環です。しかし会社側としても川上から川下へ出て行かざるを得ない状況もあり、これを契機に、建設事業等をやめ、SS運営受託に集中するための事業の再編成に取り組みました。

 ――川下といいますと?

おざわ よしお
昭和21年2月生まれ。43年全農入会、役員室長、東京支所長などを経て平成13年全農参事。14年全農燃料ターミナルと全農テクノの代表取締役社長、16年4月全農エネルギー代表取締役社長。

 JA−SSのことです。ご存じの通り、ガソリンスタンドの競争は非常に激しい。その中でJAの場合は規模が小さく、収支のとれないSSが多い。しかも多くのSSが建設から25年を経て老朽化している。しかし更新は困難です。固定比率が高く、JAとしては新たな投資が難しいのです。
 昨年のJA大会で経済事業改革が決議され、平成17年度までの収支均衡が図れないJAは、最悪の場合、撤退も考えなくてはならない状況になりましたが、とはいっても組合員への燃料供給をやめるわけにはいかない。そこで誰か代わりにSSをやってくれないかという経営委託の要請が強まりました。これに応えて当社は川下へ出ています。


◆多い老朽化店舗


 ――小売分野への進出ということになりますね。

 そうです。合併前の全農燃料ターミナル(株)は石油とLPガスの基地を安全に管理するのが最も大きな仕事でした。他方、全農燃料テクノ(株)はLPガス充填(てん)所やSSの建設が主要な仕事でした。
 しかし充填所建設は1巡しているし、SSも今いったような状況で、建設事業の見通しは明るくありませんでした。それに基地全体の将来は先細りとされていますから、両社とも以前から、川上だけではない新たな事業展開を考えていました。
 それに6月からは石油輸送事業の元請業務を協同会社の(株)エーコープライン(ACL)から移管されるので、合併を機に基地・輸送・SSを結んだトータルな石油事業の展開を新会社の軸にする方針です。

 ――JAのスタンドは全国にいくつあるのですか。

 約4500です。1JAで30ヵ所ほどを経営している大型JAもあります。経験からいうと採算ラインはフル方式のSSで1月の販売量200キロリットル、セルフ方式で300キロほどですが、現実にはわずか10キロ、20キロという店舗もあります。


◆必要な店舗の更新


 ――赤字だから経営を任せたいといわれても、おいそれとは引き受けられませんね。

 綿密な調査や再編成が前提です。以前はJAが投資し、当社が経営するという考え方でしたが、実際にはJAの投資はほとんどなく、今は当社が投資まで引き受け、老朽化した小規模スタンドを再編成しています。リスクも、そちらでみてほしいといわれているからですが、ビジネスにはリスクがつきものですから基本的に引き受けています。

 ――専門的なスタッフがたくさん必要ですね。

 埼玉の草加とか所沢、山口の下関などのSSを運営してきた蓄積がありますが、それでは追いつかないので、他部門の社員も、それらの店で訓練して現場へ送り出しています。選択と集中でヒト、モノ、カネをSS受託に投入しています。

 ――何ヵ所で建設中ですか。

 昨年までは1年に2、3ヵ所でしたが、現在は約10ヵ所です。年内には25ヵ所の新設・改増を含めて受託数は50ヵ所近くにのぼる見込みです。とにかく全国から委託要請はすごい。人件費がかからないようにとセルフのスタンドに改造するケースが多い。もちろん旧式でも使える部分は、そのままにして運営します。それから1JA数ヵ所のSSを少数の店舗に集約する再配置も必要です。

 ――投資規模はどれくらいですか。借り入れはどこから?

 1ヵ所平均で1億円ほどです。市中銀行から借りていますが、自己資本の5倍程度が限度です。JAの金融は建設地に本社がないと借りられません。やはり悩みはカネとヒトですね。


◆運賃も合理化


 ――話は変わりますが、石油輸送の元請業務が移管されるねらいは?
 
 当社が元請けとして、輸送業者と契約し、石油基地・物流・SS展開という一貫した仕組みの中で運賃の合理化を図りたいということです。極端な話、基地もJA−SSも24時間営業をすればローリー車の回転がよくなる。物流合理化は両端の合理化が、その本質なので輸送元請も一元化されたと思います。

 ――全農オート(株)も一緒に合併となりましたが。

 全農本所の自動車燃料部が自動車事業から撤退して燃料部となったため、新車事業を支援する形だった中古車事業が、それだけで事業として成り立つかどうか収支を厳正に検討する必要があると考えています。

