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 検証・時の話題

輸入急増 野菜戦争 その2

300万tを超えた輸入野菜と国内産地の対応方策

東京農業大学国際食料情報学部教授 藤島 廣二

藤島 廣二氏
(ふじしま ひろじ)
昭和24年生まれ。
55年北海道大学大学院農学研究科博士課程単位取得、農学博士。
同年農水省東北農試、平成5年農業総合研究所を経て、8年東京農業大学農学部農業経済学科教授、10年より現職。
主な著書に「輸入野菜300万トン時代」(家の光協会)、「地域農林経済研究の課題と方法(共著)」(富民協会)、「現代卸売市場論(共著)」(筑波書房)、「流通再編と食料・農産物市場(共著)」(筑波書房)など多数。
 70年代までは10万t以下だった輸入野菜

 野菜はかつて、品質の変化が急速に生じるという属性等のために、輸入が最も困難な農産物・農産加工品とみられていた。事実、1960年代前半までにトマト加工品を除く全ての品目で輸入が自由化されていたにもかかわらず(トマトペースト、ケチャップ等のトマト加工品は72年から89年にかけて順次、輸入自由化品目に移行した)、70年時点で輸入量は生鮮物と加工物を合わせても10万tに満たなかった。ここでいう野菜は、いも類(バレイショ等)、きのこ類(シイタケ等)、および果実的野菜(スイカ等)を含んでいるにもかかわらず、また加工物は原料段階の生鮮数量に換算された上で加算されているにもかかわらず、この程度にすぎなかったのである。
 ところが、最近はまさに様変わりし、年間輸入量は生鮮物と加工物(生鮮換算数量)の合計で優に300万tを超え、価格の低落傾向も認められ、セーフガードの発動さえ強く要望される状況となった。
 以下では、このような情勢変化を踏まえ、次の2点に絞って叙述を進めていくことにしたい。その一つは、これまでの野菜輸入量の増加状況を統計データを基に明示し、輸入増大に関する特徴を解明するとともに、その増加要因を指摘すること。もうひとつは、輸入量の増大傾向の下での国内野菜産地の対応方策を提起することである。

 輸入動向 3つの特徴点

 ここでは、野菜輸入の増大の実態を正確に把握するために、今日までの輸入動向を3つの視点(総輸入量と輸入物シェアの推移、製品形態別輸入量の推移、相手先国別輸入量の推移)から分析し、3つの特徴点を究明することにしたい。



◆1980年代中ごろから始まった輸入増大図1

 まず初めに、野菜総輸入量の経年的な変化に関する特徴を見い出すために、図1において総輸入量(生鮮野菜輸入量と加工野菜生鮮換算輸入量の合計)そのものと、それが国内の野菜消費量および野菜流通量に占めるシェアを示した。なお、ここでは3カ年移動平均値を用いたが、その主な目的は変化し始めた時期を明確化するためである。
 同図によれば、野菜輸入量の増加は70年代前半よりもその後半以降において、またさらに80年代後半以降において、ますます著しくなっていることが明らかである。しかも、最近の輸入急増は86年を境に始まったことも明白である。
 ちなみに、86年と97年の野菜総輸入量(3カ年移動平均値)を比較すると、126万tから334万tへ、200万t以上も増加し、対消費量シェアは86年の5.3%から97年の15.1%へ、対流通量シェアは86年の8.6%から95年の21.3%へ、それぞれ10〜13ポイントも上昇した。
すなわち、野菜輸入に関する第1の特徴は、80年代中期を境に、それまで経験したことがないほど著しく増加し始めたことである。

◆冷凍野菜・生鮮野菜を中心にした増大図2

 次に、野菜の製品形態別輸入量の動向に関する特徴を明らかにするために、1975年以降におけるそれぞれの年間輸入量を示すと、図2のとおりである。
 同図をみると、各形態別輸入量がいずれも80年代中期以降、それ以前に比較して増加したことが明らかであるが、それとともに増加状況が形態ごとに違っていることも明らかである。
 最も明白な増大傾向を示しているのは冷凍野菜と生鮮野菜で、冷凍野菜の場合、85年を起点に顕著に増加し、同年から99年までの間に製品数量で約60万t(生鮮換算すると80〜100万t)増加した。また、生鮮野菜は88年に20万tを超えてからは、それを下回ることはなく、93年に41万t、94年に68万t、そして99年には92万tに達した。
 この2形態に対し、塩蔵野菜の場合は漬け物の消費が浅漬けにシフトし、国産生鮮野菜を原料とする方向に転じたため、輸入量は80年代末以降、横這い状態のままである。また、残りのトマト加工品等は引き続き増加傾向を維持してはいるものの、冷凍野菜のような顕著な増加傾向ではない。
 いずれにしても、野菜の形態別輸入動向をみると、80年代中期以降、冷凍野菜と生鮮野菜の増大が特に目立つようになったと言えるが、この点が第2の特徴である。

