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検証・時の話題

消費者に信頼される畜産・酪農対策を
JA全中 食料農業対策部長 冨士重夫

 牛海綿状脳症(BSE)の発生で、わが国の畜産・酪農は危機的な状況にある。BSE全頭検査が始まっても牛肉の消費は回復せず、生産現場には先の見えない不安が募っている。こうした状況のなか、JAグループは畜産・酪農対策運動を展開していく。JA全中食料農業対策部の冨士重夫部長に今後の対策の焦点と運動の方向を解説してもらった。

 

<万全なBSE(牛海綿状脳症)対策の確立を求める>

BSE対策のこれまでの経過

 我が国初のBSEが13年9月に発生してから5カ月が経過したが、牛肉への消費者の不安は解消せず、消費の大幅な減少がつづいており、生産からト畜、流通、消費に至る、あらゆる段階で問題が発生し、我が国畜産・酪農は、まさに危機的状況にある。
 これまで政府・自民党にBSE対策本部を設置して、さまざまな対策を措置してきた。

◆一次BSE関連対策

 BSE発生後、感染原因の究明に努めるとともに、肉骨粉の牛への給与禁止を法的に義務化した。また、出荷繰り延べに対する助成(20億円)や、無担保・無保証人でのつなぎ融資(融資枠527億円)、肉骨粉の焼却処理(100億円)、PR対策(11億円)などの緊急的な第一次対策を措置した。

畜産・酪農経営危機突破全国代表者集会
JA全中と全国農政協は1月24日、東京都内で「畜産・酪農経営危機突破全国代表者集会」を開いた。危機に瀕する畜産・酪農の打開と消費者への信頼回復に向けた決議を採択した

◆BSE全頭検査
 当初、BSE検査はEC水準である30カ月齢以上の全頭と24カ月齢以上で神経症状が疑われる牛に限定されていたが、これでは消費者の不安を解消し、信頼を確保できないとし、強力な要請を行なった結果、13年10月9日にBSE検査をすべての牛に拡大することが決定され、10月18日から全頭検査が実施された。また、特定危険部位の焼却も義務付けられた。

◆第二次BSE関連対策
 BSE全頭検査を受けて、BSEマル緊事業(256億円)、子牛生産拡大奨励事業の特例措置、生産者団体による牛肉の市場隔離(162億円)、出荷調整に対する助成(19億円)などの経営安定対策や、トレーサビリティー・牛の総背番号制の確立(34億円)、死亡牛の適切な処理対策(11億円)等を決定した。
 その後、争点となっていたBSE検査前10月17日以前の牛肉流通在庫約1万3千トンの焼却処分(200億円)や、肉骨粉等を給与された牛5,129頭の焼却処分も決定した。
 さらに年末から年始にかけて、乳廃牛の出荷円滑化対策(11億円)やBSE発生農家経営再建支援事業を追加決定した。


対策の充実・強化を求める運動の継続した取り組み

 BSE関連対策の措置にもかかわらず、BSEの影響の長期化により、生産・流通・消費段階における著しい停滞により、現場からさらなるBSE対策の充実強化を求める声が様々な角度から積み上げられた。
 14年1月24日の畜産・酪農経営危機突破全国代表者集会では、次のようなBSE対策の充実強化を政府に対して要請した。

◆徹底した消費対策の強化

 消費者の牛肉に対する不信を解き、一刻も早く消費回復を図るための、BSE感染源の早期究明、抜本的なPR対策、学校給食への指導徹底

◆総合的な廃用牛対策

 政府の打ち出した11億円の乳廃牛円滑化対策は一時しのぎの隔離対策でしかなく、対象乳廃牛も4万4千頭で極めて不十分であるとし、生産者の経営安定、ト畜を含めた流通対策、枝肉等の販売、焼却対策など、生産から流通、消費にわたる抜本的・総合的な廃用牛対策の構築

◆金融対策の強化

 BSEつなぎ資金は1年で償還する対策であったため、価格低迷の長期化の状況を踏まえ、肥育期間等も考慮した償還期限の延長や、中期的金融対策など、BSE金融対策の抜本的強化

