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検証・時の話題


無登録農薬問題
問われているのは生産者と農協のモラル

 今年7月30日に山形県の農薬販売業者が逮捕されたことで表面化した無登録農薬問題が、その後の調査で全国的な広がりをもっていることが判明し、深刻な問題となっている。この間の経過を振りかえる同時に、これからの課題について考えてみた。

◆無登録農薬と登録失効農薬

 今回の事件発生で、JAなど現場で若干の混乱があるようだ。
 それは今回問題となっている「無登録農薬」と「登録失効農薬」を同一視し、登録失効農薬を販売した場合にも、今回の逮捕者と同様に農薬取締法第9条第1項違反を問われるのではないかという心配だ。
 日本では、農水大臣の登録を受けなければ農薬を販売することができない(同法2条)が、登録を受けた農薬を販売するときには、登録番号、農薬の種類・各種成分の種類と含有量、適用病害虫範囲と使用方法などを、容器または包装に表示することが義務づけられている(同法7条)。こうした法定表示のない農薬を販売してはいけないと規定しているのが9条1項だ。
 今回「無登録農薬」として問題となっているダイホルタンなどでは、農薬登録番号などの法定表示がいっさいされていないばかりか、商品名も含めて何の表示もない無地の袋入りのものまであった。そのため、これを販売した業者が9条1項違反として逮捕された。
 これに対して「登録失効農薬」とは、「過去に登録があったもので登録の有効期間がなくなったもの」で「ラベルは登録を受けていた際の表示がある」農薬のことをさす。農水省では、従来から「農薬取締法の根幹である登録制度を厳格に運用し、法秩序の維持を図る」ために、登録失効後に製造メーカーや流通段階に登録失効した農薬が残らないように、登録失効前に製造を中止するよう行政指導してきた。
 しかし、現実にはさまざまな理由から登録失効後も流通段階に在庫があり、販売されている農薬は存在している。こうした登録失効農薬は、登録されていたときの法定表示がされており、これを販売しても9条1項違反とはならない。
 農水省も、現在、都道府県が実施している立入検査の報告書では、無登録農薬と登録失効農薬を「分けて報告書を作成」するよう指示している(9月18日付事務連絡文書)。
 
◆農水省、全国で立入検査を指示

 今回の事件の発端は、大阪市生活衛生課が昨年11月に市場から無作為に選んだ洋ナシのラ・フランスを分析したところ、平成元年に農薬登録が失効し、平成8年に「発がん性の疑いがあり、食品衛生法の基準で農作物から摘出されてはならない成分」に指定されているフタルイミド系殺菌剤・ダイホルタン(ISO名:カプタホール)を検出。食品衛生法にもとづいて大阪市が山形県に文書で通知したことに始る。
 山形県から通報を受けた山形県警は、7月30日に県内農薬販売業者2名を、農薬取締法違反と毒物劇物取締法違反で逮捕した。県警の調べで、この販売業者が昭和62年に農薬登録が失効し、平成6年に食品衛生法で「農作物から検出されてはならない成分」に指定された殺虫剤(ダニ剤)・プリクトラン(水酸化トリシクロヘキシルスズ、ISO名:シヘキサチン)も販売していたことが判明する。
 さらに8月9日には、山形県の販売業者にダイホルタンとプリクトランを販売した東京の農薬輸入販売会社「西日本物産」社長と別の山形県内販売業者が逮捕される。西日本物産は、ダイホルタンを東アジアから輸入、プリクトランを徳島県の業者から仕入れており、その販売先は山形県だけではなく全国に広がっていることが判明した。
 こうした事態に農水省は、7月30日以降、全都道府県にこの問題に関する情報提供を行うとともに、8月13日には各都府県に対して、情報の収集、販売業者などへの農薬取締法にもとづく立入検査の実施を指導。各都府県は、農水省、独立行政法人農薬検査所と協力して、現在、44都道府県で立入検査が実施されている。

