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検証・時の話題

卸売市場“ビジョン”の確立を!
食品流通において卸売市場を活用するために

藤島廣二
 東京農業大学 国際食料情報学部教授

 卸売市場のあり方も農業改革の大きな課題だ。しばしば流通経路の多様化が叫ばれ卸売市場の衰退が指摘されるが、新たな姿を描くには卸売市場をめぐる変化を的確に捉える必要がある。今回は東京農大の藤島教授に最近の変化を検証してもらうとともにビジョンづくりのための視点を提言してもらった。

藤島廣二氏
ふじしま・ひろじ 昭和24年埼玉県生まれ。昭和47年北海道大学農学部農業経済学科卒業。農学博士。平成8年東京農業大学教授、10年同大学院農学研究科農業経済学専攻食品産業経済論特論担当教授(現在)、12年同大学国際食料情報学部食料環境経済学科長。日本農業経済学会員、日本流通学会員、食料・農業・農村政策審議会臨時委員。

 現在、卸売市場の統合、卸売業者(荷受会社)の合併の勢いが広がりつつある。卸売市場流通システムの大改革がついに緒に就いたのである。が、一方、その大改革を実のあるものにするための議論は遅々として進まず、「国(農林水産省)が望む卸売市場のあり方」=「ビジョン」さえも未だに明示されないままである。
 もちろん、ここでビジョンとは言っても、卸売市場・卸売業者の統合・合併の数等ではない。確かに統合・合併は現在の重要な課題であるが、決してそれ以上のものではない。統合・合併後の卸売市場あるいは市場流通システムのあり方こそがビジョンなのである。
 ちなみに、「手数料の自由化」問題が混迷を深めるのも、そうしたビジョンの欠落によるところが大きい。卸売市場や市場流通システムの将来像が明確であるならば、その中において現在のような手数料制度が必要か否かを論ずることができるからである。
 以下では直接にビジョンとなり得る案を提示するものではないが、ビジョンを作成するにあたって検討すべきと思われる項目を、主に青果物流通の変化の視点から提案したい。

◆市場経由率の低下と本格的な総合市場化

 まずは第1に市場経由率の変化に注目すると、青果物に限らず、水産物等においても、同経由率は過去10数年あるいは20数年以上にわたって低下傾向にある。図1はそのことを青果物を例に、野菜・果実別に示したものである。
 同図から明らかなように、果実の場合、市場経由率は昭和40年代末から低下傾向が始まり、特に60年代初期以降はそれ以前に比べ大幅な低下をみた。また、野菜の場合、昭和60年頃をピークに、その後は低下傾向に転じたままである。
 この変化をみて、研究者はもちろんのこと、流通業関係者や市場行政担当者の中にも、「卸売市場は生鮮青果物流通の中で後退・衰退した」と結論づけようとする者が意外なほど多い。しかも、彼らの中には、先進国と言われる欧米で卸売市場が衰退した国が少なくないことから、「卸売市場の後退・衰退は流通システムの発展過程における必然である」と断言してはばからない者もいる。
 しかし、彼らの結論は通常、少なくとも2つの誤解に基づいている。その1つは市場経由率が生鮮品だけの流通量から算出されると言う思い込みであり(正確には市場経由率は生鮮品と加工品の合計から算出される)、もうひとつは流通経路の多様化によって生鮮品の市場外流通量が急増していると言う過大評価である(伸長著しいと言われるファーマーズマーケットにおいてさえ、その主要販売品目である生鮮野菜の販売量は全国合計でせいぜい30万トン程度にすぎない)。
 が、そうした結論と誤解はともかく、市場経由率が低下した最大の要因は、青果物流通における加工品、特に輸入加工品の増大であった(加工品はそのほとんどが卸売市場外で取り引きされる)。このことは、果実の市場経由率が低下し始めた昭和40年代末以降、国内でのミカン生産の過剰によって果汁生産が普及し、さらに同経由率の大幅な低下が始まった昭和60年代初期以降、果汁を中心とする輸入加工品が著しく増加したこと、また野菜の市場経由率が低下傾向に転じた昭和61年以降、冷凍野菜を中心とする輸入加工品が急増したこと等から自明である。なお、最近の果実の輸入量は生鮮品の数量と加工品の生鮮換算数量の合計で毎年410万〜480万トンにのぼるが、そのうち加工品はおよそ250万〜300万トン(これは市場外流通量のほぼ75〜85%に相当する)、また野菜の輸入量は同じく生鮮品数量と加工品生鮮換算数量の合計で300万トンを大きく超え、400万トン近くにのぼっているが、加工品はそのうちのほぼ4分の3に達する(これは市場外流通量の80%前後あるいはそれ以上に匹敵する)。
 今後も食生活の簡便化が進むのに伴って、輸入等によって加工品が増加するのは間違いないと考えられる。それゆえ、卸売市場がこれまでと同様、生鮮品の取扱に特化する限り、「生鮮青果物流通の中で後退・衰退」はともかく、「青果物流通の中での後退・衰退」は避け難いと言える。
 したがって、卸売市場を活性化し、今後も社会的に活用しようとするのであれば、生鮮品に特化することなく、生鮮品と加工品とを取り扱う総合市場として再編するか、卸売業者と加工食品問屋との合併や業務提携等によって加工品流通にたずさわる仕組みを構築することを検討すべきと思われる。しかも、そうした総合市場化等は仕入側の利便性を高めるものであり、仕入業者の要望とも合致するものと言える(最近は卸売市場に加工品の品揃えを要請する業者や、加工食品問屋に生鮮品を注文する業者も少なくない)。
 ちなみに、これまで言われてきた総合市場とは、青果物、水産物、花卉のうちの2つ以上を取り扱う市場であるが、食品衛生技術が不十分であったため、そうした総合市場で食肉を取り扱うことはなかった。今後は仕入業者の利便性を高めることを目的に、加工品そして食肉も取り扱うことのできる、本来の意味での総合市場化こそが望まれよう。

