トップページにもどる 農業協同組合新聞社団法人農協協会 農協・関連企業名鑑

沼野郁夫氏

21世紀に向けて 食料・農業・農村に新しい風を


流通現場も期待する安心システムの実現を

 (株)ライフコーポレーション生鮮・食品本部長
沼野郁夫

【沼野郁夫(ぬまの いくお)氏略歴】 昭和21年5月生まれ。昭和44年3月東京農工大学農学部卒業。同年4月農林中央金庫へ入庫。平成10年4月同庫人事部参事。同年5月(株)ライフコーポレーションへ入社し、営業総本部長補佐に就任、取締役に(現任)。同年12月営業推進本部長に。平成11年3月生鮮・食品本部長に就任し現在にいたる。
聞き手 鈴木俊彦(農政ジャーナリスト)

 いま、消費者が購入する生鮮食品の約70%は、スーパーなど量販店からだといわれている。そして野菜などの生鮮食品は「スーパーの顔」といわれ、その良し悪しで集客力が大きく変わるという。そこで、地域の暮らしに密着することを店舗戦略にして、首都圏と近畿圏に190店舗を展開する(株)ライフコーポレーションの生鮮・食品本部長である沼野郁夫氏に、JAグループへの期待と提言をお聞きした。聞き手は、農政ジャーナリストの鈴木俊彦氏。

● ● ●
「安心システム」は時宜を得た提案

 ――この10月に開催される第22回JA全国大会の議案では、「安全・安心な食料の供給を通じて、消費者と生産者の連携をすすめる」ために「安心システム」による品質保証、生産過程の情報開示ということを打ち出していますが、JAグループの生鮮・食料品の供給のあり方についてどう考えておられますか。

 沼野 お客様のニーズは、景気低迷・消費低迷の影響で、いかに良いものを安く買えるかにあると思います。と同時に、売る側も大店法の改正問題とかがあり売場面積が広がり供給過多になっていますので「低価格指向」になっています。そして、雪印乳業の問題もあって、安心・安全への意識が高まっています。さらに高齢化社会を迎えていますが健康面への配慮も大きな流れになっていますし、環境にやさしくということもあります。お客様からは今いった、価格、安心・安全、健康そして環境対策にどんな取組みをしているのと聞かれることも多いですね。
 これらに対してJAグループがどう対応してくれるのかなと思っておりますので、今回のJA大会議案で提唱されている「安心システム」は時宜を得たものかなと感じています。

● ● ●
自然大好き・健康大好きのコンセプト掲げて

 ――安心・安全については、かなり前から積極的に取組まれていますね。

沼野郁夫氏 沼野 「自然大好き・健康大好き」のコンセプトを売場に掲げていますが、5年ほど前に各売場に農産物のコーナーを設けました。しかし、有機だけで品揃えしようとしても難しいですね。また、有機が広がった場合に、1つの売場に有機コーナーとノン有機コーナーができるのは好ましくありません。これからは、農薬などの使用を抑えたものが主流になっていくと思い、3年前に、有機だけから減農薬・減化学肥料あるいは無漂白とか無添加などに範囲を広げ「自然大好き」コーナーと名づけました。
 「健康大好き」は、栄養面からビタミンとかカロチンが多いとか、緑黄野菜など、高齢化とか健康に配慮した食品ということです。

 ――有機農産物の売上は増えてきていますか?

 沼野 価格が少し高くなりますので、すべての方が買われるわけではありませんし、全体の中で占める割合も大きくはありませんが、固定客は確実に増えています。3年前に比べると倍近くはなってきていますね。

 ――これまでは有機といってもまがい物も多くて、認定が難しかったわけですが、今度、JAS法が改正になり、有機認証システムが導入され、法律で保証されるようになりましたが…。

 沼野 そういう動向を意識した売場づくりをしていきたいと考えています。また、仕入先なり取引先とも互いにチェックしながらやっていきます。いまでも、遺伝子組換えの問題がありますが、大豆食品については国産大豆を使っているという確認書を取引先からいただいています。
 おコメについても、最近はお客様の安全意識がかなり高まってきています。減農薬・減化学肥料のおコメを少し高めですが出しますと、こちらの方が売れています。

