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鎌形 正樹氏

米の早期出荷傾向強まる
減反強化、価格低下へ影響も

立正大学研究生 鎌形 正樹

(かまがた・まさき) 昭和40年生まれ。同63年東京農業大学農学部卒、同年(社)農山漁村文化協会入社。平成2年同社退社、自営農業。同10年立正大学大学院経済学研究科。12年修了。現在農業のかたわら研究生。


 早場米地帯として知られている千葉県では、今年は例年よりかなり早く稲刈りが始まっている。近年の県東北部における田植えの最盛期は、5月の連休なのだが、今年は1週間ないし10日早く行われた。

◆極早生品種の作付け急増

 田植え時期から人目を引いたこの変化は、稲の品種が変わったためであった。県全体での品種の変化は、表1からわかるように、ふさおとめの急増である。1998年から99年にかけて倍増し、約1割となった。公式数値の発表は例年10月頃であるため推測ではあるが、関係者の話から今年は更に増えたことは確実とみられる。

 県東北部に位置する東庄町では、よりわかりやすい数値で現れている。
 1998年から99年にかけて3.4倍となり16%にまでなった。さらに今年は25%にまで増加している(町の数値は、農協把握のものを使用)。そして県・町共に、ふさおとめが増加した反面、初星・こしひかり・はなの舞い・ひとめぼれが減少した。ふさおとめは、千葉米改良協会の資料によれば、千葉県農業試験場で1995年に開発され、1997年に千葉県の奨励品種に採用されている。品種特性は、早生の中でもかなり早い方の、いわゆる極早生である。作付けが減った銘柄の中で、こしひかり以外は早生種であり、早生から極早生への転換が進んでいると言える。

 もう1つの流れは、優良銘柄であるが成熟が遅い、こしひかりからの転換である。つまりふさおとめ急増の背景には、早生から極早生へと、こしひかりからふさおとめへという2つの流れが考えられる。

表1 銘柄別作付け面積 単位:ha
銘柄/地域 千葉県1998 千葉県1999 増減面積 東庄町1998 東庄町1999 増減面積
こしひかり 36,988 36,196 -792 305 293 -12
初星 4,170 2,408 -1,762 119 77 -42
はなの舞い 1,130 691 -439 39 22 -17
ひとめぼれ 3,638 3,381 -257 90 83 -7
ふさおとめ 2,533 5,046 2,513 35 119 84
あきたこまち 2,857 3,046 189 103 106 3
その他 852 681 -171 53 34 -19
水稲うるち計 52,168 51,449 -719 744 734 -10


◆品種が変わった原因は価格体系

 急激な変化の背景として考えられるのは、奨励品種としての普及とそれが受け入れられる価格体系である。昨年の期間別生産者価格を表2にまとめてみた。
 現実に出荷される時期は、ふさおとめで8月20日、初星で同30日、こしひかりでは9月10日前後が多いと見られる。これを価格帯表に重ねてみるとわかるように、優良銘柄のこしひかりでも15,000円の安値での出荷となる生産者が、多いはずである。

 一方ふさおとめは、上手く行けば17,000円、やや遅れたとして15,600円となり、まだこしひかりより高い価格で売れる訳である。初星は、価格の変化こそふさおとめに似ているものの、現実には13,000円の価格帯で出荷する生産者がほとんどとなり、こしひかり・ふさおとめとはかなりの開きが出てしまう。
 またふさおとめの反収は、初星やはなの舞い並みで県平均9.5俵、こしひかりは同8.5俵である。つまり17,000円の価格帯で出荷できた場合は、1反当り161,500円の売り上げとなり、15,600円になった場合は、148,200円となる。同様にこしひかりでは、127,500円、初星では、123,500円となる。

 以上のように、ふさおとめは生産者にとって非常に魅力的な品種なのである。全体的に米価が下がっても、平成11年のような価格体系の中では、引続きふさおとめへのシフト圧力が存在し続けるものと考えられる。

表2 平成11年産米期間別生産者価格 (1等米・60kg・単位:円)
銘柄/期間 〜8/13 8/14〜8/20 8/21〜8/27 8/28〜9/2 9/3〜
こしひかり   18,000 17,000 16,000 *15,000
ふさおとめ 17,500 *17,000 *15,600 13,600  
初星 17,000 16,500 15,000 *13,000  
その他   15,000 14,000 12,500  
注) *印は、主な出荷期間

◆個別経営と米農家全体との矛盾

 個別農家としての有利性があるために変化が起きているのは今見たとうりで、むしろ当然の動きとも言えよう。しかしこれには、注意しなければならない点がある。
 それは、減反の強化につながる要素を持っているということである。何故かと言えば、こしひかりと比べて反平均60kg収量が多いので、栽培面積が一定とすると、増産したことになるからである。この点は特に、こしひかりからふさおとめへの転換が進む時に問題となる。

 また、ほかの早生種からの転換の時も、ふさおとめは特に収穫期が早いので、それだけ台風などの被害を受ける確率が低くなる。これも結果的には、増産につながることになる。残念ながら現在の日本では、米を増産すると、翌年の減反強化と、価格の低下を招いてしまうのである。
 もう1つは、新米価格引き下げ要因になっている、ということである。新米価格の低下はこのほかの要因も重なって起きていると考えられるが、ふさおとめなどの極早生品種が、早くから市場に出まわることで、こしひかり・ささにしきなどの美味いと言われている品種の新米が出るまでに、新米セールが一通り終わってしまうからである。

 もう少し詳しく見ると、一般に早生種は、銘柄米と比較した場合、低価格である事から、早期に低価格の新米がたくさん店頭に並ぶことで、銘柄米の価格をより高いと印象づける事になる。こうして低価格の早生種に引きずられる形で、銘柄米も下がらざるをえないという構造が発生するのである。

◆農協に調整役を期待する

 全体の米価格が低下することは、もちろん農家の望むところではない。かといって全体の価格維持のために当面の利益を見逃すことを個別の農家に求めるのは筋違いである。この調整ができる機関は、農協のほかに見当たらない。
 農家の信頼を高めていく努力をし、減反政策の推進など個別の農家の利益に反することについて、農業全体の振興のために行動をしてもらう必要がある。このままでは、減反不履行や自分だけの利益確保にバラバラに動き、更なる価格破壊を招いてしまう。今、その対応が問われているのではないだろうか。



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