◆コメの供給量は十分と見る卸関係者
10月15日現在の16年産米の作況は全国で「98」。農水省の予想収穫量は約873万トンだ。
このうち加工用米として販売される見込み量は12万トン。したがって、主食用は861万トンとなる。今年6月に策定した米の需給見通しでは16年産の需要量は859万トンとしており、その差は約2万トン。農水省はこれらのデータから作況98でも「需要に見合った米生産量は確保される」としている。
一方、JAグループは早期の政府買い入れを求めてきたが、農水省もこの方針を変えず、16年産米から40万トンを買い入れ政府備蓄を100万トンとする予定だ。ただし、20万トンを売却することにしており、来年6月末の政府備蓄米は80万トンとなる見込みだ。
農水省によると新米を40万トン政府が買い入れても供給不足になることはないと説明する。その理由が卸の抱えている15年産米を中心とした民間在庫だ。
9月には民間在庫は45万トンと推定されており、その後減ったとはいえ、10月末現在ではまだ35万トン抱えていると推定されている。こうした民間在庫が出回ることから供給不足はないとみる。
「作況98でも生産量は873万トンあると聞いて、卸はみな、量は十分ある、あわてることはない、と受け止めた」とある卸関係者は語り、翌日に控えた入札について「普通なら価格が上がるが、一部銘柄除いてまず上昇しない」と予想した。
事実、ふたを開けてみると10月27日に実施された入札では上場71銘柄中、14年産対比でわずかに上昇した銘柄は16銘柄。そのほかは下げ、全体では14年産にくらべても60kgで124円安くなった。
◆昨年の二の舞は避け慎重な仕入れに
不作に見舞われた昨年の出来秋、米卸業者は手当を急ぎ、15年産米価格はヒートアップした。同時に政府備蓄米が販売され大量に購入した。その理由は「昨年は供給量トータルが不足すると見ていたから」だ。
しかも、政府備蓄米は数量、価格、そして品質が分かっている。一方、15年産自主流通米(当時)は、それらすべての要因が不透明だった。そこで確実な販売のために価格、品質が分かっている政府米備蓄米に人気が集まった。国も単品銘柄ではなく、ブレンド米の宣伝に力を入れた。また、卸の販売の大きな柱となっている業務用米は年間販売価格が決められているのがほとんど。その対応としても価格の決まっている政府米で急いだ。
「つまり、業務用にしても店頭販売にしても、昨年はまず確実に売れる政府米が席をとってしまったということだ」という。
その結果、入札価格は次第に低下し、高騰時に急いで手当した新米は相場との差損を抱えた在庫として積み上がってしまった。
「たとえば、60kg2万5000円で仕入れた米が1万6000円に。9000円の差損を抱えることになった」。
関係者は「流通が自由化されるなか、昨年は卸がリスクを負ったのだ」と話す。しかし、今年はその反省と供給量全体に不足はないとみていることから仕入れに慎重になるという。
◆5kg2000円が店頭価格の基準
では、売れる米について業界はどう見ているのか。
関係者は「5kgで税込み2000円前後」と言い切る。幅は5kg1780円から2180円。これ以上の価格設定でも売れるのは新潟コシヒカリなどごく一部の銘柄だという。また、この価格帯のなかでも品質がよければ相対的に高価格に位置できるが、品質がよくなければ価格を下げて売ることになる。
「大手量販店では棚の銘柄構成はほぼ決まっている。店としては消費者の反応、つまり、リピーターが多いかどうかでその銘柄にどれだけのスペースをさくかを決める」。
こうした販売状況のなかで16年産米はどう評価されるのか。
「要因は銘柄別の量と品質です。全体の生産量に不足はなくても地域別にはかなり差がある。北海道から太平洋側の東北、関東は量はあるが、西日本は作柄がよくない。さらに銘柄ごとの品質をみていくと、多くの卸が今年は何が売れ筋なのか、まだ手探り状態にあると思う」という。
実際に新米が出回りはじめたばかりで消費者の反応はまだこれから。「この時期にある銘柄が店頭で売り切れたと思っても喜べない。リピーターがなくて次の注文はゼロということもありますからね。おそらく年内はみきわめの時期でしょう」。
◆業務用の競争激化 銘柄指定のブレンド要求
加えて15年産に不作の影響も考えなくてはならないという。
たとえば、15年産では宮城県の作況は69だった。当然、同県産の米は出回り量は少なかった。しかし、その分、量販店でのスペースは小さくなってしまったという現実がある。こうしたなかで今年は宮城県産は作柄が良好だが、「売る側からすればスタート時点でハンディがあるようなもの。現在の倍のスペースを確保するつもりで努力をしなければならない。それも価格はもちろん品質で評価されることになる」。厳しいがこれが流通の現実だという。
ただ、一方で来年以降の業務用販売についてはすでに熾烈な競争もはじまっているという。外食、中食産業に販売価格、量を提示して契約を結んでいく時期を迎えているのである。しかも最近ではブレンド米でも銘柄構成を指定されることも多く条件が厳しい。
「いつまでも取引先に販売条件を提示できなければ他社の卸に先を越されてしまう」という事情もあるだけに、産地の作柄、品質をにらみながらの対応が迫られている面もある。
◆「安心・安全」は「当たり前」と評価
「結局、売れ行きを見ながら仕入れをすることになるわけです。これは“売れるだろう”と予想して買うことはないということです。ですから、かりに品質の低下から全体の供給量が不足しても、あれ?売るモノがない?、と業界が思うのは来年の6月ごろになるのではないか」。
在庫リスクを避けるための現在の卸の行動をまとめてある関係者はこう話す。
ところで、産地としては今年からとくにJA米など安心・安全な米づくりに努力してきたが、この点はどう評価するのか。
「厳しいようですが安全・安心がなければ売れません。もう当たり前の要求になっていてそれが差別化につながるということではないでしょう」という。
在庫となっている15年産米の販売もにらみながら今年の米流通は、銘柄別の品質を軸に注目しておく必要がありそうだ。
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