 ――社内的な基準は設けられているのでしょうか。

 沼野 有機については、今回の農水省の認証がありますね。減農薬とかについては、一定の基準を設けています。

● ● ●
予約相対取引きで良いものを安定して

 ――生鮮食品を中心とする農産物の仕入はどのようにしていますか。

 沼野 安定的に良いものを安く仕入れることが、結果的にお客様に安く販売できることになるわけです。農産物の場合には市場流通のウェイトが高いわけですが、それだけでは本当にお客様の欲するものを十分手当することは難しいですね。実際に私どもでは30%くらいが市場外流通になっています。お客様のニーズに応えるためには、この流れは広がっていくのかなと思います。

 ――JAとも直取引されているのですか。

 沼野 仕入れの形態としては、市場流通と市場外と市場内の産直といいますか予約相対の3つを併行しています。
 近隣の生産者と契約して店舗に直接入れて1コーナーつくるとか、あるいはジャガイモのように販売期間の長い商品の場合には、北海道の生産者を限定し、生産者の名前を使って店頭に並べるとかというものもあります。

 ――「顔の見える」ということですね。

 沼野 そうですね。生産者の名前と写真をつけて販売していますが、その生産者のところにお客様からたくさんのお手紙が来ています。そういう意味では、まさしく「顔の見える」野菜ですね。そしてそれが結果として安心や安全につながっていくわけです。

 ――量販店の場合には、予約相対が増えていますね。

 沼野 伝票を通すにしても、当社規模になりますと、そうしないと安定供給できません。

 ――生産者にとっても、セリ取引では価格が乱高下して安定的な収入が得がたいということで、あらかじめ値決めしてくれた方がありがたいといいますね。

 沼野 例えばチラシで事前に価格を伝える場合、その日に価格を決めることはできませんしね。ですから、安定的な価格で安定的な数量を仕入れることは大きな関心事になります。

● ● ●
食事のメニューを提案できる売場づくり

 ――Aコープが生鮮も含めて消費者に供給していますので、量販店やコンビニエンスストアとJAはライバル関係といわれてきましたが、最近は農産物の供給先・受け皿として量販店を重要視してきているようですね。

沼野郁夫氏 沼野 Aコープのある地域とわれわれのような食品スーパーのある地域は、ある程度区分けできるのかなと思いますね。

 ――棲み分けですか。

 沼野 棲み分けができたところとできていないところの境目あたりでは、競合はあるかもしれませんね。
 それと「地域密着」とはどういうことかということを考えるときに、Aコープのやり方は、大変参考になりますね。

 ――消費者が八百屋さんから購入することが少なくなって、八百屋さんがなくなってきてますね。そうすると消費者も量販店に頼らざるえないわけで、生産者も量販店を重要視していかざるをえないですね。

 沼野 鮮度管理の問題とかを含めて専門的にやっていますし、それなりの自信をもってやっています。それとワンストップショッピングといわれますが、主婦も忙しくなっているので、何でも揃っているスーパーで、短時間で買い物をするようになります。そういう意味では、時間にも価値観がでてきていますね。
 専門店さんは、何か独自のものを持たないと難しいでしょうね。

 ――そうでしょうね。

 沼野 お客様の80%くらいは、(献立を)何を作るか決めずにお店に来られ、お店に来てから考えられているそうですから、その季節や時期、気候にあったものをいかに提案するかが、大事になります。売場づくりもそうした提案型で考えていかなければいけないと思っています。
 あるいはいま日本食が見直されていますが、ご飯と味噌汁と漬物で食べると、繊維質が豊富でコレステロールがないとか、単品で売るのではなくメニューで提案する売り方があると思いますね。