 ――LPガス供給のほうはどんな状況ですか。

 今は大丈夫ですが将来はこれも撤退したいというJAが出てくると思います。そこで、うちとしては秋田でJAあきた白神から引き継いだ小売事業を展開したりしています。また茨城ではJAグループと出光グループが組んで水海道市に大型のガス充填所を建設し、当社は共同検査所を含めて運営をし始めています。共同の輸送会社も設立することになっています。LPガスも川下へ向かう感じです。


◆今後は厳しい


 ――系統の燃料取扱量は種類別に見るとどうですか。

 1位がガソリン、2位が灯油、3位軽油、4位重油です。

 ――とにかく燃料事業は全農全体の収支面の柱ですね。

 燃料事業は全農の経営に大きな貢献をしています。しかしJA−SSは赤字で老朽化しているものが多い。だから、もっと燃料事業を活かす投資が必要になっています。

 ――前期決算はどうですか。

 売上高も経常利益もほぼ計画通りです。しかし今後は厳しいですね。石油基地が山陽と東海で閉鎖されたこともありますしね。

 ――それは合理化ですか。

 以前と違って元売り間の壁がなくなり、SSは近い精油所から直接、製品を受け取れるようになったので、2次輸送の必要性が減少したのが理由です。


◆農業は国の基本?


 ――最後に、日本の農業や農政についてどう思いますか。

 そうですね。私は全農時代に4年間、ニューヨークに駐在し、娘も現地の中・高校で学びました。その時、アメリカ人の社会科の先生から『国家の基本は食料の自給とエネルギーの確保です。それを他国に頼っていている日本は、いくら車を売りまくっても国としての形をなしていないのではないか』といわれてショックを受けたといいます。私も社会科の先生に同感です。
 農業を維持し育成して食料を確保するのは、どう考えても国家、行政の責任です。それを『消費者に選ばれるものを作れば農業は生き残れる』というのは需給の論理へのすりかえだと思います。国家でさえ支えきれていないものを、民間が事業として食料と農業を守り育てていくのは無理なような気がします。だからEUも共通農業政策に巨額の予算をさいて自国農業を育成してきました。アメリカでさえそうでした。

 ――しかし日本では、農業者とJAと消費者にすべて委ねられてきています。国内産を買うのも買わないのも生産者と消費者の責任にされそうです。

 地域農業を守るのは『農協の仕事だ』といわれても、その責任は重過ぎて果たしきれないように思います。

 ――考えて見れば、営農指導ではメシが食えないのというのに、それを負担したうえで経済事業の収支がとれなければ、平成17年度には、抜本的改善かやめるかどうかを考えなさい、というのはすごい論理ですね。

 JAグループとしては非効率な部分を反省し、改革しなくてはなりませんが、そうした事業面と、食料安保などの国家の課題は区分して考えないと責任があまりに重すぎて身動きができないような気がします。国が確固とした食糧と農業のビジョンをもち、その基盤のうえにJAグループが事業を通じて農家に貢献するのが本筋だと思います。

全農エネルギー株式会社(東京都千代田区猿楽町1)
▽昭和54年12月全農燃料ターミナル(株)として設立
▽平成16年4月、同社と全農燃料テクノ(株)と全農オート(株)が合併して社名変更
▽資本金23億5000万円(JA全農の全額出資)
▽事業内容=石油・LPガス類の保管管理、受払い、運送、販売および保安、製造・貯蔵・充填・販売に関わる施設と設備機器類の検査、修理、運営、同施設の設計、その他
▽15年度の各社売上実績は、ターミナル約107億円、テクノ約47億円、オート約20億円。

インタビューを終えて  
 小澤社長とはニューヨークで一時期、職場が同じだった。小澤さんは飼料原料買い付けの責任者をされていた。当時の仕事は、その日の活動をまとめて海外情報として夕方東京へファックスを送信して終わる。特に金曜日の夜など娯楽の少ない現地では、何回か麻雀卓を囲んだ仲でもある。小澤さんはねばり強くて一番強かったような気がする。
 今回インタビューで15年ぶりにお会いし、率直なお話を聞かせてもらったが、童顔に白髪が目立つ。その後苦労したということももちろんあるが、海外の飲料水が頭髪を白くするという説もある。娘さんは、米国ニュージャージー州のフォートリー高校で4年間も勉強した帰国子女、既に結婚。息子さんは、コンピュータ・グラフィックの仕事に就いている。NHKテレビにも作品が映るほど。自宅は埼玉県所沢市、ご両親と同居。90歳を超えたお父さんはなおお元気で、杖もつかずに歩いておられるという。趣味のゴルフは平均スコア95と謙遜。筑波と飯能の東西のゴルフコースで月2回はプレーする。(坂田)
(2004.6.2)

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