農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

新たな基本計画の課題 求められる国内生産増大の視点
自給率向上の戦略は描けるのか?
幅広い「担い手」の育成と「農地利用集積」のための制度確立を

 新たな基本計画策定に向けた審議会企画部会の検討は12月に入って議論の整理に入った。7日には自由討論が行われ、14日の企画部会では農水省が新たな基本計画の構成の考え方を示す予定となっている。ただ、自給率の向上策や担い手の範囲、資源保全政策など議論が充分に行われず将来方向がみえない点も多い。これまでの議論を整理してみた。

◆非現実的な「担い手」の規模要件

 現在の「基本計画」は自給率目標をその柱に置き、目標達成のための農業構造の展望など施策のあり方を定めている。
 ただし、今回の検討では担い手・農地制度や直接支払いによる経営安定策、資源保全策など、WTO農業交渉をふまえ国際規律に合う政策への転換という議論からスタートした。自給率問題が議論されたのは、秋の企画部会再開以降となった。
 その自給率向上策として農水省が示したのは、構造改革の推進によって自給率の向上を図る、という柱のみといっていい。そして、一部の担い手に施策を集中させることによって構造改革を進めるというのが農水省の考え方だ。当然、一部の担い手だけで自給率向上が図れるのかという疑問の声が出された。
 しかも品目横断政策の経営対象は、米政策改革で導入された担い手経営安定対策の要件よりも厳しくするという方針を農水省は示した。
 担い手経営安定対策の要件は個別経営で北海道10ha、都府県4ha。集落営農は20haだ。この要件を満たした加入者数は11月現在で個人で約3万。集落営農では200にすぎない。これら加入者の水田面積は合わせても約16万ha。水田面積のわずか6%である。
 農水省は、19年度から品目横断政策を導入する際には、現在よりも構造改革が進んでいることを見込んでさらにハードルを高くする方針を企画部会で説明した。しかし、それではさらに対象が限定されかねない。
 JA全中の集計によると田のある集落12万のうち20ha未満の集落は65%を占める7.9万。集落営農の規模要件が現在の担い手経営安定対策の要件の20haより高く設定されれば、集落営農を組織したとしても品目横断政策の対象にはならないことになってしまう。
 担い手問題についてのJAグループの考え方は、「地域の実態に即した担い手」が基本。一律の要件を課すのではなく地域ごとに担い手を特定し施策の支援が受けられるような仕組みにすべきということだ。

◆担い手対策と不可分の農地問題

 担い手の確保、育成の問題は、どう農地利用集積を進めるかという問題と不可分だ。
 水田農業の構造改革を進めるには農地の零細分散所有という課題をどう解決するかが最大の課題。
 企画部会の議論の当初からJAグループが強調したのは、この日本における農業の姿について共通認識を持ち議論すること、だった。それがアジア・モンスーン地域の特徴でもある零細分散所有の解決だ。
 そのためには地域の農地を誰が担い、また、資源保全をどう図っていくかなどについて、地域・集落での合意を形成し将来像を描くという日本型の構造改革として実現すべきとJAグループは主張してきている。
 しかし、企画部会の議論ではこうした点での議論は不足しており共通認識が必ずしも得られたわけではない。担い手と農地制度問題が密接にリンクしていることを理解しない主張も多い。担い手は個人の大規模経営を育成することのみを政策目的にすべきとの考え方の委員もいる。
 一方、農地制度改革については株式会社に農地取得を認めるべきとの意見に代表されるように規制緩和の観点からのみの取り上げ方だった。

◆重要になる地域水田 農業ビジョンの実践

 このうち農地制度改革では、農水省は耕作放棄地の解消のための株式会社のリース方式による参入、すなわち特区の全国展開は認めるものの農地取得は認めない方向だ。年明けにも農業経営基盤強化法などの改正案が示される見込みだ。
 JAグループは基本計画の検討で、農用地利用改善団体の規程の拡充を求めているが、これは地域水田農業ビジョンでの地域合意を農地の面的利用の促進を制度的に裏付けようというものだ。具体的には、農用地利用改善団体に農地の利用だけでなく作物作付け協定や資源保全協定などを地域で結ぶ機能を持たせることなどが考えられている。

◆受託組織なども担い手の対象に

 地域の実態に即した担い手という観点でJAグループが重視しているのが、全国で約2万ある受託組織やサービス事業体。たとえば大豆作の生産組織の作付け面積は14年産では約6万1000haで大豆作付けの41%も占める。
 こうした受託組織が生産に重要な役割を果たしていることからJAグループでは品目横断対策の対象とするなどの担い手とすべきと主張している。ただし、7日の企画部会でも受託組織を担い手とすることへの反対意見をはじめ、施策の対象は絞り込むべきとの声もありこの問題についての溝は埋まっていない。

◆議論不足の資源保全 水田作物対策も課題

 多様な担い手が品目横断政策など経営政策の対象になったとしても、担い手以外の農家も含めて地域農業が営まれていることから、農村地域政策としての「資源保全政策」が必要になる。品目横断政策とともに環境・資源保全政策についても中身はともかく当初の議論では、ふたつがパッケージとして実施されることが念頭にあった。しかし、その点を農水省は明確にしていない。先行的なモデル事例のみを対象にするという方針でJAグループは品目横断政策が導入される19年度にパッケージで実施すべきだとしている。
 もうひとつ議論不足なのが自給率向上のための作物対策。自給率の議論では食生活の課題などに焦点があたった感があるが、基本法には国内農業の増大を図ることがうたわれている。その点で農業生産振興という観点での議論は少ないが、JAグループでは自給率を向上させるには飼料作物なども含め水田にどのような作物を導入するかを提起している。本格的な議論をすることが今後求められる重要な課題だ。

(2004.12.14)

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