◆42都道府県で150業者、購入農家2400戸

 この調査の過程で、昭和51年に農薬登録が失効している植物成長調整剤・ナフサク(NAA:―ナフタリン酢酸ナトリウム、ヒオモンも同じ)や平成12年に農薬登録が失効した殺菌剤・PCNB(ペンタクロロニトロベンゼン)など4種の無登録農薬が販売・使用されていることも判明した。
 9月24日現在で判明しているのは、逮捕者10名、無登録農薬を販売した業者は150業者、購入した農家数は2369戸で、その広がりは42都道府県とほとんど日本全国を巻きこんだ形となっている。この中には、JAまたはJA職員が関与している事例もあり、事態の根の深さ、深刻さがうかがわれる。農水省では、9月末までにこの立入検査を行い、その後、無登録農薬を販売していたことが判明した業者の処分を行うことにしているが、上記の数字がさらに大きなものとなる可能性はかなり高いだろう。
 無登録農薬は今回判明したものだけではなく、広く流布している。農薬工業会の調査では、平成10年から13年にホームセンターなど店頭で「非農耕地用」などと称して販売されていた無登録農薬は、グリホサート系除草剤を中心に約70銘柄に達するという。今回のダイホルタンなどは、店頭販売されず農家から直接注文を受けて販売していたために、その顧客台帳や伝票類から使用していた農家まで特定できた。しかし、ホームセンターなどで不特定多数に販売されているものは、使用者を特定することができないが、使用農家は相当な戸数にのぼるだろうと専門家はみている。

◆「非農耕地用」も農地で使えば農薬
  ――農薬取締法改正案のポイント

 現行の農薬取締法では、販売業者を取締ることはできるが、これをつかった生産者を取締ることはできない。これは「販売を禁止すれば使われることはない」(澤田清農水省農薬対策室長)はずという「生産者性善説」に立ってきたからだ。しかし、今回の立入検査で、生産者から販売業者に「ダイホルタンが手に入らないか」と要求していた事実が浮びあがり、「性善説」は捨てざるをえなくなった。臨時国会に提出予定の農薬取締法改正案では、無登録農薬の「使用禁止」と「使用者の罰則」が最大のポイントとなっている。
 この改正案が成立すれば「非農耕地用」と銘打たれていても「農耕地で防除のために使用されるものはすべて農薬」(澤田室長)であり、その農薬が登録されていない場合は、法律違反として使用者に罰則が適用されることになる。
 無登録農薬は、農薬としてではなく「化学品」として並行輸入などの形で国内に入ってきているが、これを規制する有効な法的な手だてがないというのが現実だ。農水省では、臨時国会には間に合わないかもしれないが、関係省庁とも連携して「輸入・流通できない仕組み」づくりを検討している。

◆安ければ何を使ってもいいのか

 現行法は、使用者(生産者)への罰則がない「ザル法」であり、それがこうした問題を引き起したという意見もある。法改正でその穴は埋められることになるだろう。しかし、それで問題は解決するのだろうか。
 BSE発生や一連の食品関連事件、輸入農産物残留農薬問題などで、国民の食の安全性への関心はかつてなく高まっている。そうした中での今回の事件だ。しかも「組合員から要望があった」からと農協が無登録農薬を販売していた事実も判明した。また「組合員が無登録を使っているのは知っているが注意すると仕事ができなくなる」と黙認しているという話も聞く。
 無登録農薬を使用するのは「ダイホルタンは同等の効果が期待できる登録農薬よりも半分か1/3のコストだから」という。しかし「コスト優先」のこの行為は「安心で安全な食料」を提供しなければならない生産者や農協関係者がとるべき途なのか。このモラルハザードが一番問題なのではないだろうか。
 いままでのところ「このままでは産地が潰れる」という危機感から、行政やJAグループが連携し、無登録農薬を使用した農産物の出荷を止めたり廃棄処分し消費地には一部を除いて入ってきていないので、首都圏など大消費地では大きな混乱は起きていない。しかし、これからも一歩対応を間違えれば、使用した農家だけではなく産地そのものが拒否され潰れる可能性はある。いまは「消費者から拒否されれば企業が潰れる時代」なのだから。

◆これからの農業を考える千載一遇の機会に

 JAグループのこれからの対応については、JA全中を中心に検討されおり、いずれ組織討議されるはずだが、そのときに、無登録農薬を販売したり使用した者だけの問題にせず、農協組織全体の問題とし、「農協が協同組合が、・・・・なぜ存在するのか。この根本に立ち返って、私たちは何のために社会的な存在としてあり、どう国民の生活に役立ちしているのかまで掘り下げ」(竹本成徳日本生協連会長「JAグループに期待するもの」)て考えることが重要ではないだろうか。
 そして「市場原理」優先のあり方が、協同組合の基本的な精神を忘れさせモラルハザードを招いたという側面もある。そのことを含めてこれからの日本農業のあり方を見つめ直す「千載一遇のチャンス」とすることが、なによりも大事ではないだろうか。




農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
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