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検証・時の話題
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ルポ 産廃投棄 青森・田子町 現場を見る 農地への不法投棄問題 日本一のにんにく産地が日本一のゴミ捨て場に |
日本一のにんにくの産地が日本一のゴミ捨て場になった。森と農地が悪質な業者に荒らされたのが実態だが、背景には社会全体が抱える歪みも見えてくる。現地で実情を聞いた。 |
◆豊かな森と農地に埋まる産廃 漂う異臭
が、私の足元には国内最大規模といわれる産業廃棄物が埋まっている。 場所は、にんにくの産地として知られる青森県田子町から岩手県にまたがる一帯。捨てられた産業廃棄物の量は、青森県側で67万立方メートル、岩手県側で15万立方メートルと合わせて82万立方メートルと推計されている。あの瀬戸内海・豊島への不法投棄を超える量が人口7600人の農村に捨てられた。 現場は歩くとふかふかとした感触がする。地面には黒い筒状のものがところどころに転がっていた。廃プラスチックなどを固めて作るRDF(固形化燃料)に偽装したゴミだという。 谷に降りると斜面に設置されたパイプから真っ黒な水が流れ出ていた(写真)。鼻をつく異臭。写真を撮るために近づくが、とても長くはいられないほどの臭いだ。こんな高原で出くわすような光景ではない。 「ここは山菜の宝庫、野ウサギもいるし野鳥も多い。まさに自然そのもの。それを日本一のゴミ捨て場にした。絶対に許されない」。県に全量撤去を求めて昨年結成された住民組織「田子の声100人委員会」会長の中村忠充さんは憤りを隠さない。 「規模拡大」の名のもと 農地を買い集め不法行為
地元によると、発端は昭和50年代、八戸市に本社を置く三栄化学工業が現在の不法投棄現場近くの生産法人・和平高原開発農場に牧草地造成の手助けをする事業を持ちかけたことに始まったという。優良な牧草を育てるためにたい肥などを農地に入れるという仕事だ。 農場側は優良な土壌になって戻してくれるならと契約した。ところが、しばらくして運搬されてくるものが「普通の汚泥ではないのではないか」と疑いを持った。契約打ち切りを申し入れると同社は「草地造成に貢献している」などと突っぱねた。実際は農場側は「すごまれた」のだという。 結局、期限切れを待って契約は解除したが、今度は周辺の山林、採草放牧地を買い集め始めた。 買い集めたのは同社の経営者ですでに死亡している源信氏。田子町に農地を所有していたことから、農業経営の規模拡大を理由に平成元年ごろから、地元農家から買い集めた。 農業委員会事務局によると「山であれ農地であれ、隣接してさえすれば買い集めた」。なかには畜産経営に行き詰まり農協などに多額の負債を抱えた農家からの取得もあったという。 「規模拡大するため、といわれれば農業委員会としても善意で解釈するしかなかった」(同町農業委員会事務局)。そのうえで、源信氏は三栄化学工業に貸し付けるという形をとったのだという。 そして、平成2年、源信氏から転用申請が農業委員会に提出される。申請内容は産業廃棄物の中間処理場、最終処分場、浸出液処理施設の建設だった。 高原野菜づくりと言い張り巧妙にカモフラージュ
しかし、現場の視察をしようにもバリケードを張り巡らせて中がのぞけないばかりか、視察への理解を求めても「ヤクザのような態度で断られた」(農業委員会事務局)。 すでに夜中にダンプの音がうるさいことなどから不法投棄が行われているのではと地元の人たちは感じていた。しかし、現場を臨める山にあがって遠くから見ると豆や野菜を作付けしているようだった。言い分は「周辺の農家と同じように高原野菜をつくっている」。 現在でも周辺では高原野菜が生産されていて味がいいと評判だ。それにかこつけて、夜中にゴミを埋め朝には覆土し、さらに野菜の苗などを植えて「立派に農地として使っている」。