● ● ●
PR・宣伝をもっとうまく

 ――JAグループへの期待とか提案がありましたら、ぜひ、お話いただきたいと思いますが…。

 沼野 JAグループはPRとか宣伝があまりうまくないなという感じがしてますね。例えば、安心・安全について努力をしているわけですから、そういう部分をもっとうまく活用するとかですね。農産物もボーダレス化になって競合するものが増えていますが、それは比較対象ができるわけですから、国産にとってはチャンスだと思いますよ。
 テレビ番組でタマネギが血液をサラサラにする効果があるよというと、翌日にはタマネギの売上が3倍になりますから、そういうことを含めて、宣伝・PRを上手にやられるといいと思いますね。

 ――情報の提供も含めてですね…。

 沼野 情報ということでは、例えば台風がきたときに、農産物の被害状況がどうかという情報を一番とれるのは農協系統ですね。私たちは、出荷数量がどうなり、価格がどうなるのかを常に意識しているわけですが、そういう情報が入ってくるのは、商社系とかが多いんですね。
 そういう意味では、JAグループは宝の持ち腐れだと思いますよ。

 ――JAの合併がすすんで大型化していますが、そのあたりはどうですか。

鈴木俊彦氏 沼野 産地が大きくなったときに、品質の安定化などで、どう私たちの要求に応えてくれるのかなと思いますし、合併による規模のメリットを商品供給の面でうまく活かして欲しいなと期待しています。

 ――物流面もいろいろ課題がありますね。

 沼野 私たち小売は土曜日でも日曜日でも営業していますし、稼ぎどきでもあるわけです。そのときに市場も産地も休まれると、一番ボリュームが多いときに供給がストップしてしまうわけです。JAが時間を拡大し、安定的に商品を供給して欲しいと思います。

 ――青果物の物流では、多段階輸送など物流の合理化が遅れているという指摘がありますね。

 沼野 問題点は2つあって、1つは時間がかかり、コストがかさむということです。もう1つは安心・安全ともつながりますが、コールドチェーンが切れてしまうという温度管理の問題です。
 今後は、極力コールドチェーンが切れないように、あるいは積み下ろし回数を減らすという意味で、産直形式とか市場外など、直接センターや店舗にという形がニーズとしては上がってきています。いずれにしても、川上と川下が同じような流れをとっていかないと、うまくいかないのではないでしょうか。

 ――最後になりましたが、JAグループへのメッセージを一言…。

 沼野 私どもはコンセプトとして、「良い商品・良いサービス・良いお店」を掲げています。良い商品・良いサービスとは、お客様にいかに安心できるものを安い価格で提供できるかということです。今回のJA全国大会での提案は、安心・安全とコスト面で期待しています。

 ――本日はありがとうございました。


インタビューを終えて

 「青果物はスーパーの顔」と言われる。「地域密着ネットワーク」をモットーに「よい商品、よいサービス」を心がけているライフコーポレーションの生鮮・食品本部長にお会いして、こうした社是の徹底ぶりを直に知ることができた。
 ”志ある企業”をめざして創業30年、マスコミ等で有名な清水信次会長のいわゆるシミズイズムは、青果物取扱いの面でも全190店舗に浸透しているようだ。それは、何よりも安全・安心に力点を置いて、消費者の食生活を応援し、新しい食のライフスタイルをすすめていく”提案型”のスタンスに生き生きと感じ取れる。

 JAグループも、第22回JA全国大会の議案で「安心システム」づくりを提起し「フード・フロム・JA」運動の展開を呼びかけることになった。この限りで、JAと量販店との間には”志の一致”が認められる。
 とかくこれまでは、JAとスーパーとは競争相手であり敵・味方の間柄とみられてきた。それはAコープ品を巡る競合の面で強く意識されたものだが、農産物供給の受け皿としては、やはり重要な存在である。そのことに気付いて積極的な提携を図るJAも少なくない。この”川下状況”は視野に収める必要がある。対談を終えて、なおさらに痛感した次第だ。 (鈴木)



農協・関連企業名鑑 社団法人農協協会 農業協同組合新聞 トップページにもどる