◆1975年に始まった豚肉産直
東都生協によると、同生協と茨城玉川農協との豚肉産直が開始されたのは1975年で、その4年後に鹿児島バークシャー(黒豚)のオス4頭を購入し、81年からLWB(現在のバークランド豚肉)の供給が開始され、97年には同農協の豚肉はすべてLWBに切り替えた(黒豚系と表示)という。
LWB豚とは、ランドレース(L)のメスと大ヨークシャー(W)のオスを掛け合わせて生まれたメス(LW)に、鹿児島黒豚(B)のオスを掛け合わせた豚のことで、「黒豚に近い肉質で純粋黒豚よりも低価格。筋繊維が細かく、しまった肉質で風味とコクがある」というのが開発目的だったという。ちなみにLWのメスにデュロック(D)のオスを掛け合わせた豚がLWDで、利用しやすい価格で一般に流通している。75年当時の産直豚肉もLWDだった。
しかし、LWBは生産効率が悪く、脂肪がつきやすいため市場評価はLWDと比べて落ちるので、同生協は「生産費を保証する考え方にたって、市場価格とは関係なく産地と生協の間で一定の価格を決めて」いた。したがって、生協組合員への供給価格はこの農協との価格をベースに決められ、一般の豚肉よりは高くなっている。
◆1986年から原料混入の疑い
東都生協の「調査報告」は、1985年までは資料がなく不明だが、LWBの供給が開始されて5年後の「1986年当時においても、茨城玉川農協は、東都生協指定以外の豚肉を外部からパーツ肉(部分肉)として購入していた疑い」があり、その「豚肉を東都生協に販売していたとの疑いは強い。その根拠は、茨城玉川農協が、枝肉からカット肉の作業を委託している茨城協同食肉株式会社において、生協指定豚肉とそれ以外の外部購入の豚肉を区分して、(茨城玉川農協の)ミートセンター(83年開設)に納入されていた形跡がないためである」という。
そして、1988年当時のデータでは「明らかに生協指定以外の豚肉を混入させていたと判断できる」し、1991年以降はパーツ肉が恒常的に仕入れられており、輸入豚肉(台湾、デンマーク、カナダ産)が購入されていた事実も伝票で確認している。農協側に「仕向別原料の分別管理を証明するものがない」ので、輸入豚肉も同生協に販売していた「疑いがある」としている。
◆品質低下で供給量が不足
なぜこうしたことが行われたのか?「調査報告書」は「仮説としての混入の構造」として以下のような点を指摘している。
1つは、「過去からの生協との約束『商品取引契約』『商品仕様』を遵守するための組織的な周知や管理が、茨城玉川農協において欠如していたこと」であり、「どんな理由があっても契約違反はやってはならない行為であることが、農協内部において、周知徹底されていなかったと想定される」。
その根拠として、と殺−枝肉―カット肉までの処理を委託していた茨城協同食肉(株)に対しても「明確な分別を行うように依頼し、点検していた形跡は見あたらない」と指摘する。
2つ目は、「LWB開発そのものに無理があったのか、その後の品質改善努力がされていなかったのか、現時点では判断できない」が、品質が低下していることをあげている。
具体的には、LWBは「もともと上物率が低い特性があることは前提であったが」、同農協の上物率は86年の38%から2000年には20%にまで低下し、「精肉使用に耐えられない」「格落ち」の食味の悪い豚肉が「少なからず発生」していたために、これを除くと生協への「供給量に不足が出るという構造」にあった。そのため、「パーツ肉仕入れが常態化」していた。
このことが「原料混入を招いた大きな要因であると推定」され、「産直運動一般で語られてきた『欠品』『部位バランス調整』という課題が真の理由」ではないとしている。
さらに、今回の調査から東都生協は、一部の養豚家が生協との「約束通りのLWB豚を飼育していなかった可能性があり」「純粋なLW×Bではなく、自家育成のLWBにBを掛け合わせた四元交配によるLWBBないしはWLBBといった豚を出荷していたのではないかという疑いを強くもっている」。
◆東都生協への過度の依存
3つ目は、格落ち豚を出荷しても「生協基準価格が生産者に支払われ」ていること。「パーツ仕入分の東都生協価格との差額はミートセンターの利益として残る」など、「茨城玉川農協の豚肉や加工品については、東都生協へ過度の依存度」があり、そのことで「他産地との競争関係にある緊張感がまったくないためか、生産基盤がもともと崩れているというデメリットを極力見せずに維持しなければ、実際に農協経営が成り立たないという危機感がひたすら隠蔽に走らせたと思われる」と分析している。
◆今後の対応
今後の対応について東都生協理事会は「(生協)組合員の皆さまへ」(4月8日付)のなかで要旨以下のように述べている。
1)茨城玉川農協との「商品取引は、当面、全面的に中止する準備を進めます」。しかし、「東都生協設立以前からの提携関係にあった団体ですので、4月20日の茨城玉川農協総会の動向をもって、最終判断」する。
2)「茨城玉川農協の生産者が東都生協との約束どおりの生産を続ける意志があれば」生産物については同農協を通さず、引き取る可能性を追求する。
3)「八郷町農協のバークランド豚については、約束どおりの飼育が確認できたため、茨城玉川農協ミートセンターとは別の形態での再開を至急」進める。
4)茨城玉川農協に対して、商品取引契約書第2条、第6条に基づき、損害賠償を請求する準備」を進める。
5)事件の当事者であるミートセンターの職員、養豚部会で真剣に生産している人たち、茨城玉川農協の職員、全農土浦職員などの「多くの方の協力があってこそ、ここまで事実解明する」ことができたので、このつながりを財産に「中身のはっきりした食肉流通」の構築に向けて共同研究を進める。
6)当面、茨城玉川農協とは、取引中止を準備するが「農業・農村がこれ以上崩壊することは、くい止めなければなりません。また、良心的な生産者との提携なしには、東都生協の事業も成り立ちませんし、安全で良質な商品供給は不可能」なので、玉里村周辺の生産者が「今回の件を主体的に受け止め、産直でもう一度初心に帰り、やっていこうとするのであれば、農家の経営破綻を回避し、新たな産直運動・事業として再出発することを応援したい」と考えている。