この国際シンポジウムは、日本の卸売市場システムから常に多くを学んでいる韓国と台湾から、逆にその優れた点を日本が学び取り、今後の卸売市場のあり方を考える上での参考にするため開かれたものであった。
シンポジウムでの韓国と台湾の報告では、それぞれの卸売市場流通の現状とともに、卸売市場システムの特徴点(日本との相違点)が明らかにされた。その中で日本側が特に注目すべき特徴点として、以下の3点が挙げられた。
その第1は、韓国、台湾とも、卸売業者の商取引手数料(情報交換費用、価格形成費用、代金決済費用等)と場内物流手数料(運搬費用、分荷費用、保管費用等)とが区分されていることである。
例えば韓国の可楽洞卸売市場の場合、公表されている商取引手数料は青果物で卸売額の4%であるが、さらに場内物流手数料として3〜6%ほどかかる仕組みになっている。ちなみに、日本の中央卸売市場の場合、両者は一括され、野菜で8.5%、果実で7%である。
第2の特徴点は、韓国、台湾とも、出荷者(生産者等)側が価格形成に関与できることである。
IT化の進んだ韓国では、出荷者がインターネットを通してリアルタイムでセリ価格を把握し、暴落時には売り止めを指示することができる。また、台湾では出荷者側が最低の成約価格を指定できると法律で認められている。もちろん、日本では予約相対取引のような例外的な値決め方法を除けば、出荷者が価格形成に関与することは困難である。
第3の特徴点は、卸売市場の種類(専門市場、総合市場)が日本と異なり、市場経由率の変化の方向も異なっていることである。
台湾では現在、大規模な卸売市場も青果市場や水産物市場と言った専門市場であるのに対し、韓国で最大の可楽洞卸売市場は青果物、水産物、食肉の生鮮3食品を取り扱う総合市場である。そして、市場経由率が台湾で低下傾向で推移し、韓国で逆に上昇傾向で推移している。なお、日本の中央卸売市場の多くは青果物と水産物の総合市場(最近は花卉部を置く総合市場が増えている)で、台湾と韓国の中間に位置しているものの、市場経由率は顕著な低下傾向にある。
◆相違点が示唆する卸売市場の今後のあり方
これらの韓・台の特徴点と日本との比較によって、日本側が大いに学ぶべきと指摘されたのは、次の3点であった。
1点目は、上記の第1の特徴点から理解できるように、今後のコスト削減を検討する際、商取引費用と物流費用とを区別すべきことである。
両費用の区別によって、特に物流費用の削減の重要性と容易性とが自ずから明らかになるが、その際のキー・ワードは「荷のユニット化」と「輸送の大型化」である。例えば荷をパレット単位にまとめてしまうと、場内でのトラックからの荷下ろしコストと仲卸店舗等への搬送コストが半分以下に削減できる可能性が高い。また、輸送を10t車から20tトレーラに変更すると、輸送費の半減によって産地側の利益を高められるだけでなく、場内での荷下ろし等の効率化をも促進するのである。
2点目は、第2の特徴点によって示唆されているのであるが、価格の安定化を実現するための方策である。
韓国と台湾では暴落を防ぐために出荷者(生産者等)による売り止めや最低価格指定が行われているが、このことは価格の安定化にとって卸売業者が日々の全入荷量を完売する方法が障害になっていることを意味している。現在、日本の卸売市場では価格の不安定さが大きな問題とされていることを考えると、社会的なニーズに応えるためにも卸売数量を調節できるような仕組み、例えば受託拒否や緊急輸入システム等を検討・実施する時期に来ているとみるべきである。
最後の3点目は、第3の特徴点から明らかなように、韓国のような総合市場化の推進である。
専門市場よりも総合市場の方が仕入れ業者にとって便利であることは言うまでもない。しかも、今日の日本の卸売市場のように加工青果物の増加によって市場経由率が低下しているのであれば、なおのこと加工品をも取り扱う方向での総合市場化を推進していかなければならないと判断するのが当然であろう。
(2003.10.16)