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検証・時の話題

リバース・モーゲージのすすめ

(株)農林中金総合研究所 取締役第一部長 田中久義

 このところリバース・モーゲージへの関心が高まっている。その多くは、年金を補完する役割の発揮を期待する高齢化対策を狙いにしている。高齢者対策については、農協系統も注力しており、今後は事業としての側面を強めていくとみられる。そこで今回は、リバース・モーゲージの仕組みを解説しながら、農協事業とのかかわりの可能性を考えてみたい。

 

リバース・モーゲージとは

 リバース・モーゲージとは、所有する住宅に住み続けながら、住宅がもっている資産としての価値を現金化する仕組みである。「リバース」は、逆、反対という意味であり、モーゲージは不動産担保融資をさす。このことからリバース・モーゲージは「逆抵当融資」、「持家担保年金」などと呼ばれている。

 ★フォワードとリバース

 リバース・モーゲージの起源はイギリスであるが、活用されているのはアメリカである。アメリカでは、通常の融資はフォワード・モーゲージと呼ばれる。その典型は住宅ローンである。住宅ローンは、まず全額を借り入れた後、一定期間にわたって分割して返済する。時間と借入残高の関係は、時間の経過とともに残高が減少する形である。借入残高が減ることは、借入者の持ち分が増えるということである。従って、この融資は資産の形成を支援する役割を果している。
 これに対してリバース・モーゲージは、期間中は借り入れるだけであり、残高は一貫して増加する。返済は契約満了時に行われるだけであり、担保不動産の処分等により一括して返済される。このように、リバース・モーゲージは時間の経過とともに借入残高が増加し、契約満了時に残高が一挙にゼロになる形であり、住宅ローンとは逆の形である。
 リバース・モーゲージは、所有者が、その不動産がもつ資産価値を少しずつ取り崩しいくものであり、いわば「自分の資産は自分で使う」、言い換えれば「子孫に美田は残さない」という考え方である。

 ★低調な利用状況

 わが国でのリバース・モーゲージは、1981年に東京都の武蔵野市が取り組んだのが最初である。それ以降は、地方自治体を中心に、高齢者向けの福祉との組み合わせで実施する動きが広まった。これらは公的プランと呼ばれる。
 民間プランとしては、不動産信託方式と不動産担保の年金ローン融資方式とがあり、主に信託銀行によって扱われている。なお、最近、ある地方銀行が新規に商品化するなど、高齢化社会を迎えて金融機関側の関心も高まっている。
 しかし、どちらも利用は低調であり、リバース・モーゲージの普及は今後のことである。


リバース・モーゲージの基本型

 ★利用者は通常62歳以上

 利用者は、自己所有住宅に住み続けたいと考えている、一定の年齢以上の人である。この年齢は通常62歳以上であり、年金の受給開始年齢や老後の生活に必要な金額などを勘案して設定される。なお、配偶者は連帯債務者となる。また、担保にする住宅が他の借入の担保になっていないことが基本的に必要である。

 ★借入条件等

 借入可能額は、借入者の年齢、担保物件の評価額、借入金利によって決まる。また、最終年齢は100歳が一般的であり、62歳から利用すれば38年間が借入期間となる。
 借入方法は、年金のように毎月あるいは3カ月ごとの分割借入が多い。形式は証書貸付が多く、なかには当座貸越を利用するものもある。
 金利は変動金利が多い。また、借入期間中は、利息の返済も不要であり、利息はすべて借入金に組み入れられる。
 返済は契約満了時の一括返済であり、担保住宅の処分代金か、債務を承継した相続人によって返済される。

 ★融資機関のリスク

 リバース・モーゲージは、これまでにない超長期の融資であるため、金融機関にとってリスクがある。その主なものは、不動産価格の下落、金利の上昇、そして借入者の長生きの3つであり、いずれも担保割れというリスクである。
 まず、不動産価格の低下による担保割の可能性は、わかりやすいリスクである。また、金利の上昇による担保割れリスクとは次のようなことである。リバース・モーゲージは変動金利が多く、最終一括弁済である。そのため、金利が上昇すれば利息額が増えるために貸付残高が膨らみ、その結果として担保割れとなる可能性が高まる。
 最後に、長生きというリスクである。借入者が長生きすることは喜ばしいことではある。しかし、融資機関にとっては一種のリスクとなる。それは、通常の最終期限である100歳を超えて長生きをした場合、貸付額が膨らむ可能性があるからである。契約どおりとはいえ、借入者が存命中に担保処分を行なうことはできないと考えるべきであり、その結貸付額が増加して担保割れとなる可能性がある。
 これらのリスクを回避するには、保証や保険が必要である。特にこれらの利用によって、100歳までという年齢制限をなくすこともできる。このように、リスクをどのように小さくするかが、融資機関の腕の見せ所である。