◆90年代における輸入先相手国としての中国の伸長表1

 最後に、相手先国別輸入量の動向に関する特徴を見い出すために、生鮮野菜、冷凍野菜、塩蔵野菜の3形態と野菜全体とについて、アメリカ、中国、台湾の構成比を算出すると、表1に示したとおりである。
 これから明らかなように、78年当時は台湾が比較的大きな位置を占めていたが、80年代から90年代にかけての同国・地域からの輸入量の減少と相俟って、その位置は著しく後退した。それに替わって90年代に入ってから急速に台頭したのが中国で、最近では生鮮野菜や冷凍野菜でも大きな比率を占め、野菜輸入量全体の中で中国からの輸入量が半分近くを占めるほどである。  ちなみに、中国からの輸入量は、生鮮野菜で92年の3万t弱から99年の32万tへ、7年間に約11倍に増大し、冷凍野菜で90年の4万t弱(製品数量)から99年の30万tへ、9年ほどの間に8倍近くにまで増大した。
 このように、最近は台湾に替わって中国が顕著に伸びたが、これが第3の特徴である。

輸入増大の主因

以上のような特徴を有する野菜輸入の増大について、その要因を種々分析すると、主因は次の2点であると考えられる。

◆輸入価格の低下 図3図4表2

 その一つは、輸入野菜の価格の低下であろう。
 輸入価格の低下が起きたのは、改めて言うまでもなく、85年9月のプラザ合意を契機とした円高の進行によるものである。図3と図4において、冷凍野菜と生鮮野菜の各2品目を例に、円高開始後の国産物と輸入物の価格の推移を比較したが、いずれも円高の進行につれて輸入物の単価が国産物に比べ相対的に著しく低下したことが明らかである。特に冷凍物の単価は円高の進行に反比例して急速に低下したといえる。この低下が冷凍物輸入の86年からの急増に結果したとみて間違いないであろう。ちなみに、88年から90年にかけて円安に振れた時には、冷凍物の輸入単価は上昇し、輸入量はごくわずかな増加にとどまったのである。
 また、95年以後の円安期においては、輸入野菜価格の低下、あるいは低単価の維持は、中国産物の低価格によるところが大きいといえよう。表2において中国産物と他国産物の輸入単価を比較し、さらに90年と99年の単価を比較したが、これによって中国産物が他国産に比べ全般に低価格で、しかも近年、中国内での野菜の増産によって価格が一段と低下していることが明らかである。こうした低価格のゆえに、90年代に入ってから、中国産物の輸入が大きく伸びたのであろう。

◆国内野菜生産力の低下図5

 主因のもう一つは、国内の野菜生産力の低下であろう。
 図5は生鮮野菜輸入量と国産野菜の収穫量・出荷量の推移を示したものであるが、これから明らかなように、生鮮野菜の輸入量が毎年20万tを超えるようになったのは、国産野菜の収穫量・出荷量が減少傾向に転じてから、すなわち国内生産力が低下し始めてからである。しかも、国産物の収穫量・出荷量が前年よりも増加した年(89年、92年、95年、96年)には、輸入量は必ず前年よりも減少しているのである。
 このように生鮮野菜の場合、その輸入量の増加に対して、国内の野菜生産力の低下が大きく作用したといって間違いないであろう。ただし、99年と2000年は国内の収穫量・出荷量が増加したにもかかわらず、生鮮野菜の輸入量の増加がみられる。低価格の中国産生鮮野菜の増加等によって、輸入物の力が一段と増したのであろう。

