農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

東アジアFTA交渉とJAグループの基本的考え方
―JAグループ 各界への理解広める運動展開
4月までを「学習活動強化月間」に―
 JA全中は2月の理事会で「韓国、タイ、フィリピン、マレーシア、インドネシアとの自由貿易協定(FTA)に関するJAグループの基本的考え方」を決めた。
 JAグループでは、FTAは相手国との相互発展と繁栄の促進が本来の目的であるとして、東アジア諸国との関係は、両国の農業者の発展につながるものでなければならないとしている。そのうえでFTAによって農業分野だけが一方的に犠牲となることは認められず、各産業分野で公平に利益が享受されるべきと主張している。
 JAグループでは、こうした基本的考え方をもとに消費者、経済界などと対話し相互理解を促進していく運動を展開する。そのため2月から4月までの3か月間を「JAグループ学習活動強化月間」として理解を深める活動に取り組んでいる。
 今回はこの「基本的考え方」のポイントを考えてみた。(掲載図表はJA全中の作成資料より)

◆自由化は東アジアの農業者にとって利益になるのか?

IDACAによる農協指導者教育研修への参加者
  わが国のFTA(自由貿易協定)交渉は昨年12月に韓国と政府間交渉が開始され、さらに今年に入ってからタイ、フィリピン、マレーシアとの間で交渉が始まった。インドネシアとは政府間の予備協議が行われている。
 JAグループの「基本的考え方」はこうした新たな状況を受けて決定されたもの。
 その柱のひとつが、FTAは本来、相互発展と繁栄が目的であることから、農業分野でも両国の農業者の発展につながるものでなければならないという考え方だ。
 とくに強調しているのが、アジア諸国の農村では依然として飢餓や貧困など深刻な状況にあること。こうしたなかで、単に関税撤廃など農産物貿易の自由化を進めることは、流通業者や商社にのみ利益が吸収され、大多数の小規模農業者の利益にはならない懸念があることを指摘している。
 むしろ、農業協力を通じた農村開発や双方の農協間での農産物取引によって生産者手取りを向上させるなど、双方の農業者の生活の質や所得の向上につながる経済連携をめざすべきだと主張している。

◆日本の農業者にも公平な利益の享受が必要


第一次産業従事者1人あたり農地面積
 東アジアと日本との貿易関係はわが国からの工業製品の大幅な輸出超過の一方、農産物では圧倒的な輸入超過という状況にある。したがって単純に関税撤廃を進めれば、日本の農業が打撃を受けることになる。JAグループの基本的考え方は「農業分野がしわ寄せを求められるようなFTAは認められない」だ。
 一方、相手国にもそれぞれ難しい事情がある。韓国は、FTAによって機械、素材などでさらに対日赤字が拡大し、中小企業への悪影響が増す懸念をしている。タイも鉄鋼製品、自動車で同様の懸念を表明しているし、マレーシアは自動車や投資などの自由化は極めて困難と主張している。
 このように各国それぞれの事情があることから、FTAによって「勝者と敗者を明確に生み出さない」、双方の国で各産業分野が公平な利益を享受する内容であるべきとJAグループは訴えていく。

◆品目ごとに検証し、例外措置の確保を

第一次産業従事者1人あたり農地面積
  FTAは両国の農業者の共存の確保と発展をめざすべきとの立場から、農業についての具体的な主張として、JAグループはまず品目ごとの検証と例外措置の確保を求めている。
 FTAは、関税などを「実質上すべての貿易について廃止する」とWTOルールで定められているが、この定義についての具体的な基準は明確ではなく、他国が締結しているFTAでも農産物を関税撤廃の除外品目にしていることも多い。
 また、日本の農産物の平均関税率は12%とアジアではもっとも低く、無税品目と10%未満の低関税品目を合わせると4割以上を占める。高関税品目はごく一部であり、それらはわが国の食料安全保障や地域にとっての基幹作物であるなど、極めて重要な品目となっているのが現状だ。
 もうひとつは、日本が途上国からの輸入に対して一般よりも低い関税を特別に適用する「特恵関税品目」を今年度から拡大している点をふまえた対応だ。この拡大によって東アジア諸国の関心品目も対象となっていることから、すでに相手国の輸出には一定の有利な環境があるといえる。こうしたわが国の特恵関税措置について、正当に評価されるべきというのも主張のひとつだ。

◆東アジア農協間の提携で農業者の生活の向上めざす

 JAグループの考え方の重点のひとつは、すでに触れたように自由化だけでアジアの農村の貧困などの本質的な解決につながらない懸念があるという点だ。
 「アジアとの共生」にJAグループは取り組んでいるが、今回、相手国からは、食品の安全性確保や農村開発のノウハウの提供、農協間取引を通じた生産者の手取り向上策、生産能力の向上策などについて情報交換の要望も出されているという。
 こうしたことからJAグループは、農産物貿易の自由化と農業協力との間の適切なバランスの確保も課題としており、農業協力の面での貢献も進めるべきだとしている。
 食品の安全性の確保は消費者にとっても関心の高い事項だが、たとえば、日本の協力で相手国の食品の安全性が確保され、相互補完の観点で農協間での取引など新たな流通を実現すれば双方の農業者の手取り向上につながることも考えられる。相手国の生活が向上すれば日本の農産物の輸出も可能になっていく、という関係も視野に入れることができる。こうした観点でわが国も輸出促進策について条件整備すべきだと主張している。

◆「多様な農業の共存」が基本

 そのほかJAグループとしては農産物貿易の国際化にともなって、国内農業政策の転換も求めていく。具体的には現在検討されている食料・農業・農村基本計画の見直し作業のなかで新たな経営安定対策などの実現である。
 FTAはWTO交渉を補完するものというのがわが国の立場。WTO交渉では「多様な農業の共存」を主張しており、FTAでもそれは変わらない。
 とくにアジアと日本の農業は稲作中心の小規模家族経営など共通点も多く、それらを基盤とした農業、農村の維持の重要性は認識されている。相互発展の重要性について消費者や経済界などに理解を広げる運動が期待されている。

◆協力のためのアジア農業者グループ共同宣言(2003年7月)(抜粋)

 農産物の自由化と規制緩和という世界的な傾向のなかで、市場は、往々にして少数の貿易企業が操作しているが、小規模農業者が脆弱なまま、かつ防御の手立てがないまま取り残されるべきではない。より自由な貿易そのものが、必ずしも小規模農業者の利益になっているわけではないことが認識されるべきである。


(2004.3.3)


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