農協事業とリバース・モーゲージ

 ★高齢化への対応商品として

 農協の利用者に、リバース・モーゲージのニーズがあるだろうか。
 年金型のリバース・モーゲージを利用するのは高齢者である。農家の高齢化が、一般世帯に比べて約20年進んでいることは統計上明らかである。また、95年農業センサスによれば、総農家戸数3,444千戸のうち、あとつぎがいない農家は806千戸である。
 このような状況をみると、農協がリバース・モーゲージを活用して、高齢農家の生活の安定をはかる必要性は高いとみられる。特に、一般世帯と異なる農家の資産である農地に注目すれば、その維持管理ができるのは農協だけではないだろうか。

 ★利用の可能性

 一方、「子孫に美田を残さない」という考え方が受け入れられるのか、という問題がある。
 旧総務庁が行った調査によれば、「年金で生活費を何とかまかなえると思う」という回答は35%にとどまり、多くの人々は年金を補う収入が必要と考えている。また、不動産は「子どもに継がせるべきである」という回答が多く、「子孫に美田を残す」という考え方は根強い。
 しかし、変化もみられる。例えば、このところ年金共済・保険のウエイトが高まっている。一般の共済は契約者の死亡時に共済金が支払われるのに対して、年金は存命中の支払である。このような性格の年金共済が増加しているということは、自分が積み立てたものを自分で使うという考え方をする人が増えていることを示しているのではないだろうか。とすれば、リバース・モーゲージに関心をもつ人が増える可能性は十分あるといえよう。

 ★必要機能をもつ農協必要な事業機能

 リバース・モーゲージの取り扱いに必要な事業機能を改めて整理すれば、次の3点であろう。
 第一は、融資機能である。これは単に貸付を行うだけではなく、不動産の評価や貸付後にそれを管理することまでも含む。この機能は、金融機関であれば当然保有する機能である。特に、農地の管理までを行うことができるのは、まず農協である。
 第二は、不動産の取引・管理機能である。これまでの民間プランの担い手として信託銀行が中心であった理由は、不動産事業についての強みであるという。とすれば、組合員の資産を有効に活用するという観点から資産管理事業に力を入れている農協も、最有力であることはいうまでもない。
 第三は、高齢者向け支援サービス機能である。農協の高齢者福祉事業は、平成4年の農協法改正により、厚生事業と同様に員外利用も組合員と同等まえ認められている。これにより、ヘルパー要請などが急ピッチですすんでおり、この面からも体制整備が図られている。


強みの発揮

 リバース・モーゲージは各方面からの注目を集めており、その活用の具体化に向けた取り組みが行われている。従って、今後の条件整備ともあいまって利用の促進が図られるとみられている。そのなかで、リバース・モーゲージに取り組むためには、それぞれの取り扱い機関に独自性が求められる。

 ★3つの独自性

 農協が銀行などと異なる独自性の第一は、協同組合性そのものにある。非営利の会員組織であり、地域と密着している農協は、組合員や地域住民にとってより身近な存在であり、信頼される存在である。これらの点は、最近その活動が注目されているNPOやNGOにも通じるものであろう。
 第二は、農協は、単独で、リバース・モーゲージの取り扱いに必要な諸機能をすべて備えていることである。いわば、1カ所で全てが充足できるというワンストップ性を備えているのであり、この点は、他の機関とは異なる農協の強みである。
 第三は、行政、特に市町村との連携が容易であることである。地域に密着している農協は、市町村の農政と密接な関係にある。また、事業面でも地方公共団体との取引が増えているうえ、公的な高齢者福祉サービスの提供を受託する農協も増えている。

 ★仕組みを通じた総合性の発揮

 農協が役割を発揮するためには、事業運営面で総合性の発揮が必要であると指摘されてきた。このような指摘は、総合性の強みが十分には発揮されていないという認識に立つ。その理由の1つとして指摘されているのが、縦割りの弊害である。
 このような弊害を少しでもなくすための努力として、事業間の協調が図られてきた。しかし、これだけでは不十分であり、新たな考え方の取り組みも必要になっている。
 新しい方向とは、1つの商品や仕組みの中に総合事業としての機能をあらかじめ組み込むことである。もともと組合員のニーズは営農や生活という総合的な性格をもっている。これまでは、部分部分について専門的に対応する方向を追求してきた。新しい方向は、そうではなく、初めから総合的な商品にするものであり、標語風にいえば、専門の総合化、である。
 このような工夫を行う上でも、農協がリバース・モーゲージに取り組む価値はあるといえる。




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