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検証・時の話題

レポート 米流通最前線

業務用需要も視野に入れた
商品力ある産地形成も課題に

 13年産自主流通米入札価格は、第1回の入札からすべて前年産同期を上回る価格で推移し、3月26日の第11回入札でも60kgあたり前年比165円上昇、1万6183円となった。調整保管の実施も決定し需給が改善してきていると見られている。
 ただし、米のマーケットは業務用需要が増え、さらに家庭用でも減農薬や有機栽培などこだわり米へのニーズと低価格米へのニーズとの二極化が一層進んでいることなどをふまえ、卸や外食産業には「需要と供給にはまだミスマッチがある。誰に何を売るのか、産地もコンセプトはっきりさせた対応を急ぐべき」との声がある。今回は量販店、給食産業関係者が指摘する米の需要動向も紹介しながら、産地に求められている課題を探ってみる。

◆相場が問いかける
  産地銘柄ごとの評価とは

「スソ物(雑銘柄)は堅調に推移。コシヒカリを中心にした銘柄米は軟調気味の推移。全体として下がることはないが、昨年のような急カーブの上昇はないだろう」。
 4月以降、端境期までの自主米入札価格の動向をある大手卸関係者はこう予測する。
 12年産の入札価格の動向を見ると年明けから6月にかけて急激に上昇した。(グラフ)昨年4月に精米の表示法を定めた改正JAS法が施行され、卸が一部銘柄米の手当てを急いだから、というのが業界が解説する理由だった。

自主流通米価格の推移

 加えて先の関係者が指摘するのは、業務筋からの評価が高い北海道・青森の米などが調整保管で市場隔離されたことの影響だ。これも米価全体が急カーブを描くことになった一因とみる。
 しかし、昨年とは違い13年産の調整保管についてJA全農は、調整保管の確定後、販売状況によって銘柄や量などを見直す必要がある場合は、一定のルールにもとづいて修正する方針を明らかにしている。
 冒頭の「スソ物は堅調に推移」という予測は、今年の米の調整保管はこうした弾力的な運用がなされるだろうと見込んだもの。
 さらに今後は、12年産特別調整保管持越米と特別調整保管実施の際に9年産と差し替えた米を合わせた古米約20万トンの販売も予定されている。業界はこの古米にも目を向けることから、堅調な業務用需要はあるものの、端境期を迎えてもそれほど大きく相場は上がらないというのである。
 一方、銘柄米価格について「軟調気味に推移」と予想する根拠は、「家庭用向けの単品銘柄の分野は、まさに需給のミスマッチがあるから」。
 この欄でも以前から指摘してきたことだが、大消費地の需要は家庭用が6割、業務用が4割というのが定説になっている。しかも、消費者は購入場所、銘柄、価格といくつもの選択肢を持っているなかで購入する。「たとえば、コシヒカリはたしかにいい米だとわれわれも評価する。しかし、現実はその評価で動いていない。いい米だから家庭用で支持を得るだろうという安易な考えではなく、産地、流通、売り場まで一体となった戦略を持たないと生き残りが難しい時代になった」といい、東北など米どころの銘柄でも、健闘するものと苦戦するものに分かれていくと見る。
 また、ある量販店関係者も「まだ単品銘柄商品への人気はあるが、ブランドにぶらさがっているだけでいいのかと、われわれも危機感を持っている」と話す。
 では、産地には何が求められているのか。米消費の最前線にいるバイヤーの考えも聞こう。

◆「味・鮮度・品質」

福井智昭氏
福井智昭 (株)イトーヨーカドー加工食品担当バイヤー

 イトーヨーカドーは、95年の食糧法施行から米販売に本格的に参入。毎年金額ベースで7〜8%伸びている。13年度は対前年比115%の見込み。
 福井智昭加工食品担当バイヤーは消費者の動向について「価格志向の層と付加価値を求める層に二極化している」と話す。
 減農薬、有名銘柄などこだわり米が順調な伸びを示す。逆に食べ盛りの子どもを抱える家庭などは、価格優先で選ぶという。こだわり米と位置づけているPB商品の価格帯は5kg2300円程度、価格志向に応える商品群は5kgで2000円以下が現状だ。
 高価格品は売りづらくなっているが、「安ければ買うというものではない」と福井バイヤーは指摘する。同社としては米を「食品」と明確に位置づけ、「味・品質・鮮度」を重視している。
 このうち「味」はたんぱく値で評価。「適切な施肥管理で、自分たちで食べておいしいと思う米をつくってほしい。自己ピーアールできる米づくりを」が生産者への注文だ。
 「品質」では、整粒歩合を重視している。「厳しいようだが、たとえば天候不順が品質低下の原因だと説明されても、われわれとしては責任ある商品づくりをしているのかと感じてしまう。生産者、JAグループも各段階で品質に責任を持つことが必要では」と指摘する。
 「鮮度」の面では、とくに「米にやさしい物流システム」の構築が課題と考えている。たとえば、輸送時の温度管理も重要だとの考えから、超早場米の輸送については一部を常温から低温管理での輸送に切り替えることなどが実現している。産地から店頭までの関係で、もっとも体制づくりが遅れているのがこの物流部門だとも指摘する。
 一方、無洗米の売り上げも好調で簡便性がうけている、と捉えているが、今後は無洗米も「味・鮮度・品質」で評価されるという。
 福井バイヤーは、こだわり米の主体の単品銘柄米は「米として評価」され、価格対応を考えたブレンド米は「ご飯としておいしければ評価される」と分析する。そのため、ブレンド米についての表示規制は緩め卸などメーカーの工夫が生きる制度にするほうが市場は活性化するとみる。
 「白米販売のマーケットが縮小傾向にあるなか、いかにシェアを広げるかがわれわれの課題。消費者に主権が移行していることを見据え、誰に何をどう売るのか、産地とともに情報を共有して事業を展開することが求められている」と福井バイヤーは話す。

