農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

8月中旬にヤマ場 WTO農業交渉
米・EUの共同ペーパーが焦点

基本路線には大きな隔たり 妥協案づくり 調整は難航も

 カナダのモントリオールで7月28日から30日まで開かれていたWTO非公式閣僚会合で米国とEUから8月の事務レベル会合に向けて共同ペーパーを作成する努力が表明された。対立が続いてきた両陣営が妥協案づくりに入ったことで合意に向けて交渉が動き出す可能性もある。
 ただ、非公式閣僚会合時の亀井大臣とフィシュラーEU農業担当委員との会談では、3分野(国内支持、関税引き下げ方式、輸出補助)のいずれについても米国とは見解に隔たりがあるとの認識で一致しており、日本は「EUとはUR方式を基本にまとめていこうと一致している。共同作業といっても道のりは遠い」(渡辺農水事務次官)と調整は簡単に進まないとの認識。引き続きEUと緊密に連携していく方針だが、8月11日からの事務レベル会合に米・EUの妥協案が示されるとの見方もあり大きなヤマ場となる。

◆UR方式 過半が支持表明

非公式閣僚会合にあわせてモントリオールで世界農業代表者フォーラムが開催された。「多様な農業の共存が必要」とする宣言を採択。記者会見するJA全中の宮田会長(左)
非公式閣僚会合にあわせてモントリオールで世界農業代表者フォーラムが開催された。「多様な農業の共存が必要」とする宣言を採択。記者会見するJA全中の宮田会長(左)

 日本とEUは関税引き下げ方式(市場アクセス分野)について品目ごとに削減幅に柔軟性を持たせるUR(ウルグアイ・ラウンド)方式を主張しているが、これまでにWTO加盟145か国の過半数を超える77か国が支持を表明している。
 今回の非公式閣僚会合で日本は過半数が支持しているUR方式以外に合意の途はないことを訴えた。
 また、米国やケアンズ諸国が主張する生産条件の格差を無視したハーモナイゼーション(平準化)による大幅で急激な関税引き下げでは、多くの国の農業が壊滅的になることなど従来どおりの主張をした。
 国内支持についても、各国の農業の実態や今後の情勢変化に対応できるよう柔軟性のある総合AMS(助成合計量)方式で現実的な削減幅とすることを主張。
 こうした主張のうえで、バランスのとれた現実的なモダリティ合意とするためには、関税の一律・大幅削減など過大な提案をしている米国やケアンズ諸国が現実的になることが不可欠だと訴えた。

◆妥協案 MA拡大の可能性も

 各国の主張を受けて、スパチャイ事務局は9月のメキシコ・カンクンでの閣僚会合まで時間がないことから、各国が柔軟性を示すべきだとし、市場アクセスについては米国・ケアンズが主張している関税一律削減方式のスイス・フォーミュラと日本・EUなどが主張しているUR方式との中間の妥協点案を模索する必要があると指摘した。
 そして事務レベルの会合で米国は市場アクセスについてハーモナイゼーションと柔軟性を組み合わせた新たな提案をし、EUからはUR方式の変形案が提案された。さらに、8月に向けて市場アクセスを含めた農業分野モダリティの共同ペーパーを作成するよう努力する意向が示された。

交渉の争点

◆日本政府 関税「平準化」は拒否

 米国の提案は、基本的には関税格差の平準化(ハーモナイゼーション)だが、いくつかの重要品目について削減幅を緩めることを認めるというもの。ただし、その関税率には100%〜200%といった上限を設定するという内容だとされている。日本の米は現在490%だがこの案では大幅削減になることは変わらない。
 さらに米国は、削減幅の緩和を認める代わりに、アクセス数量(関税割当)を拡大させるという提案もしている。すなわち、日本にとっては米のミニマムアクセス数量の拡大が求められることになりかねない。
 一方、EUの提案は基本はUR方式だが、重要品目について品目については最低削減率を15%より低くし、その一方でアクセス数量を拡大するという内容。平均削減率36%という考えは変わっていないという。
 ただ、亀井大臣は、10日の電話会談で、米を念頭にアクセス数量の「拡大は極めて困難な品目がある」と主張した。

◆各国が注視する米・EUの共同作業

WTO農業交渉 今後のスケジュール

 米国とEUが共同ペーパーを作成する意向を示したことについて渡辺好明農水事務次官は「カンクン閣僚会議を成功に導きたいとの意向から、歩み寄り、調整という空気が出てきた」と語ったが、「共同作業をするといっても立場は大きく離れている」と溝は依然深いと指摘。
 ハーモナイゼーションと柔軟性の確保という基本的な部分で両者の立場を変えたわけではなく「(妥協案づくりの)道のりは遠い」(渡辺次官)。亀井大臣も「ハーモナイゼーションという考え方は受け入れられない」と表明している。
 今後、EUがUR方式を主張するグループから離脱する可能性について渡辺次官は「その可能性はない。日本とEUはUR方式を基本線とすることで一致している。77か国が支持しておりそれを無視して変えることはない」としEUとの緊密な連携は変わることがないとして、「(両国の)作業状況を注視し、情報を整理する。必要な手だてを打つ時間はある」とし、実際に米国からの情報収集を行っているとする。
 前回のウルグアイ・ラウンドを決定づけたのは、米国・EUの2国間合意(ブレアハウス合意)だったことから、今回の動きを重ねて合わせてみる向きもあるが、「ブレアハウスとは違い、加盟国に向けて公開の場で共同作業に入ることを表明した」(渡辺次官)ことがまったく異なる。途上国が発言力を強めているのも前回とは違う。
 WTO農業交渉は、8月11日から事務レベルの交渉が行われる。その後、高級事務レベル協議があり、また、8月26、27日の一般理事会ではカンクンでの閣僚宣言案が検討される見込み。
 交渉は8月中下旬にヤマ場を迎えることになりそうだ。 (2003.8.12)



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