今では、こうカモフラージュしていたと農業委員会事務局では考えている。 結局、町の農業委員会は平成3年に水質汚染の懸念があるとして転用は不許可との判断を下す。 ところが、許可権限を持つ県は転用計画自体には問題がないとして許可してしまう。「地元が心配するような問題はない」と町の考えを無視した。 しかも、平成8年には不法投棄が発覚し県は一時事業停止処分を出したが、調査は行わず処分期間が終わったのち、事業更新の許可まで出していたという。 こうしてゴミの搬入が長く続けられ、それらは処分などされず野積みになっている不法行為であることが岩手県警の内偵で発覚したのが平成11年。その後、両県合同の捜査で三栄化学工業の社長、幹部とゴミを運んできていた埼玉県内の産廃処理業者は12年に逮捕された。実際、現場に行ってみると最終処分場との看板はあるものの、シートを引いた窪地に雨水が溜まっている状態。見せかけにすぎなかったことが分かる。 裁判では、有罪判決が下ったが、関係した企業は解散や倒産し、当事者による現状復帰の可能性はない。国内最大規模の産業廃棄物は今後、青森県が処分することになった。 安全・安心のコスト 地元の負担で信頼を確保
町は県に責任があるとして、まず現場から有害物質が漏れ出ないように囲い込み、そのうえで全量撤去することを求めている。岩手県は全量撤去することを決めている。 7月6日、現場を視察した三村申吾知事は「現場では明らかに汚染物質が浸みだしている。早めに対策に取りかからなければいけない」と語ったが、全量撤去か、部分撤去し残りは現場で浄化するという方法をとるのかについては明言を避けた。 100人委員会の中村会長は、汚染土壌まで含めれば全体で「100万トン近くになる」という。「全量」といっても82万トンの廃棄物だけではなく“有害物質の全量”を撤去すべきだと主張している。 一方、町は農産物のダイオキシン濃度の調査を行政負担で始めた。にんにく、米など不法投棄現場に近いほ場で生産されたものついて「今のところ問題はないが、検査せざるを得ない」と話す。首都圏の生協との取引もあり、むしろ積極的に情報提供していくことが信頼確保につながるという姿勢だ。 狙われる農地 入口での規制こそ必要
ただ、摘発された産廃業者が埼玉県の業者だったことが示すように、運び込まれたゴミは都会からのものが大半。県の調査では、ゴミのうちもっとも多いのが東京都、次いで埼玉県と関東で90%になるという。地元の廃棄物はごくわずか。 中村さんは「これは構造的な問題。都会のゴミを地方に押しつければいいというエゴではないか」と強調する。 そこに山林や農地が狙われる余地があるというのだ。 全国農業会議はこの6月に最近の農地取得相談についての状況をまとめている。それによると、千葉県では株式会社の農地取得が議論になった今年、産業廃棄物関係業者からの相談件数が増えたという。14年度の相談件数は93件。うち34件が産廃関係者だった。 おもな内容は、厩肥、家庭用ゴミ、野菜の残さなどを原料にたい肥を製造、農地を購入して施用し地力をあげるという構想だ。田子町で三栄化学工業が昭和50年代に生産者に持ちかけた話とそっくりである。 計画の詳細を聞いても栽培計画がほとんどなく、計画があっても粗放栽培といったように具体性に乏しい。報告書は「農業経営を目的としての農地利用ではなく、産業廃棄物をたい肥化した処分場として活用したいという意向が強く伺われる」としている。廃棄物処理の必要から、かつてより正面から農地がその処理場所として考えられているといっていいだろう。 農村とは何か。農地とは何か。田子町の中村さんの言葉が胸に刺さる。 「都会がバブルに踊っているころ、田舎はもくもくと農業生産をしてきた。それは都会の人たちの食料ではないですか。私たちが宝の森だと思っている地域は、都会の人たちにとっても癒やしの場所のはず。ともに保全すべき環境でしょう」 (2003.7.17) |
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