農業協同組合新聞 JACOM
   

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「違うものも同じに」から「違うものは違うものとして」へ

田中久義 (株)農林中金総合研究所 常務取締役

 森と湖の国フィンランド。世界最大の携帯電話機メーカーであるノキアを産んだ工業国フィンランド。フィンランドは協同組合活動が活発な国でもある。今回は、フィンランドの協同組合の状況や当面している課題を明らかにしながら、わが国との共通点を考えてみた。

フィンランドの協同組合

 フィンランドという国の名前から、どのようなイメージが浮かぶであろうか。森と湖の国、スキー特にジャンプ競技の強国、そして最近では世界最大の携帯電話生産国…。あまり知られていないが、フィンランドは協同組合が高度に発展した国でもある。
 このシリーズは、農林中金総合研究所が翻訳・刊行した「EUの農協」という本を契機として始めた。以来、1年以上を経過し、さまざまな論点を取り上げてきたが、今回は出発点に戻り、本でも紹介しているフィンランドの協同組合の現状や課題を紹介しながら、日本の農協との接点を考えてみよう。

◆国民の6割は組合員

 フィンランドは、国民の約6割が1つ以上の協同組合に加入しているなど、ヨーロッパのなかでも協同組合が高度に発達した国のひとつである。
 分野ごとのシェアをみると、協同組合銀行が銀行市場の33%を、協同組合の小売業が39%を、そして相互保険会社が保険市場の40%を占めている。また、農業分野では、酪農品の96%、食肉製品の69%が協同組合によって生産され、販売されている。さらに林業では、森林国フィンランドの3大林業会社のうち最大手が協同組合であり、民有林からの木材の取り扱いシェアは33%である。
 このように、フィンランドの経済に占める協同組合の地位は、わが国よりもかなり高く、その影響力も大きい。

◆フィンランドの協同組合の歴史

 フィンランドの協同組合は、1899年にペレルヴォ協会がつくられた後、急速に広まった。ペレルヴォ協会は現在ではペレルヴォ中央会となり、協同組合の中央組織としての役割を発揮している。ペレルヴォ連合会は1999年に100周年を迎えた。日本の産業組合が制度化されたのは1900年のことであるから、フィンランドとほぼ同じ長さの歴史をもっていることになる。
 フィンランドの協同組合組織は、まず中央に協会がつくられ、その下部組織として単位協同組合が徐々に地方に波及する形で組織化された点が特徴的である。なお、協同組合運動に対する政府の態度は中立であるといわれているが、経済的な重要性は理解され、政策的に利用されてもいる。
 例えば、農村部における金融の充実をはかるため、政府は協同組合金融機関であるオコバンクに多額の資金を貸し付け、それを原資に農業や農村での金融ニーズに応えた。このように、フィンランドでも協同組合が政策遂行機関としての役割も果たしていた。

フィンランドの協同組合の課題

 ペレルヴォ連合会は、1999年に100周年記念してセミナーを開催した。そこには、欧米の著名な学者や研究者が招かれ、さまざまな報告を行なっている。研究者が共通して指摘した課題は次の2つであった。

◆企業統治と協同組合

 第一は、組織の経済学といわれる分野において企業統治への関心が高まるなかで、協同組合が注目されていることである。広い意味での企業統治の基本は、その運営が所有者によって統制されることである。このような統治構造の分析は、投資家が所有する会社とそれ以外の組織との違いに注目しており、株式会社だけではなく、協同組合を研究する必要があると指摘されている。
 このように、株式会社の企業統治問題の解決策をさぐる一環として、協同組合組織に対する関心が高まっているのである。

◆自由化・IT化と協同組合

 第二は、自由化、グローバリゼーション、情報技術(IT)の急激な発達と実用化である。これにともなう新たな競争の激化が、企業に大幅なリストラの実施を迫る要因となっている。
 企業は、効率性の追求と株式価値の増大という投資家の要求に応えるため、合併と分割を繰り返している。この過程で、資本市場が重要な役割を果たすようになり、株式の売買や株価の水準がリストラを促進する手段となっている。
 この結果、市場で売買可能な株式をもたないため、市場情報にあずかることができない協同組合のような組織が、変化にうまく対処できるか、という深刻な問題が生じている。

共通する基本問題

 フィンランドの協同組合が直面している問題は、日本の農協のそれと驚くほど似通っている。
 まず、企業統治は、経営管理委員会制度の導入などを契機として、いわゆるコーポレート・ガバナンスの問題として注目を集めている。これをめぐる議論は、意思決定の効率性という観点とともに、所有と経営の関連で取り上げられることが多い。経営管理委員会制度は、プロに経営を委ねる方向であり、明確なひとつの答えである。しかし、導入された制度が実態的にどのように機能するかが重要であり、これはわが国でも基本問題である。

