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シリーズ
21世紀を拓く 経済と農業のゆくえ
NGOの動きに注目しよう(下)

三輪昌男 國學院大学名誉教授

◆別のダボスの構成者

この本(『別のダボス/世界経済システムへの抵抗のグローバル化』=リゼッドブックス)に出てくる参加者のなかに、私が名前を知っていた人が2人。それを知って私は読む意欲をさらに掻き立てられた。
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 ◎スーザン・ジョージ。この本の実質第1論文「新自由主義小史」の筆者。いずれも朝日新聞社から5冊の著書が邦訳出版されている。最初の『なぜ世界の半分が飢えるのか』(80年)に私は感動した。本紙の読者にも同様の方がいらっしゃるのではなかろうか。米国出身の女性の著作家。詳しくは、最新邦訳『ルガノ秘密報告』(2000年)の「あとがき」にある自己紹介を参照されたい。
 ◎サミール・アミン。実質第2論文『資本主義のグローバル戦略』の筆者。『世界資本主義蓄積論』(79年)を皮切りに、主として柘植書房から5冊の著書が邦訳出版されている。エジプト出身。パリの大学で学んだエコノミスト。74年の国連特別総会で「新国際経済秩序に関する宣言」が採択された前後の時期に、攻勢を示した「南」の、理論的支柱であった「新従属学派」の論客の一人。
◇    ◇   ◇
 「別のダボス」開催への足取りをみよう。
 ●96年、ベルギーの「ルヴェン・カトリック大学」の「三大陸センター」の創立20年記念集会で、「別のダボス」開催が発議された。それゆえに、同センターのF・ウタルトという人が、「別のダボス」集会の議長を務め、本の編者となっている。
 ●97年3月、エジプトのカイロで「代案のための世界フォーラム」を開催(参加者千人以上)、宣言を発表。暫定執行委員会(議長S・アミン=カダール在住、事務局長F・ウタルト=ベルギー、広報担当P・ポーデット=ケベック)が発足した。
 ●98年5月、99年1月の「別のダボス」集会の実施を決定。
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 「別のダボス」集会を主催したのは、次の4つのNGOであった。
 ★「市民の利益のための金融取引課税の協会」
 本拠はフランス。99年5月現在、イタリア、ベルギー、スイス、ブラジル、ケベックに国別組織がある。(なお前出『イミダス』は、この団体がポルトアレグレ集会を呼び掛けたと記している)
 ★「MAI(多国間投資協定)に反対する連合」
 フランス。S・ジョージは、この連合の会員である「グローバル化観測所」の代表として参加している。
 ★「代案のための世界フォーラム」(前出)
 ★「構造調整参加型観察・ラテンアメリカ支部」(情報なし)
 次のNGOが招待され、参加した。
 ●ブラジル「土地なし農業労働者運動」
 ●韓国「国際的連帯のための政策・情報センター」(「韓国労働組合センター」)
 ●ブルキナファソ「農業者団体全国連合会」
 ●ケベック「女性運動」
 ●フランス「失業者運動」
 <他の参加団体>
 ●「第三世界債務取消しのための委員会」
 ブリュッセル(ベルギー)本部。ヨーロッパ、アフリカ、ラテンアメリカ支部。
 ●「三大陸センター」(前出)
 ●「アラブ議会」
 ●「権利第一協会」フランス
 ●「移住者受入れのためのスイス教会組織」


◆新しい流れの特徴

 「別のダボス」「ポルトアレグレ」は、
 ●シアトル、地球環境保護などと同様の、大きな中心課題に多様なNGOが結集した集会である。
 ●中心課題は、ダボス会議(大企業が主勢力)が推進する「新自由主義(優勝劣敗、強きを助け弱きを挫くこと、を善とする)グローバル化(大企業が自由に行動するための国境の除去)」への抵抗である。
 ●新自由主義グローバル化が生み出している大間題として、一国内と諸国間の両方での「経済的不平等」「富の偏在」の著しい強まりを取り上げている。かつてその位置にあった地球環境問題は後景に退いている。けっして軽視されているわけではないが。
 ●多様なNGOがそれぞれの中心課題に即して、大間題の具体的な表れを指摘し、それを生み出している元凶を批判する。
 ●さらに、大問題を解決する具体的提案、つまり「ダボス会議」の路線に対する「代案」の提起、に力を注いでいる。これまでは批判で終わっていたと厳しく反省して。それぞれの中心課題との関連で。また、必要に応じて新しいNGOを結成しながら。「別のダボス」の参加NGOの多様な具体的なあり方に、それをうかがうことができる。
 ●組織運営の原則として、「コーディネーション(調整))と「コンバージェンス(収斂)」を強く唱えている。同じ課題について意見の違いが、また、どの課題を優先して取り上げるかについて対立が、ありうる。それを粘り強く、徹底的に調整し合う。そうするなかで収斂が、つまり意見の統一が生まれる。その統一方針を行動に移そう、というのである。当然に弱者への配慮がある。弱者切捨て、敵か味方か(敵は力でねじ伏せる)、の新自由主義の原則に明確に対置されている。
 ●ダボス会議路線の被害は南も北も同じという立場が明確である。途上国援助を否定するのではなく、その両者の関係を超えている。


◆新しい流れに参加しよう


 シアトルでみられたNGOの動きは、日本の農業のゆくえに明るさを見出すうえでの援軍になりうる、ということで、その後の動きに目を注いできた。
 「別のダボス」のシアトルとの関連は、ポルトアレグレ01年集会の「宣言」ではっきりとこう述べられている。「私たちは、シアトル以降成長した運動の一部である」。
 シアトルであげられた「自由貿易主義反対」の声は「新自由主義のグローバル化への抵抗」に変わっている。これは「自由貿易主義反対」を全面的に継承しながら、より幅を広げ、より今日的にしたものといってよい。
 その全面的継承は、「宣言」がこう述べていることに明らかである。「私たちは、完全雇用、食料の安全保障、公正な交易条件、地方の繁栄、を保証する貿易のシステムを要求している。自由貿易は、けっして自由なものではない」。
 シアトルで始まった新しい流れが、援軍でありうることは確かといえる。
 しかし、そういって終わりにはできない。農業に明るさを求める人は、新しい流れへの参加に努めるべきであろう。どのようにか。
 インターネットでの参加。シアトル、ポルトアレグレの大集会は、その結実であった。集会への参加が困難でも、情報を得、意見を表明するルートは、1個人にとっても間違いなく開かれている。スーザン・ジョージは、その参加を呼び掛けている。英語を少し勉強しよう、といいながら。
 言論人にとっては、日本の言論の場での発言が重要な参加である。言論が制約されている政府と違って、自由貿易主義反対を唱えうる。輸入国の立場での貿易こそ公正な貿易だ、と主張できる。具体的なルールはこうだ、と提案できる。今までなぜそうしなかったかの反省が、参加の第一歩であろう。
 私は今、ゼッドブックスの新刊本から選んだ6冊を抱えている。新刊相次ぎ、増える一方で、邦訳刊行にせよ、要旨紹介にせよ、老骨の力では遙かに及ばない。私など置き去りにして取り組む人たちの出現を、切に願っている。


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