◆経営所得安定対策の確立

 BSEマル緊や子牛生産拡大奨励事業の特例措置は13年度までであり、14年度以降も継続・強化することはもちろん、価格低迷の長期化も踏まえた万全の経営所得安定対策の構築。また、枝肉市況や需給調整における調整保管や事業団買い入れなど、現状の流通実態を踏まえた実効ある需給改善対策

◆肉骨粉・死亡牛処理対策の強化

 肉骨粉の焼却処理がすすまず、日増しに在庫が累増する事態となっており、死亡牛も従来はレンダリング処理されていたが、BSE発生により焼却処理する事態が増大しているが、その焼却処理施設の確保なり、整備がほとんどすすんでいない実態にあり、こうした処理施設対策の抜本的強化

◆万全なBSE対策の確立

 BSEによる深刻な事態の長期化により、今後とも、生産、ト畜、流通、経営所得、消費、再発防止など多様なBSE対策を実態に即して実施することが必要であり、法的・制度的検討も含め、BSE対策に十分な予算を確保し万全を期すこと

 以上のような要請に対し、最も対策が急がれていた廃用牛対策については1月下旬に乳廃牛1頭4万円、肉用牛同5万円で国が買い上げや、ト畜場へ協力助成、枝肉・部分肉での販売促進もしくは、焼却処理に関する大枠での対策のスキームが示された。
 今後、この廃用牛対策については生産から流通、販売・焼却に至るまで円滑にすすむように、農家への出荷促進に対する対策や、買い取り方法、ト畜場対策、販売・焼却対策など実態に即した具体的な事業内容の詰めが必要であり、引き続き継続した取り組みをすすめていくことが必要である。
 雪印食品における偽装表示という言語同断の事態発生により、牛肉に対する消費者の不信はさらに増大し、消費の低迷、激減状況がさらに長期化し、生産・流通・消費の大幅な停滞も引きつづき長期化していくことが懸念される。影響が長引けば長引くほど様々な課題が噴出し、我が国の生産・流通システムが機能不全におちいり、我が国畜産・酪農全体が崩壊しかねない。今後も現場の実態を踏まえた適切な対策を時期を失することなく的確に講ずることが重要であり、継続した運動の取り組みを強化していかねばならない。


<生産現場の危機ふまえた決定を>

3月末をにらんで日程を調整

BSE対策全国代表者集会
昨年12月20日、政府の「安全宣言」にもかかわら ず、産地直撃のBSEが発生。JA全中、全国農政協は全国集会を開き政府を追及した

 14年度畜産・酪農政策価格及び肉関連対策の検討のため、与党自民党は畜産・酪農対策小委員会(西川公也委員長)を設置して、当初13年10月の決定を予定していたがBSE発生により、BSE対策の緊急性、重要性を踏まえ、これを最優先させることとし、日程を延期した。
 その後、14年に入り、2月末までに決定する方向で政府・与党において日程調整をすすめていたが、雪印食品の偽装表示事件により雪印ブランドへの不信、小売店における雪印製品の排除などの動きが急速に広がり、食中毒事件を起こし、再建へ向け歩んでいた雪印乳業本体そのものの経営危機が深刻化し、事業の譲渡、資本提携や牛乳事業部門の再編成などの対応が求められる事態となり、3月には雪印乳業の再建計画が詰められる状況となった。
 雪印乳業の問題は、酪農家の日々生産される生乳の集乳、配送、受入工場、乳製品・市乳の生産・販売に係わる酪農家、指定団体、乳業全体に関係する重大な問題である。
 したがって14年度の加工原料乳補給金や、関連対策、乳業再編等の施設整備対策にも影響するものであり、今後の日程はこの雪印乳業問題の対応状況を踏まえて設定されることになると考えられる。
 いずれにしても法律にもとづき、14年3月末までには価格関係については告示しなければならないので、3月末をにらんで、14年度対策の日程調整が図られると想定される。


14年度畜産・酪農対策の要請項目

 今年度の畜産・酪農対策の最大の特徴は、当然のことながら、我が国初のBSE発生を受け危機的状況にある我が国畜産・酪農の実態を踏まえた、深刻な影響をキチンと反映させた価格決定、関連対策が必要である。
 また、BSEや雪印食品の事件を契機にした消費者の信頼を確保するための安全性や表示に関するキチンとした対策の確立や、自然循環型農業、環境保全型農業、自給飼料生産の自給率向上に向けた耕畜連携など、我が国畜産・酪農の再構築に向けた中長期的な基本政策確立への取り組みをすすめることを求めていくことが必要である。
 要請項目の柱は以下のような内容となっている。

