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検証・時の話題

「冷凍輸入弁当」問題を考える
「食」と「農」が生活の中で切り離されているのが問題

 JR東日本の関連会社が7月から米国産の米と肉などを使用した冷凍駅弁の輸入販売を開始した。これに対しJA全中などJAグループは、わが国が「食」と「農」を国民的課題として食料自給率の向上に取り組んでいるなか、運輸を通じた食料供給の社会的責任をも負っている同社の今回の行為は「断じて容認できない」(JA全農の第25回通常総代会特別決議)などと抗議し国産農産物の使用を要請している。JAグループでは今後とも抗議運動を継続するとともに、消費者に対する国産農産物のPR活動や政府に関税分類の基準見直しの検討を求める取り組みなどを行うことにしている。今回はこの問題をきっかけに改めて国産農産物の生産と販売に問われていることを考えてみたい。

◆「肉魚調製品」扱いで低い関税に

 冷凍輸入弁当を販売しているのはJR東日本の関連会社、(株)日本レストランエンタプライズ(NRE)。同社は、平成11年に米国の有機栽培米、野菜、肉などを使った弁当を製造する現地法人(NRE World Bento,Inc.)を設立、今年5月サンフランシスコ郊外に製造工場を完成させ7月17日から輸入販売を開始した。

東京駅構内の店 東京駅構内の店
(株)日本レストランエンタプライズは、冷凍輸入弁当は米の消費拡大につながる商品だという。東京駅構内の この店では「売れ行きは好調です。サンドイッチなどを買っていた層を弁当に呼び戻せるのではないかと感じています」と話していた。7月17日の発売初日は5000食を完売。

 商品名は「O-bento(オーベントー)」。牛すき焼き、鮭ちらし、鳥ごぼう照り焼きの3種類で、価格は大600円、小330円。東京、上野、新橋など26駅構内で販売されている。この弁当は米国の工場で完全に製品化され冷凍して輸出、電子レンジなどで解凍、加熱して店頭に並べている。1日1万食の販売を予定しており、精米輸入量にすると年間約300トンになる。米は日本のJAS法による有機認証を受けている。
 ただし、日本への輸入は、いわゆる「肉魚調製品」の扱い。肉や魚の重量が全体の20%以上を占め、米と分離できない食品であれば低関税で輸入できることになっている。
 現在、米の輸入には1キロ341円(490%相当)の二次関税がかかるが、肉魚調整品なら二次関税は不要。この輸入弁当にかかる関税は、牛すき焼き弁当21.3%、鮭ちらし弁当が9.6%、鳥ごぼう照り焼き弁当6.0%と低い。また、ミニマム・アクセス米の数量にもカウントされない。
 いわば米輸入の抜け道ともいえるが、肉魚調製品の規定とその関税についてはHS条約(商品の名称及び分類についての統一システムに関する国際条約)で決められており現行制度では認められている。

◆国内の米消費拡大につながるというが

 今回、NREが冷凍弁当を開発した背景には駅弁を取り巻く厳しい環境がある。JR駅構内には、コンビニエンス・ストアやハンバーガーショップが進出。300円代など低価格の弁当やハンバーガーを利用する人が増え「昔のようにホームで駅弁を買い、ゆったりと列車に乗るという人は少なくなった」(NRE・菊池武広報担当部長)という。
 実際、同社の前身、日本食堂時代の昭和45年には全国で1日25万食の駅弁販売実績があったが、最近ではサンドイッチなども含む弁当類として1日12万食の製造にまで落ち込んでいる。
 こうした状況のなかで「安いハンバーガーに対抗するには品質を追求するしかない」(菊池部長)との方針を掲げ、3年前に有機・減農薬農産物などを使った弁当の開発を決めた。
 同社ではこの取り組みを厳選素材による健康的で安心な最高品質の弁当をめざす「弁当革命」だとし、冷凍弁当「O-bento」はその第一歩と位置づけている。日本の伝統的な食品として米国内での販売も行うという。
 同社が発表したプレスリリースでは、この事業について、消費者の食品の安全性、健康への関心の高まりを背景に「食べ物を提供するというビジネスの根本に立ち帰り、自然な食材、本物の食材を提供していく責務があるのではないかと考えました」と説明している。
 その趣旨を実現するには国産農産物でもいいはずだ。しかし、「国内ではわれわれが望む有機米の量が確保できる見通しが立たなかった」と菊池部長は話す。産地を探していった結果、カリフォルニアの有機米に行き着いたのだという。
 プレスリリースでは、外食産業が食材の多くを海外に依存しているなかで、今後、品質や安全性を確保するには、外注に依存するのではなく「自らが海外に進出して食材の選定や調理などを行う必要がある」ことも指摘。今回の米国現地法人設立と工場建設は、「食品の品質・安全性に責任を持つために必要不可欠な取り組みだった」と、むしろ国際化が進むなかでの外食産業の責任を強調している。
 「年々、駅弁の需要が減少するなかで、安心、おいしさ、低価格を追求したこの弁当は米の消費拡大につながると考えている。国産米も年間4000トン使用しており、この量が減るわけではなく上乗せを期待しての開発。また、大宮駅では埼玉県産農産物だけを使った弁当も販売するなど国産農産物を重視しており、各地のJAとのつながりもある。今後、国内で有機米の生産を増やして安定供給体制をつくっていただければわれわれも使うことを考えているんです」と菊池部長は反発を強めるJAグループに理解を求める。