 第二の市場性資本の調達問題もそうである。
 わが国の農協では、組合員が出資者、運営者、そして利用者である、という考え方が定着している。この限りでは、利用を前提としない出資は考えにくい。
 しかし、市場での競争が激化するにつれて、機動的な資本調達方法をもっているかどうかが、優劣を決める要因になっている。そのため、組合員からの増資という資本調達手段しかない農協は、競争上遅れをとる可能性が指摘されている。
 この問題を制度的に解決する仕組みとして導入されたのが、優先出資制度である。優先出資制度は、組合員(会員)資格に関係なく資本を調達することが可能であり、証券は売買される。現に、信金中金の優先出資証券は東京証券取引の第一部に上場されている。
 実は、このような資本調達は、フィンランドをはじめ、ヨーロッパ各国の協同組合では既に採用している。協同組合が投資としての出資を受け入れているのであり、わが国でも仕組みは整っている。

市場主義下での協同組合の変化

 市場主義の強まりへの対応は、国の事情を問わず、各国の協同組合が共通して直面している課題である。以下わが国での実際の動きの中から、これまでの考え方が変化していることを示すと思われるものを紹介しよう。

◆平等から公平へ

 最近、コメの集荷状況の変化をヒアリングする機会があった。訪問した農協のコメ集荷状況はかなり高い水準であった。その高さとともに注目したのは、組合員向け営農対策の説明資料に「平等から公平へ」という考え方が明記されていたことである。
 その趣旨は、次のようなものであった。
 組合員の営農形態が多様化し、規模格差も大きく、農協へのニーズも異なってきた。そのため、従来型の一律的対応では、組合員の理解が得られない恐れさえある。そこで、事業運営を形式的な「平等」から、組合員のニーズに基づいた実質的な平等である「公平」に転換し、組合員の営農形態に合わせた営農サポートや、利用度に応じた価格体系の適用を基本にする。
 注目すべきは基幹作物である、コメにこのような考え方が適用されていることである。

◆平等とは何か

 協同組合は、組合員を平等に扱うことを基本にしている。この平等については、どのように扱うことがそれを実現することになるのか、が問題であった。
 <例1>果樹は肥培管理等の技術の違いが品質に如実に反映するという。もし販売代金をプールして清算する方式をとるとすれば、優良品を生産する農家は不利な扱いを受けることになる。プール計算は本当に平等なのだろうか。

 <例2>信用事業では、百万円を借りようが、1億円を借りようが、利率が同じであることが平等なのか、という問題があった。また、購買事業では、肥料を年間に100袋買う農家と1000袋買う農家で価格や手数料率が同じなのは平等なのか、が問題になった。

◆これまでの工夫

 系統農協が重ねてきた工夫は概ね次のようである。
 まず販売面では、産地ブランドを維持する観点から、選果基準を詳細に設定するなどして価格差が容認された。しかし、そのためには市場評価がある程度定まっていることが前提となり、嗜好品的な色彩が強いものに限られるという制約があった。
 先のコメの取り扱いで強調されなければならないのは、コメについても価格差が当然視されるほど、市場化が進んだということである。
 信用事業では貸出金利の弾力適用が、購買事業では大口割引が導入された。この両者の考え方は基本的には同じであり、利用する量に応じて値付けを行なうものであった。
 貸出金利の弾力適用は、農協の自動車ローンが大きく伸びる契機となった。その内容は、農協から自動車を買えば○%、自動車共済に加入すればさらに○%貸出金利を引き下げるというものであった。このような動きが住宅ローンなど他の貸出にも広がり、それが徐々に組合員の考え方を変化させていった。

“違うものも同じに”から“違うものは違うものとして”へ

 これまでに系統農協が考えてきた組合員間の平等は、「違うものを同じ」に扱うことであった。これは農協の設立当初の状況に合っていた。というのは、農家間の格差があまりなく、ほぼ均質だったからである。
 しかし、規模格差が生じるにつれて、それは納得性を欠くようになった。「違うものは違うものとして扱う」ことこそが実質的な平等である、という考えに変化したのである。
 この背景のひとつとして、経済の市場主義化がある。農協をはじめとする協同組合は、望むか否かに関わりなく、市場経済に取り込まれている。その中で、組合員の意識の変化に合わせ、あるいは場合によってはリードして、協同組合としてのあり方の見直しが常に行なわれてきた。
 その見直しが、いよいよ出資という協同組合の根幹にまで及んできた。これは各国共通の課題なのである。 (2003.7.29)



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