◆経営所得安定対策

 牛肉の安定帯価格は、現在の市況低迷は明らかにBSEによるものであり、この価格変動を除外して、現行価格を堅持することが必要。肉用牛マル緊については経営所得の安定を確保するため十分な予算を確保して強化することが必要。子牛の不足払いにおける保証基準価格、合理化目標価格は現行堅持、また県基金が枯渇した場合への万全な資金確保や円滑な償還対策。
 養豚については、豚肉の安定帯価格は現行堅持。地域養豚振興特別対策事業は充実強化が必要。
 加工原料乳補給金については、算定方式の点に関して、変動率方式を基本に再生産を確保し、生産性向上に努力した生産者が報われる観点から決定することが必要。補給金単価については現行kg10円30銭であるが、BSEによる乳廃牛の暴落、更新牛の遅れ、乳子牛の下落、乳量の低下等の現場の実態を適切に反映し引き上げることが必要。

◆耕畜連携による自給飼料増産

 口蹄疫は中国産等の稲ワラが感染源として濃厚であり、今回のBSEも輸入肉骨粉が感染源である可能性が大である。飼料自給率、とりわけ粗飼料自給率の向上を図り、水田農業も含めた耕畜連携による農地の有効利用をすすめ循環型農業を地域の実態に応じ確立していくことが重要となっている。
 このため、自給飼料作付拡大への土地集積の促進支援対策、飼料生産技術、品種の開発普及対策、コントラクターの経営支援対策、水田におけるホールクロップサイレージへの支援対策、稲ワラ流通のための施設等の整備対策、林野・里山等への放牧推進への支援対策など総合的な自給飼料確立対策が必要。

◆畜産環境対策

 畜産環境施設整備に関しては、家畜排せつ物法に基づき16年度までにふん尿処理施設を整備することになっているが、地域実態を踏まえた補助事業による共同利用施設や拠点施設の整備、補助付きリース事業等の充実強化を引きつづき図ることが必要。とりわけ、BSEの影響により経営悪化となっている現状を踏まえたリース期間の延長など、経営に配慮した対策が必要。
 たい肥の有効利用、流通の円滑化に向けた対策では、耕種の需要に即した、たい肥の品質向上、たい肥の施肥技術の確立・普及、農地への還元が基本だが、それ以外のふん尿処理手法の開発・普及、たい肥流通の広域化を促進させる円滑化等の対策の充実強化が必要。

◆生産・流通対策

雪印乳業・西社長
2月5日、自主再建を断念し経営刷新策を発表する雪印乳業・西社長(雪印乳業本社で)

 BSEを契機としたトレサビリティーの充実強化、そして雪印食品における偽装事件により著しく失墜した表示に関する問題が極めて重要である。消費者の信頼を確保するため徹底した監視体制の強化や、JAS法、食品衛生法など法制度を含めた表示対策の抜本的強化が必要。
 酪農に関する関連対策としては、(ア)乳価関連対策として措置されてきた乳牛1頭当たり飼料面積に対して助成される土地利用型酪農推進事業を、畜産環境対策や、自給飼料生産拡大の観点から強化することが必要、(イ)生乳の広域需給調整に関しては、余乳を集約的に処理する取り組みや広域配乳調整に対応した体制や施設整備へ支援対策が必要、(ウ)輸入乳製品と対抗できる生クリームや、ナチュラルチーズに対する生産振興対策の継続強化が必要。

 以上のような項目が14年度対策の柱であるが、今年度は通常の年度対策ではあり得ない。BSEによる危機的状況の中で、まず大前提として万全なBSE対策が講じられていなければならない。そのうえで、通常の年度対策としてBSEの影響をキチンと反映した価格対策や関連対策でなければならない。
 そして、中長期的に我が国畜産・酪農を消費者の信頼のもとに発展できるよう、基本政策の方向を青写真として示すことも大切な課題である。




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