|
|||||
検証・時の話題
|
|
― 改正農薬取締法施行 ― |
安心・安全な食料を供給するための枠組みの一つである改正農薬取締法が施行されて1カ月余が経過した。本紙では、数回にわたって産地を守り国産農産物の信頼を回復するために、この改正農取法をどう考え活かしていくかを考えてきた。今回は、農業資材審議会農薬分科会長として法改正に携わってこられた本山直樹千葉大教授に、改正にいたった歴史的背景や今回のポイントでもあるマイナー作物への適用拡大、さらにさまざな論議がされている特定農薬問題などについてインタビューした。 |
◆人の健康と環境を守るために ――今回の農薬取締法(農取法)の改正についてどう評価されていますか。
本山 改正の意味はいくつかありますが、全体を通していえることは、画期的な進歩だということです。 ◆使用者責任を明確にし消費者の安全性を確保 ――そのことが無登録農薬問題に結びついた…。 本山 そういうことです。 ◆コストを削減できる仕組みが必要 ――適用作物の拡大とかグループ化、マイナー作物への経過措置がとられましたが、これも今回の改正の大きなポイントですね。 本山 いままでは、登録のない作物への使用を黙認というか、同じ科の植物への登録があるからということで間接的に認めてきたわけです。それが消費者の不信感を生む一つの要因だったわけです。それを全部表に出し、これからは適正に対処しようということにしたわけで、これは消費者の信頼を回復する画期的な施策だと思いますね。 ――なぜそうしたのでしょうか。 本山 農家が経過措置の農薬を使うときには、県の指導機関が了解し、その指導の下に使って欲しいということです。どこでも使っていいとなると、県が実態を把握できず、キチンとした指導も監視もできなくなり、食の安全性に不安感が出てくるからです。一見、不合理なようにみえますが、消費者に対する安全性を確保するためのやむを得ない措置だといえます。
――特定農薬にはさまざまな議論がありますね。 本山 農家個人で化学農薬以外の防除方法を工夫している人がいますが、こうした創意工夫をつぶすような過剰な規制をしてはいけないということで考えだされた正しい施策だといえます。ただし、特定農薬という言葉が適切かどうかという指摘がされ、今後は特定防除資材と呼ぼうということになりました。 ――誰ですか。 本山 有機農業ブームに便乗して、偽装有機農業用資材を販売して利益を得ていた業者だと思います。それから、偽装有機農業生産物を流通して利益を得ていた団体です。そして3番目が、偽装有機農業をやっている農家です。 ――特定農薬検討委員会の委員長をされていますがどのような検討をされたのでしょうか。 本山 特定農薬の基準は農取法にも書いてあるように「原材料から判断して安全」なものということで、効力についてはなにも規定がありません。委員会では、特定農薬といえども農取法の原点である品質と効力の確認、そして人間の健康と環境に対する安全性は確認しなければいけないという基本方針を決めました。 ――その結果、指定されたのが重曹・食酢・在来天敵の3つというわけですね。 本山 740の資材が候補にのぼりましたが、「効くと思います」とか「食品添加物として認められているから」など、大半が個人の思い込みで科学的な根拠がありませんでした。農薬登録には厳しい条件があるわけですが、特定農薬で、使った本人が効力があると思いますということだけで、国がお墨付きをあたえることはできません。 ◆品質がバラバラで試験データがなかった木酢液 ――原材料が食品だから安全とはならない… 本山 安全性は、用法用量の条件の下でしか判断できません。 ――木酢液が保留され、話題になっていますね。 本山 木酢液については、製造方法によって品質がバラバラだということ。含まれる成分の中には明らかに有害だといえるメタノールとかホルムアルデヒド、発ガン物質であるベンツピレンが入っていること。そして有害物質が含まれた混合物でありながら安全性に対する長期試験データがないこと。農薬としての実用効果に関する試験データもほとんどない。そういう状況では、特定農薬として指定してもよいとする根拠を国民に説明することができないということで指定しませんでした。 ――大半が保留されたわけですが、今後も検討していくわけですね。 本山 時間をかけて、効力と安全性について判断できるような資料を集めます。資料がないものは試験をして資料をつくり、一つひとつ判断をしていきます。木酢液については、農水省も試験をしていく予定ですが、品質、効力、安全性について私の研究室でも試験をする予定です。 ◆有機農業の名の下に危険な資材も ――実にさまざまなものが明るみにでてきましたね。 本山 指定のための作業をしていて私たちが実感したことが二つあります。 ――指定されなくても個人の自己責任で使ってもいいとなっていますね。 本山 まだ、安全とも危険とも断定できたわけではありません。いわば「容疑者」の段階ですから、判定するまでの期間は、業者が農薬と謳って販売することは禁止しますが、農家が個人で自己責任でつくって使うことまでは規制できませんということです。
――今後の農薬のあり方についてどうお考えですか。 本山 田植え直後に現場に行って、生産者に今年はどんな除草剤を使いましたかと聞いても10人に1人ぐらいしか答えられません。こういう農薬についてキチンとしたトレーニングや研修を受けていない人がたくさんいるわけです。 ――海外にはそういう制度があるのですか。 本山 アメリカには、一定以上の危険性のある農薬についてそういう制度があります。危険性の判断が日本とは違い、日本ではホームセンターで売っているような農薬も入っていて、かなり広い範囲を網羅しています。
――最後に、生産者や農協が産地を守り、消費者から信頼されるために必要なことはなんでしょうか。 本山 消費者の信頼を得るために、農薬取締法をキチンと遵守してくださいということが第一点です。二番目は、トレーサビリティを確実に行うことで、消費者とのコミュニケーションを確立してくださいということです。三番目は、農業には食料生産以外にも多面的な機能がありますから、それを認識して主張し、消費者や都市との交流の場をつくり、育ててほしい、つまり消費者と生産者がお互いを理解して共に日本農業を守っていってくださいということです。 (2003.4.22)
|
特集企画
| 検証・時の話題 | 論説
| ニュース | アグリビジネス情報
| 新製品情報 | 催しもの 人事速報 | 訃報 | シリーズ | man・人・woman | コメ関連情報 | 農薬関連情報 |
||
社団法人 農協協会 | ||
|