農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

緊急特集
「多様な農業の共存」こそ世界の食と農を守る
JA全中 宮田会長に聞く

地域で国民理解広げる強力な運動の推進に期待

WTO農業交渉とJAグループの対応

 WTO農業交渉は7月の枠組み合意に向けて大詰めを迎えている。わが国は多様な農業が共存できる公正・公平な貿易ルール実現をめざしている。JAグループも宮田勇JA全中会長を中心に代表団を現地に派遣し、各国農業団体と連携して上限関税設定の反対などを訴えてきた。交渉の現状と今後のJAグループに求められる対応についてジュネーブから帰国した宮田会長に緊急インタビューした。

◆自国の食料を生産する「当たり前の権利」を主張

 ――6月23日からのWTO農業委員会特別会合に合わせてG10主要国の農業団体で共同宣言が出されました。交渉の現状と合わせて取り組みの狙いをお聞かせください。

JA全中宮田会長
JA全中宮田会長

 「昨年のカンクン閣僚会議でインド、ブラジルがG20というグループを形成して先進国に対して強い意思表示をしたように、今回の交渉ではグループ化が進んでいる。開発途上国のなかの輸入国はG33を形成しているし、わが国も輸入国という共通の立場で主張していくG10というグループ形成しました。
 こうしたグループによる活動が活発になるなか、5月ごろ米国、EUを中心に急転直下、交渉をまとめようという動きが出て、米国、EU、オーストラリアに、ブラジル、インドを加えたG5という交渉の場も形成された。
 先週の交渉でもG5を議長が招集しようという動きがあって、われわれは非常な危機感を持った。こんなことで果たしてバランスのとれた交渉になるのかという懸念からわれわれ農業団体としても今回、ジュネーブで韓国、ノルウェー、スイスの農業者団体とともに「G10諸国の農業者代表共同宣言」を出して強くアピールしたわけです。
 7月5日にはG10諸国の閣僚会合がありますから、WTO一般理事会議長の大島大使をはじめとしてG10諸国政府にわれわれの考え方が実現されるようより積極的な体制をとってほしいという要請もしました。
 いずれにしても交渉は大詰めにきており、政府との連携で交渉をサポートすることが非常に大事になっている時期で、今回の行動もその一環です」

 ――主張のポイントはどこでしょうか。

 「柱は、公平・公正な貿易ルールの確立。一方に偏することがないようにしなければならないということです。
 また、今回われわれが強調したのは、その国で消費する農産物は自国で作る権利があるというのがG10の農業団体の基本的な考えだということです。自分の国で食べるものを自分たちで作る権利は不可侵だいうことを掲げた。これは当たり前ではないかと強く求めていきます。
 そのうえで具体的には、米国、ケアンズグループ、あるいはG20が主張しているような関税上限の設定は絶対に阻止するということですし、また、関税を下げないのならアクセス数量を一律的に拡大すべきといっていますが、それにも反対です」

◆重要品目の扱いは「ルール」として決めるべき

 「それから、センシティブ品目の扱い。センシティブ品目はどの国にもあり、日本にも米だけではなく、乳製品、麦、でん粉、砂糖などの重要品目がある。
 こういう品目の扱いは例外とするのではなく、きちんしたルールとして認めるべきだということも強く主張しています」

 ――関税削減方式についてはどうお考えですか。

 「全体として階層方式での提案が多いのが現状ですが、この方式の基本的な考え方は高関税ほど大きく削減していこうということです。しかし、もともと改革を緩やかに進めるということからウルグアイ・ラウンド方式で行こうということは大きな流れとしてあった。ですからやはり最低限の関税削減を認めるというウルグアイラウンド方式の基本的な考え方を反映させ、バランスをとっていくことが必要です。重要品目が守られれば削減方式にはこだわらないということでは決してありません」

 ――世界農業者大会など各国の農業団体と意見交換していますが成果はどう受け止めておられますか。

 「はっきりしたのは農業団体は政府と違うということです。米国やカナダ、アジアのケアンズグループの国でも農業者は違う。農業者は、やはり自国の農産物を生産していくという基本ルールを尊重していかなくてはならないという点は共通しています。米国でも家族農業を中心に本当の農業をやっているファーマーズ・ユニオンという団体はわれわれと考えは共有している。
 農業は関税などの措置がなくなってしまえば、弱いところはお手上げだということや農業の多面的機能、これは農業と不離一体のものであるということはどの国の農業者も深く理解している。
 また、国によっては農民は弱い存在で政府が彼らの意見を聞かないで貿易交渉を進めている国もあります。だから農業団体は世界で結集していかなくてはならないんです」

◆国内の運動の盛り上げが交渉をバックアップする

 ――そういう意味では、G10の主張は世界の農業者を守る主張でもありますね

 「そうです。それから、今強調したいのはわれわれ代表団は海外に出ていって各国の農業団体とともに政府の交渉をサポートする運動をするわけですが、国内での支援が重要だということです。WTO交渉について間違ったニュースが流れたりしていますが、そういう間違ったニュースや論評を払拭するような運動を国内のJAグループの同志のみなさんに地域で起こしてほしい。
 たとえば、貿易交渉では農業がブレーキをかけているという論調があって、さも農業が悪者であるかのように言う。
 すでに6割も外国から輸入しているのにですよ。もっと開放しろというのは日本から農業をなくせということでしょう。
 こういう誤った考え方を国民的理解のもとに払拭していかなければならない。
 われわれは安全・安心な農産物の提供を掲げていますが、その基盤が失われないようにしなければいけない。これはわれわれ農業者が生きる生きないだけの問題ではない。
 国民の食の安全・安心に恒久的に責任を持っていくということです。
 そこを分かってもらうような国民運動をしていくこと。国民の気持ちをひとつにしていくことが力を増大させることになります」

 ――正念場に向けてご活躍を期待します。ありがとうございました。

(2004.7.1)

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