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検証・時の話題
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恐るべし中国のコメ戦略
―― 中国・長江沿いの稲作地帯を見る 梶井 功 前 東京農工大学 学長 |
中国は今、スーパーハイブリッド米開発に力を入れているという。10アールあたり900kgという超多収量米も登場し、しかも食味は「コシヒカリ」並みなど、日本の稲作にとって脅威となる技術が実用化しつつある。その開発の現状報告を今月初めに現地視察した梶井功前東京農工大学学長にお願いした。「揺るぎない信念に立って研究を進めている研究者を国策が支えている中国」。何をめざしているのか−−。
7月30日〜8月7日、中国・長江沿いの稲作地帯を歩いた。日中農業農民交流協会の稲作視察団の一員としてである。以下この視察行で考えさせられたことを若干報告したい。 ◆注目される多収米「常優99−1」 わが国でも1981年から始まった農水省プロジェクト研究「超多収作物の開発と栽培技術の確立」のなかで、ハイブリッド稲の開発研究をすすめてきているが、その研究結果として“日本品種間での増収効果は小さく、5%程度であるが、日本品種と南ヨーロッパの日本型イネとの間では15%程度が期待された。しかし、日本型イネとインド型イネの間では籾数に大きなヘテロシスが発現するが、雑種不稔が発生し多収にならないことが判明した”(農林水産技術協会刊「昭和農業発達史2・水田作編」88ページ)とされている。ジャポニカハイブリッドだという常優99−1がどういう組合わせのハイブリッドなのか、局長の説明にはなかったが、是非とも試食してみたいものだ。収穫したら試食用に提供してくれるという話にはなったのだが、どういうことになるか。食味がいいというときのキマリ文句に、「コシヒカリ」並みということを中国の人たちもよく使う。「コシヒカリ」並みとまでいかなくともそこそこの食味で、しかも900kgの多収になるということになると、いま引用したプロジェクト研究で得られた認識とは、だいぶちがうF1品種をつくったことになる。注目しておくべきだろう。
そのいきさつは、川井一之「バイオ革命は農業を革新できるか」(御茶の水書房刊)に語られているので、ご一読されたいが、その中国でのハイブリッド稲(むろんいまはインディカ米)の作付は、中国全水稲作付面積の50%になるといわれているから、1500万ヘクタールの普及面積ということになる。このインディカ・ハイブリッド米のなかで、早稲については食味の点で市場の人気が悪く、WTO加入をにらんでの中国政府の農業構造調整政策も、インディカ早稲の減産、その転作を方針として打ち出している。 ◆激化する農民の階層分解
むろん、そういう対応を皆が皆やれているわけではない。対応できぬ農民の大量が沿海大都市への出稼ぎに出、水田を荒らすす農民も大量に発生している。そしてその対極にその出稼ぎ農民の耕地利用権を集中して、常傭労働者を雇って数十ヘクタールの米作りをする農民も出ている。というように、農民の階層分解は激しいようだ。WTO加入はそのうごきを一層激しくするのではないか。
今回の中国訪問の最後の日、湖南省にある国家雑交水稲工程技術研究中心所で、袁隆平所長の話を聞き、実験圃場を見せてもらうことができた。袁先生は、「中国ハイブリッド米の父」といわれている人。中国の食糧問題解決に寄与したその業績を評価されて、1996年、日本経済新聞社から第1回日経アジア賞を贈られているので、ご存じの方も多いだろう。その袁先生の話。 ◆反収9.6トンの収量をあげる
いまスーパーハイブリッド米作出プロジェクトに取り組んでいる。研究期間は3期にわけており、1期は1996〜2000年でヘクタール当たり10.5トンの収量を目指した。2年間、7ヘクタールの圃場2カ所で実証試験を行ったが、狙いどおり10.5トンの収量をあげた。昨年、湖南省に7ヘクタールの圃場18カ所、70ヘクタールの圃場7カ所に試験圃場を増やしたが、すべての圃場で10.5トンをあげた。昨年は一般農民にも実際に作らせたが、23万ヘクタールで平均9.6トンの単収だった。幾つかある新品種のなかで特に有望なのは、「先峰」で、長江流域100万ヘクタールに普及でき、ヘクタール10トンをあげるようになるだろう。 ◆1ヘクタール当たり12トン ―― 5年後の目標
第2期は2001〜2005年で、ヘクタール当たり12トンをあげる品種開発が目標。第3期は2006〜2010年で、ヘクタール当たり13.5トンが目標。 ◆少ない面積で必要量を生産
第3期には遺伝子組換えにも取り組む。といってもアメリカのように、ヴィールスを組み込むのではなく、植物の増収遺伝子組み込みだ。ハイブリッド米はうまくない、量はいいが質が問題だという人がいるが、インディカ米としての質の良さは充分に確保している。香港や広東のうるさい連中も、ここのハイブリッド米はうまいという。ジャポニカ米との食味のちがいはアミロース含量の差という品種特性のちがいからくるもので、食文化のちがいで評価は当然分かれる。 ◆転作田で“外国でも受け入れられる米”を作る
袁先生の話を聞きながら、亡くなれた川田信一郎東大名誉教授が、まったく同じように“米が余ったから増収技術はもう不要というのは短見も甚だしい。より少ない面積で必要量を取るのが進歩だ”と憤慨されていたのを思い出した。また、“減反田で外国に輸出できるような米を作ればいいのではないか”と考えた稲作技術者が日本にもいた。農研センター所長も勤めた金田忠吉氏である。 ◆国策が支える中国の農業技術研究
揺るぎない信念に立って研究を進めている研究者を、国策が支えている中国との比較で、わが国の農業技術研究推進が私は心配になった。杞憂であってほしい。 |