◆産地直撃「BSE」発生 安全の「根拠」明示も課題
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10月18日全頭検査がスタート。坂口厚労相と武部農相が「安全宣言」をしたが・・・。
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12月20日、JA全中と全国農政協が主催した「BSE対策全国代表者集会」――。
「もっと農水省の責任を追及すべきだ」、「政府は末端の苦労を分かっていない。直接補償をすれば全国の牛飼いは生きられるんだ」。生産者からは怒りに満ちた声が上がった。
9月10日のBSE患畜の確認は、「安心・安全」を根底から揺るがす事態を招いた。
牛肉や牛乳はもともと安全だと政府が説明しても、焼却処分したと公表したこの患畜が、実は肉骨粉の原料に回されていたことが判明するなど、行政への不信や、不安をあおる報道もあって消費は落ち込み価格低落が産地を直撃した。
10月からは、と畜前の生体検査に加えて、出荷牛の全頭検査がスタート。BSE病原体が蓄積されやすい危険部位はすべて焼却され、安全性が確認された牛肉だけ出回る体制が確立した。武部農相は「世界でいちばん安全なシステムになった」と強調、原因究明の調査は難航しているものの、食卓に並ぶ牛肉の安全性は確保された。
しかし、2頭め、3頭めの確認によって、一時回復基調をたどった消費も再び冷え込み、相場は低迷したまま年の瀬を迎えた。
この間、「輸入牛肉を使っているから安全」と宣伝する外食産業もあった。「情けない話だ」との声も多く聞かれたが、単純に「国産だから安全」と言えるのか、と問われたのは事実だ。
冒頭に紹介した集会では生産者から「消費拡大がもっとも大事。そうなればこの苦境は乗り越えられる」との意見もあったように、現在の供給体制を消費者に正しく理解してもらうことが大切だし、また、政府のこれまでの「安心・安全」に対する姿勢を今後追及する必要はある。
ただし、この問題は、一方で食べ物を供給する側には単に“国産だから”ではなく、なぜ「安心・安全」が確保されているのか、その「根拠」を示すことが課題であることも明らかにしたといえるのではないか。後述するようにこの問題で今年注目されたのが「トレーサビリティ」であった。
◆セーフガードは不発動 生産者の“安心”をどう確保
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輸入農産物が増える中、産地と消費者をどう守るのかが問われる。 |
「セーフガードを即時発動しろ。日本の農業を守れ!」。11月16日、JAグループは、東京でネギねど3品目のセーフガード(緊急輸入制限措置)本発動を求める総決起集会を開き、8年ぶりのデモ行進に3000人が参加した。
しかし、この切実な願いは実現しなかった。12月21日、話し合い解決をめざした政府は日中閣僚会議で本発動は回避し、両国で3品目の貿易スキームを早急に構築することで合意した。貿易のスキームづくりは民間で設立する協議会で行われることになった。(詳細記事2面)
セーフガード暫定措置期限後、3品目の輸入は急増し「産地は崩壊の危機に瀕している」との声が各地から上がっていた。今回の合意内容については、輸入抑制に実効性があるのか早くも疑問が出ている。産地では、自給率向上をめざしながら、農産物輸入を容認する国の姿勢に「矛盾だ」との批判が高まっている。
JAグループは原田睦民JA全中会長が「生産者が安心して生産にいそしめるよう実効ある輸入抑制がはかれる仕組みの確立に向けて引き続き運動を展開していく必要がある」との談話を発表した。
まさに国には毅然とした対応が求められる。が、同時に、今後、輸入野菜の攻勢が見込まれるなか、生産者の“安心”をJAがどう確保するのかという課題も突きつけたといえる。
今回の日中合意後、日本農業はコストダウンをはかり競争力をつけるべき…、との論調があふれている。しかし、それで安心が確保できるのか。
この点について、たとえば本紙10月10日号(http://www.jacom.or.jp/tokusyu/01101706/01102202.html)で農民作家の山下惣一氏は「産地間競争などといっている場合ではない。主産地形成農政は破綻したとみるべきだ」と指摘している。
そのうえで、国際競争の点では日本農業はあらゆる面で不利だが、「唯一圧倒的に有利な条件にあることに気づいた。それは生産者のそばにたくさんの消費者がいること。こんな国は世界中にない」と言い、
生産と消費がそれぞれの地域で結びつけば、これほど強く持続的な農業はないと提言している。
