◆改めて問うべき
なぜ、農業振興なのか?
JAえちご上越は、平成13年3月に7JA(新潟頸北、吉川、上越、新潟頸南、妙高高原、名立)が合併して誕生した。
管内は2市7町8村にわたり、日本海に面する海岸部から長野県と接する山間部までと広大な地域となった。
正組合数は約2万4000人、准組合員数は約1万7000人の計4万1000人の組合員がいる。
貯金高は2629億円、共済保有高は1兆7318億円。農産物販売高は131億円でそのうち米が119億円を占める。職員数も1400人を超える大型JAである。(数字はいずれも14年2月28日現在)
柳澤会長は、旧JA上越組合長のころから、今後、JAが事業を展開し、地域社会で役割を発揮するには「地域協同組合であるべき」との考えでJA運営にあたってきた。
地域協同組合であるなら、事業の利用などJAと関わりを持ってもらいたい対象者は、管内25万人の地域住民全体ということになる。そして、組合員とは「JAの経営を支える中核的な存在」と改めて位置づけることができる。
では、その組合員の実態はどうなっているのか。
表1はJAえちご上越が作成した組合員の年齢別構成表である。
正組合員に限ってみると、60歳代が26%、70歳以上が26%と、合計で52%となっている。
表2は管内市町村の老年人口の割合を示したものだ。県全体の平均は22.4%、管内平均は23.3%となっているが、山間部の村では30%を超え、近いうちに40%に達すると予測されている村もあるという。
組合員の年齢構成とこうした老年人口の動向をふまえて、「高齢組合員の出資金譲渡がスムーズに行われるか」が大きな検討課題になった。半数以上を占める61歳以上の組合員の出資金も出資金額全体の半分以上を占めているからだ。
出資金の譲渡先となる後継者は存在するのか。存在したとしても村を離れ、JA管内に住んでいないことも十分に考えられる。
また、子どもなど後継者がいても、兼業でも農業を行っていなければ、JAとのつながりは薄くなる。
実は、このような懸念は現実に起き始めていた。
中山間地域を中心に昨年度1年間で約3000万円の出資金の払い戻しがあった。
「中山間地域ではすでに農業が崩壊している集落も多く、JAから出資金を払い戻してもらい老後の生活費にあてるという高齢者が出ているんです」と柳澤会長は語る。
一方、親のリタイアにともなって子へ出資金が一旦は譲渡されたものの、その後、払い戻しを求めるケースも出てきているという。つまり、高齢者層だけでなく若い層での払い戻しという動きもあるのである。
◆協同組合の理念伝える
教育広報活動も重要に
もっとも多くの場合は、出資金は譲渡されている。ただし、問題がないわけではなく「相続組合員が多い」という。
「相続組合員」とは、親が亡くなったために出資金の“相続”はしたものの、親世代とは違って、組合員として農協をつくっていこう、農業振興を図ろう、という考えがない組合員を指す柳澤会長独自の分類だ。
今回の取材では、同JAから組合員の年齢構成などの資料を提供してもらったが、その理由を「われわれはJAの現状を本当に直視して、理念や事業計画を打ち出しているのか」という思いがあるからと柳澤会長は語る。
地域住民全体から支持される地域協同組合をめざすにしても、そのJAを担う組合員の現状はどうなっているのか、その実態の検証と今後の予測を抜きにしては将来像は描けないということである。
同JAでは北陸農政局の協力で10年後の管内の農業生産力の予測も行っている(表3)。
それによると総世帯数は増えるものの、総農家戸数は25%程度減少すると予測されている。ただし、専業農家の割合は増加することが示されている。
こうした予測結果を柳澤会長は「地域別にいえば、平場の農業は生き残れるが、やはり中山間地域は厳しい状況になる」と受け止めている。
◆「循環型経営」を提唱
ただし、予測どおりになれば中山間地域農業は崩壊する。それは山間地の多い新潟県全体の農業にも大きな影響を与えることになる。
そこで、JAとして取り組み始めているのが、行政に働きかけ農業公社の立ち上げだ。JAも出資し、職員も出向させて作業受託だけでなく農業経営まで行う組織として、担い手のいなくなった地域の農業を支えている。村によっては農地の3分の1を農業公社が担っているという。
こうした取り組みについて柳澤会長は「組合員とは何か。JAにとって、お客さんではなく、地域農業の支え手であるはず。農業振興が組合員の生活の安定をもたらすように事業を考えるべきだ」と強調する。中山間地域では高齢化が進み出資金の払い戻しという事態まで起きているほど担い手がいなくなっていることからすれば、当然、購買、信用、共済といった事業にも影響が出る。
しかし、各事業ごとに課題解決を図ろうとするのではなく、ここには「農業振興を基本にJAの役割を発揮する」という考えがある。
一方、平場地帯は条件が良くても稲作がほとんどでしかも生産調整面積が30%を超える現状である。休耕面積は5600ヘクタールにも達している。
そこで、組合員の所得確保のために―昨年度から大豆の本作化に取り組んでいる。昨年は1200ヘクタール、今年は1600ヘクタールまで作付けを拡大した。販売は学校給食とも連携するなど地産地消を基本に販売実績を上げている。
大豆の本作化は各地での課題となっているが、同JAでは産業用ヘリコプターを導入した「フライト農業」をこの機会に実現した。直播きや農薬散布など行い労力やコストの低減につなげた。
この狙いは「今後、中核的組合員になってもらう若い農業者に魅力ある農業」にするためだ。オペレターは若い農業者に人気で40人ほどのメンバーが活躍している。
こうした取り組みの発想の基本には「地域の農業振興を図り、その果実が他のJA事業に反映されるべき」という姿勢がある。これを「循環型の経営」と表現して理念に掲げている。
同時に、JAが協同組合であることを組合員に伝える教育活動も一層重要になるとしている。
とくに「相続組合員」に協同組合の参加者であることを自覚してもらうため、JAの理念、事業を理解してもらう場を設ける予定にしているほか、今年度からは企画担当部門に教育文化活動担当者を置き、JAグループ関係の媒体の普及や広報誌の充実化を図っていくという。
「JAの経営を取り巻く環境が厳しく、つい目先の問題に目が向いてしまう。しかし、10年後を見据えたときにJAの事業とは何かを今、考えなくてはならないのではないか」。
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各地のJAではそれぞれの地域実態に合わせて、組合員ニーズに応える取り組みがなされている。今回は、JAえちご上越の取り組みの一端を聞いたが、現状を直視し、そのうえで事業を構想していくことが、組合員、さらに地域住民の理解と支持が得られる道だと改めて感じさせられた。