国内産地、3つの対応策

 最後に、これまでに明らかになった野菜輸入量増加の特徴とその要因とを手掛かりに、国内産地の対応方策を整理するならば、主に以下の3方策が挙げられよう。

◆コストの削減
 収穫・調整・選別作業の簡素化

 第1の方策は、輸入物の低価格に対抗するためのコストの削減である。
 中国野菜と国産野菜の生産コストを比較すると、改めて述べるまでもなく、最も大きく異なるのは人件費(労働費)である。その格差は当然、品目等で違いがあるものの、ごく大まかにいえば、日本の1単位生産量当たり人件費(または10a当たり人件費)は少なくとも中国の15〜20倍にのぼる。したがって、生産コストの削減に当たっては人件費の削減が最も重視されねばならない。すなわち、野菜生産において人手を最も要する収穫・調整・選別作業をいかに簡素化するかが、最も重要といえる。具体的には、販売先の量販店等と連携して規格数を減らし、その分だけ作業時間を削減する、等である。
 ちなみに、あるJAではキュウリの規格数を従来の9段階から7段階に減らしたことによって、選別・箱詰め時間が従来の3分の1程度に短縮されたとのことである。

◆差異化の推進
 個包装加工や高品質化

 第2の対応方策は、輸入物との差異化(差別化)を推進することである。
 円高の進行や中国からの輸入増等によって、価格競争においてますます不利になる国内産地や品目が増えつつあることを考慮するならば、同競争を極力回避するための差異化は軽視できない対応方策といえよう。
 差異化の具体的な方法としては、例えば量販店向け野菜のコンシューマーパック(個包装)加工の実施が挙げられる。量販店で野菜を販売する場合、バラ売りではなく、パック売りが一般的であるが、最近では諸般の事情からパック加工を外部に委託するか、事前にパック加工された物を仕入れることが多い。しかも、外国ではわが国の量販店の意向に対応したパック加工を行うことが一般に困難である。それゆえ、国内産地でのパック加工は輸入物に対する差別化の有力な手段となりうる。ただし、個別農家段階でのパック加工は時として過重な労働を強いることにもなることから、単位農協や農協連合会段階でのパック加工、あるいは卸売業者等との連携による消費地でのパック加工が望まれよう。
 差異化のもう1つの方法例としては、有機無農薬野菜、完熟(適熟)野菜、朝採り野菜といった「高品質化(高付加価値化)」が挙げられる。これらは通常の栽培・収穫方法による野菜とは品質が異なるだけでなく、流通距離も異なるのが普通である。というのは、完熟(適熟)野菜と朝採り野菜の場合はもとより、有機無農薬野菜の場合も生産者と消費者との信頼関係を確保する上から流通距離が短い方が好ましいからである。それゆえ、輸入物の「高品質化(高付加価値化)」は一般に難しく、それだけ差異化の手段として有効であると言える。

◆国内生産力の維持・強化
 生産の分業化と地域流通の活用

 第3の対応方策は、国内の野菜生産力(供給力)を維持・強化することである。
 生鮮野菜の輸入量が88年以降に急増した主因が国内の生産力の低下にあったことを考えるならば、その維持・強化は不可欠の対応方策といえよう。
 国内生産力を維持・強化するための具体的な方法の1つは、生産の分業化である。野菜生産は通常、育苗、定植、管理、防除、収穫、調製といった諸作業に区分できるが、これらのうち例えば育苗作業と調製作業を個別農家の作業から分離するというのが生産の分業化である。特に調製作業を分離し、それを農協等(野菜生産農家以外の者)が担当するなれば、同作業が収穫作業とともに全作業の中で最も多くの労働時間を要することから、各農家の作付面積の増加を促し、当該産地全体の生産量の増加に結果する可能性が高い。事実、こうした分業化で成功している産地も少なくない。
 もう1つの方法は、地域流通を活用することによって、各地で中小規模の地場産地を育成することである。これまでの全国の作付面積の減少は主に各地での地場産地の衰退によるものであるが、この地場産地の衰退が最近の異常気象等による主産地での生産減を全国供給量の減少に直接結果させ、生鮮野菜の輸入量の急増を招いているとみられる。それゆえ、過去における個人出荷中心の地場産地の衰退を教訓に、生産者と流通業者だけでなく系統農協や行政も参加する地域流通を通して、組織的な方法で地場産地を育成するならば、国内の野菜生産力の向上に少なからず寄与するものと考えられる。



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