◆市場間価格差の縮小と価格形成のための連携化

 第2に価格形成に関わる変化をみると、その主な変化として、全国各地に散在する卸売市場間の価格差の縮小が挙げられる。図2はその縮小を明らかにするため、北海道から九州までの13中央卸売市場を取り上げ、各卸売市場における品目別年平均価格を基に主要14品目の卸売市場間変動係数を算出し、その結果に基づいて11の枠内に品目名を記した。太い実線の枠内にある品目(トマト、バレイショなど)は、昭和60年と平成11年との比較で13中央卸売市場間の価格差の程度がほとんど変わっていないことを意味し、また同枠の左下にある品目(キュウリ、ネギなど)は価格差が縮小したことを意味している(価格差が拡大している品目があれば、同枠の右上に記入された)。
同図にみるように、太枠内にある品目数はキャベツなどの6品目で、左下はキュウリなどの8品目、そして右上には1つの品目もない。しかも、変動係数が8%未満と、中央卸売市場間の価格差がきわめて小さい品目数は、昭和60年の3品目に対し、平成11年は6品目、逆に同係数が16%以上と価格差がきわめて大きい品目数は、昭和60年の5品目に対し、平成11年は1品目(カンショ)だけである。
 このように、13中央卸売市場間の価格差すなわち卸売市場間価格差は、明らかに縮小したと言える。この縮小が示唆しているのは、価格が主に個々の卸売市場での需給関係によって決まるものから、より広い範囲での、あるいは全国的範囲での需給関係により強い影響を受けて決まるものへと変化したことである。換言すれば、今や価格は卸売市場ごとに決めるものではなくなったのである。
 したがって、これからは価格形成において各卸売市場が個別性を強めるのではなく、逆に相互に連携を強化することが極めて重要と言える。しかも、その連携化のための仕組みをどのようにするかによって、ビジョンの内容も大きく異なるものと思われる。

◆輸入の増大と複合的荷受能力の強化

 第3に輸入に関する変化をみると、最近はいずれの食品・農産物とも輸入量が驚くほど増えているが、特に野菜のようにかつてはごく少量の輸入にすぎなかったものでさえ、昭和60年9月のプラザ合意を契機に顕著な増加傾向を示している。そのことを明らかにするために作成したのが図3である。
 これによれば、野菜輸入量、国内野菜消費量に占める輸入物のシェア、および国内野菜流通量に占める輸入物のシェア(それぞれ3カ年移動平均値で示した)のいずれにおいても、昭和61年を境にそれ以前と以後とで比較すると、それ以後の増加・上昇が著しい。例えば61年以前の10年間と以後の10年間における輸入量の年平均増加量を算出すると、前10年間が8万トンであるのに対し、後10年間はその2.5倍の20万トンにのぼるほどである。
 こうした輸入の増大は見方を変えると、グローバル化と言われる流通の広域化にほかならないが、広域化は同時に流通単位の大型化でもある。が、この大型化は輸入が主に海上コンテナを利用して行われることから、輸入物の流通単位が20トン前後になるという意味だけではない。国産物の場合も広域化の下で、輸入物に対抗するための出荷コストの削減等の理由から、流通単位の大型化が重視されつつある。事実、最近では10トントラックどころか、20トン前後のトレーラーで出荷する産地も北海道や九州に現れている。
 それゆえ、これからの卸売市場はそうした大型の出荷に対応できるものでなければならない。すなわち、40フィート・コンテナや大型トレーラーを受け入れられる施設とともに、大量の荷を短時間に取り引きできる仕組みが構築されねばならない。
 しかし、当然のことではあるが、全ての出荷単位が大型化するわけではない。また、小売部門では全店舗が大型化するどころか、今後の高齢者の増加次第では、彼らの買い物を容易にするために店舗の小規模・分散化が進む可能性も決して小さくない。
 したがって、今後の卸売市場にはコンテナやトレーラーによる大型流通から、ごく小規模な分散的流通に至るまでの広範囲の流通に同時に対応できる複合的な荷受能力が求められる。もちろん、こうした能力の強化は先の価格形成と同様、市場間の連携化によって実現されると考えられるが、その連携化のあり方を検討することが極めて重要であろう。

◆韓国・台湾に学べ

 以上、ビジョンの作成に際しての検討項目について3点ほど提案したが、実際にビジョンを確立するにあたっては、さらに国内の先進的卸売市場や外国の卸売市場を分析し、多くの情報を得る必要があろう。
 特に外国の卸売市場に関しては、欧米の卸売市場を研究するのもよいが、韓国・台湾の卸売市場をより積極的に研究すべきであろう。というのは、韓国と台湾の卸売市場が日本に類似しているからというだけでなく、両国は、日本の卸売市場の調査を基に、それを超える卸売市場の構築に積極的だからである。しかも、日本人の常として欧米に目が向くことが多く、両国の卸売市場に関する知識が乏しいからでもある。




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