◆米はいちばん
  「クレームの多い食材」

嶋本徹氏
嶋本徹 シダックスフードサービス(株)エスロジックス事業本部長

 現在、集団給食市場は3兆9000億円となっている。業界大手のシダックスフードサービス(株)は、1日に43万食を提供している。
 食材仕入額のうち13%を米が占め、単品の原材料としては「米が圧倒的に多い業種」と同社の嶋本徹エスロジックス事業本部長は話す。
 ただし、パンや麺の要求も多くなっていることから、業績は年に5%程度の伸びを達成しているものの、米の仕入れ量はここ5年ほど年間1万トンと横ばい状態。
 もっとも給食事業では「米と味噌がもっともクレームの多い材料」だという。そこで同社は品質管理のために7年前から4種類の規格をつくって対応している。品質の基準は食味値で「ゴールド」(74±1、サタケの食味計使用、以下同)、「シルバー」(71±1)、「レッド」(68±1)、「ブルー」(65±1)としている。
 「食味値が米の評価のすべてではないことは分かっているが、われわれにとっては大きな安心材料」と嶋本本部長は話す。
 品種については、たとえば「ゴールド」は関東近県なら関東コシヒカリが中心、九州ならヒノヒカリをなどと事業所のある地域で異なる。
 重要視するのは「品質と量の年間の安定度」。したがって単品ではなく、ブレンド米で供給している。ただ、4つの規格のうちゴールドとシルバーが80%を占めるのが実態で、ブレンド米といえども原材料にそれなりにグレードが求められているといえる。
 こうした品質に対する要求に応えるため、同社は昨年から野菜や肉などと一括して事業所に配送する物流の一元化も進めている。それまで米は同社の事業所のある地域事情に合わせて卸や大手小売りに納入を依頼していたが、その方式を転換させた。「米もあくまで食品」との位置づけにした。
 一括物流にともなって、たとえば関東では米の仕入先を3社に絞ることが可能になるなど、効率化と品質管理に対応できるようになったという。
 もうひとつの対応が無洗米の導入だ。実はご飯に対するクレームは米ではなく現場の炊飯技術にもあるケースもあった。無洗米なら炊飯作業のマニュアル化がしやすく、しかも水の使用量を減らせるなどのメリットもある。また、環境ISOの取得がさまざまな企業で進むなか、企業と契約する給食業者としても対応が求められるという。
 給食業界では米の値段は1年契約。価格が上がっても納入価格を上げることはできない。「品質が良くて価格は値ごろ、安定がこの業界のニーズ」だ。
 ただ、今後、給食市場で伸びが期待されている高齢者福祉施設などの給食や夕食を提供する事業所では「おいしいお米を、との要求は多い」という。
 一口に業務用需要といっても、今後は品質、価格での細分化をさらに進める動きがこの業界に出てきそうだ。

◆産地指定から
  契約栽培への発展も

おむすび処 ほんのり屋
おむすび処 ほんのり屋
米の消費拡大も大きな課題。JAグループも米と消費者を結ぶコミュニケーションに積極的に取り組んでいる。3月29日東京駅内にオープンした「駅のお米ギャラリー東京」。おにぎりを販売する「おむすび処 ほんのり屋」も開設し、食と情報発信を行う。

 米の消費動向をどう見るかが今後の大きな課題だが、イトーヨーカードーの福井バイヤーは「売り手対買い手、という関係ではなく、最終的にお客さんに納得してもらえる商品をどう作るかコミュニケーションするシステムを産地とわれわれで構築すべきではないか」と強調した。
 こうした意識は卸関係者も同じで「今までのように消費地の動向を反映させない営農指導ではズレが生まれる。JAも米は経済連へ販売委託するものという考えは捨てるべき」と指摘する。共通するのは「商品力のある産地」が重要になること。それは銘柄米をブランド化して育てることだけを意味しない。
 「業務用の銘柄もきちんと収量を上げて生産し需要に応える。それは生産者の手取り確保策でもあるのではないか」。
 需要に応える生産といっても単一ではなく複合的な戦略も可能ではないかとの指摘だ。それが実現するには「業界が全量買い取る契約栽培も考えなければならない」との問題意識もあると明かす。
 生産調整方式の見直しの議論も今後このような消費、流通の動向を見据える必要がある。




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