いわゆる地産地消の考え方だが、山下氏は「農業が農家だけでなく地域住民全体の財産となるような方向をめざし、JAは地域の消費者をサポーターとして地域社会の核になる」よう主張。自給率の向上をめざすにはまずJAが核になり「地給率」を高めようとも呼びかけている。
この「地域」という視点は、米政策の抜本的な見直しの議論のなかでも大きな焦点となった。
そのなかで、稲作経営安定対策の対象から副業農家を外すという案が打ち出され、生産者、JAグループは猛反発した。理由は、副業農家が除外されれば生産調整への協力が得られなくなるといったものだったが、強調されたのは、水路の管理など日本の稲作は地域全体で取り組んでいるのが実態で、そこに亀裂を入れるような政策は認められないということだった。
米政策の見直しの議論は来年早々にも本格化するが、「地域」の安定なくしては主食の「安心・安全」が揺らぐことを、しっかりと問う姿勢を持つことが大切だと感じさせられた。
◆JAめざす理念実現のキーワードに注目して
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生産者名を明記した農産物が増えた。生産と消費を結ぶ新しいシステムが求められている。 |
一方、このような出来事や政策議論とは別に、今後の食料生産やJAのあり方をめぐって、いくつかのキーワードが注目されるようになった年でもあった。
代表的なのが「マーケティング」と先に触れた「トレーサビリティ」だろう。
本紙の「世界の話題・日本の話題」(9月10日号・http://www.jacom.or.jp/kensyo00/01091104.html)で農林中金総研の田中久義調査第一部長は、セールスが「作ったものを売る」のに対して、マーケティングとは「消費者が何を求めているかを知って生産する」ことと指摘している。
6月に成立した改正農協法では、JAの事業の第一に営農指導が位置づけられたが、現場では売れるものを作る視点での営農指導が一層求められるようになっている。そのことが生産者の所得向上につながり、地域農業の活性化を生むという好循環が生まれている例も出てきた。
問題は、何が売れるのか、だが、ファーマーズマーケットやそれを発展させて都会の量販店などに出店するインショップ形態で地元農産物の販売に取り組む事例を訪ねると、鮮度や旬が支持されていることが分かる。
それも消費者のダイレクトな反応として生産者に伝わり、忘れられていた伝統的な農産物づくりにこまめに取り組むようになった例もしばしば聞いた。
マーケティングというと市場原理のなかで生き残りをかけた戦略といったイメージがあるが、現場の地道な実践からは、地場産であること、昔ながらのもの、旬のもの、といった価値をいわば市場の反応だと捉えている。
マーケティングとは、「安心・安全」のために不可欠の発想であり、それが地域づくりや農業の農村の多面的に機能の発揮につながる。すなわち、JAグループが掲げる共生の理念実現の“手段”として考えることも必要ではないか。
もうひとつの「トレーサビリティ」は、この「安心・安全」を“立証”するものといえるだろう。
JA全農は、国内農畜産物を対象に生産方法や生産工程などの情報を開示する「安心システム」の構築に取り組んでいるが、BSE発生を機に、牛肉のトレーサビリティの確立すすめ、12月には販売頭数の90%の個体履歴情報が確認できるようになった。肉として店頭に並んだ段階からでも、与えた飼料などを遡って知ることができる。
トレーサビリティの確立は生産者にとっても生産履歴の記入など厳しい面もある。飼料も単なるエサではなく、「食品を作るためのエサ」という意識が求められる。
ただ、トレーサビリティ、すなわち履歴を把握するという考え方は、消費者に安心・安全を保証するだけでなく、地域農業の歴史や伝統を振り返る動きにもなっていくのではないか。
たとえば、JA越後さんとうでは、ほ場一筆ごとの土壌履歴を確認し、そのうえで米の栽培を考える構想を立てている。土地改良によってどう土が変わったのか、それを改めて踏まえようという試みである。
同JAの今井利昭営農部長は「地歴を探っていけば、かならず人の歴史、人歴と重なる。それが若い担い手に地域を理解してもらうことになる」と話す。履歴に胸を張れる−。地域を元気にする大切な要素だ。
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衝撃的なテロ事件が起きた今年。首謀者が潜むとされたアフガニスタンの風景を見て、作家の童門冬二さんは、「農のない世界がテロを生んだのではないか」と本紙のインタビューで語り、土に関わる仕事に誇りをもってほしいとJAグループに期待した。(10月10日号・http://www.jacom.or.jp/tokusyu/01101706/01102201.html)
21世紀の「安心・安全」のためにJAの役割はますます重要になっている