■生産者の主体性発揮を
JA全中によると地域水田農業ビジョンの策定状況は、一部地域では4月にずれ込んだがほぼすべての市町村で策定される見通しになっている。
しかし、ビジョン策定の過程で集落段階での実質的な話し合いによる担い手の明確化や、産地づくり交付金の活用などについて十分に検討されていない産地も多いというのがJAグループの捉え方だ。
米政策改革では、販売を起点とした米づくりへの転換や、多様な作物を作る水田農業などが求められているが、その実現は地域の主体的な取り組みにかかっている。
そのために地域水田農業ビジョン策定したが、これを実現させるには、集落段階でビジョンの実現に取り組むことが不可欠となっている。
今回、全国運動を展開するにあたってJA全中では「農家自身が地域の水田農業の抱える問題を自らの課題と受けとめる」ことが重要だとし、集落を基本として地権者、担い手が徹底して話し合って合意形成をはかることが、ビジョン実現のためポイントとしている。
すなわち、ビジョンを絵に描いた餅で終わらせないよう、地域が抱える課題を解決するための「地域運動」としての実践との位置づけだ。
■JAの事業基盤の強化
また、地域水田農業の改革は、組合員の多くが水田農業にさまざまなかたちで関わっていることを考えると、JAの組織、事業基盤の強化の問題でもあることも強調している。
JAいわて中央では、集落ごとにビジョンをつくり、その積み上げて地域ビジョンを策定した。その策定にあたっては、集落ごとに2〜4人配置されているJAの担当職員が説明役や話し合いの進行係を務めた。職員は営農担当とは限らず、信用や共済担当の職員も含めて担当者となっている。
話し合いの回数は最低でも5、6回、多いところでは20回を超えた集落も。話し合いの場では、当事者である農家になぜ集落ビジョンの策定が必要なのかの説明が重要で、その必要性を農家が自らの地域の課題として理解が進んだ集落ほどビジョン策定も早かったという。
地域水田農業ビジョンの実現は、JA経営が厳しさを増すなか、組織基盤の強化と経営の健全化を確保するための取り組みという認識も必要で、JAの全役職員あげて取り組むことが求められているといえる。
■集落の「明日を語る会」を
運動の目標は▽水田農業の構造改革、▽多様な水田の利活用による生産振興、▽販売を起点とした米事業方式への転換など。
これらの目標を実現するための具体的な取り組みとして生産者、JAに求められるのが、「水田営農実践組合」づくりだ。この組合は、集落を基本に地権者・耕作者のすべてに参加してもらう「合意形成」の場。
JA全中では、そのためにはまず集落に対して「明日を語る会」の立ち上げを呼びかけることが推進の第一歩だとしている。
同時に集落の明日を語るために「今の姿」を知ることが必要になることから、農業センサスのデータを活用して、担い手や農地利用などについて過去と現在を比較したグラフなどを作成、集落の構成員に示すことも大切になる。
さらに今回の運動で重視しているのが、集落の構成員全員を対象にしたアンケートの実施。自分たちの集落に暮らす人たちが将来についてどのような見通し、希望を持っているのかを探ることが、「集落の可能性」を引き出すことになると位置づけている。
そのため、戸別の調査ではなく、女性や若手の意見も聞き出すよう成人全員を対象にしたアンケートを実施し、男女別、世代別、農作業の受け手、出し手別などに集計して集落の可能性を見定めることも求められる。
■等身大のビジョンづくりを
このような集落の現状分析と将来の可能性を構成員全員が共有したうえで、地域水田農業ビジョンに示された担い手像や、売れる米づくりに向けた生産方針をふまえて、自分たちの集落のビジョンを策定していく。集落ごとに「等身大のビジョンをつくることが大切」とJA全中では強調している。
こうした手順を踏んでビジョンづくりを行うことが大切で、策定されたビジョンについて集落で合意形成されればそれが水田営農実践組合の立ち上げとなる。
運動の期間は当面、18年度までの3年間。
米政策改革では、米の生産調整について農業者・農業団体が主役となるシステムへの移行が課題となっているが、地域水田農業ビジョンの実現は「主役となるシステム」づくりにとっても不可欠な取り組みとなる。
JA全中では、4月28日にトップセミナーを開催する(東京・虎ノ門パストラル)ほか、都道府県段階でも情報交換のための交流集会を開く。また、全国各地の多様な取り組みを共有化するためJA全中ではホームページに「産地づくり全国知恵袋」を開設するなど現場での取り組みを支援することにしている。
「地域水田農業ビジョン実践強化全国運動」の取り組み日程 |
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(2004.4.21)