◆冷凍米飯の製造ラインの水準に疑問も

 消費者のコメ離れと安い食品への志向に対応するため弁当開発−−。その結果、登場したのが、海外で冷凍弁当として製造し肉魚調製品として輸入するという方法である。問題の一つは、この冷凍弁当をどう評価するかだろう。
 冷凍米飯を含む加工米飯市場の伸びが最近は注目されているが、ある業界関係者は「この件でメーカーが海外生産に注目するかといえば、そう簡単には動かないだろう」と予測する。その理由は、少なくとも日本では「弁当はごはんが命」だからと断言する。
 「冷凍」といえばわれわれは長期間食品を保存するための技術だと考えている。しかし、冷凍米飯業界が追求してきのは、単に保存するだけではなく「いかにおいしさを再現するか」だという。つまり、電子レンジなどで解凍、加熱したとき、コメでいえば炊きたての味が再現されるような冷凍技術こそ、消費者ニーズに応えるものというわけである。
 その点で、先の関係者は、今回の米国での冷凍米飯の製造ラインがその水準にあるか疑問だとし「消費者の舌は正直、というのがこの世界ですから」と今後の行方を冷静に見ている。
 ただし、この世界でいう高水準の製造ラインが海外に建設されたらどうなるのか。業界ではむしろ米国よりも中国がその舞台となるのではないかとみている。コメやその他の具材の価格、人件費の安さに加えて、工場建設コストも日本の3分の1程度で済むという。「やはり輸入を見直さなければ日本の稲作は厳しくなるのではないか」と関係者は話す。
 JAグループの冷凍加工米飯メーカー、全農食品(株)の橋本清彰常務も輸入になんらか歯止めが必要だとしつつ「日本のおいしいコメをおいしく炊いて食べる。それを基本に商品開発を工夫してきており、加工米飯はごはんを食べる人を増やす取り組みだと考えてきた。産地も自分たちのコメがどのように使われるコメなのか考える必要もあるのではないか。最終消費者が価値を判断する時代だと認識して自信を持って生産してほしい」と話す。

◆輸入品で本当に人間の健康は守れるのか

 もう1つの問題が、今回の弁当が輸入品であっても有機農産物を使用していることをもって、消費者に健康や安心を訴えていることをどう考えるかであろう。
 生活クラブ連合会の河野栄次会長は今回の問題について「マクドナルドが仕掛けた値下げ競争のなか、パンドラの箱を開けたという感じ。価格競争の激化でどの企業でもやることでしょう」と冷ややかに見ながらも、有機農産物を使用していることをセールスポイントにしていることについては「自給率の観点はもちろん、輸入して本当に人間の健康を守ることになるのか、その本質を企業としてまったく考えていない」と批判する。
 「これだけ食品を海外から輸入し、しかも食べ残しを出す。すでに日本は窒素過多、環境が肥満状態にあるといえるわけです。それが環境破壊につながる。つまり、健康は食べ物だけでは守れない。輸入を続けた結果、環境はどうなるのか、社会構造はどうなるのか、そのことこそ問うべきではないでしょうか」。
 また、循環型社会をめざすという国の政策を考えれば、「JRとしては、たとえば、自動車がこれ以上増加するような社会はエネルギー問題からも是正すべきで、鉄道という公共交通の役割が一層大切になるという訴えがあっていいのでは。循環型社会のために自分たちの企業が必要という理念があれば、当然、駅弁戦略だって変わってくるのではないか」と指摘する。
産農産物への理解を求める宣伝活動
JAグループは、冷凍輸入弁当の発売日に東京都内で国産米・国産農産物への理解を求める宣伝活動を展開した。今後、消費者団体との連携の強化や日本型食生活の一層の普及活動に取り組むほか、国産有機米の供給拡大も進める方針。
 さらに問題点として挙げるのは、JAS法による有機認証制度である。「制度が決まったときから今回のようなケースを危惧していた」と指摘する。その理由は、有機農産物の認証ガイドラインが、日本の制度でありながら、日本の気候条件などが反映されず「結局は、貿易自由化を基本としているWTOルールとの整合性が優先された」と見る。国によっては、日本の基準はクリアしやすく、いきおい消費者の健康志向に応えるためと輸入することになる。
 このような点を指摘したうえで河野会長は、「やはり食と農が生活のなかで切り離されてしまっていることが今回の問題の根本にあると思う」と強調する。生活クラブ生協は、地場産の農産物の供給を基本に都市にも農業を残そうとしてきたが「都会から農の風景がなくなれば、食の商品化が進み、食品は買うものだという意識にますます人々はなってしまうだろう」との考えからだ。
 そのための農業者との連携の前提は、「情報公開」だという。「私たちは、なにも無農薬栽培でなければ買わないと言っているわけではない。なぜ、農薬が必要なのか、どう使用したのかをしっかりと消費者に伝えてほしいということなんです。単に日本の農業を守ろうと呼びかけるのはなく、食料生産の大切さとそれをどのように担っているのか、生産者側もそこを重点に訴えていくべきではないでしょうか」と河野会長は話す。
 冷凍弁当の輸入問題を逆にひとつの契機として、食と農のあり方、JAグループとして取り組むべき課題を冷静に掘り下げたいと感じた。


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