|
||||
検証・時の話題
|
|
グローバリゼーションの直撃受ける世界の農民 家族農業経営と農協に何が起きているか 村田 武 九州大学大学院農学研究院教授 |
先月、日本とメキシコの自由貿易協定(FTA)が基本合意に達し、「いよいよFTAが本格化する時代の到来だ」とするマスコミ論調がにぎやかだ。これは、昨年9月にメキシコのカンクンで開催された世界貿易機関(WTO)の第5回閣僚会議が、途上国グループの抵抗によって新ラウンド議長裁定案での合意に失敗したこともあって、「WTOでだめならFTAだ」とする動きがアメリカを先頭に高まっていることにもよる。 ◆メキシコや中国で進む 基礎食料の輸入依存 WTO自由貿易体制とFTAのもとで、国民経済規模が大きく、工業化も一定程度進んだ中進国で、基礎食料農産物、とくにトウモロコシなど穀物の輸入依存、とくにアメリカに対する輸入依存が強まっている。その代表がメキシコである。メキシコは、アメリカ・カナダとの北米自由貿易協定(NAFTA)(1994年発効)で、アメリカからの直接投資による経済成長をめざしたものの、アメリカのワシントンポスト紙が報道したように、「NAFTAは米国農民と競争できないメキシコ農民を破産させ、マキラドーラ(アメリカとメキシコ国境沿いの保税加工区)や工場労働者、最大規模の農場に恩恵を与えはしたが、すでに衰弱していた小農民をいっそう痛めつけることになった」。アメリカからのトウモロコシ輸入は、国内が干ばつで不作の年に輸入していた200万トンを大きく超えて、600万トン台になっている。国民の主食ともいえるトルティーヤは、国産伝統品種の白トウモロコシ粉が原料であった。ところが、ダンピング輸出されてくる安いアメリカ産黄色トウモロコシ(主として飼料用のデントコーン種)が混ぜられた安いトルティーヤがあふれるようになった。その影響で国産トウモロコシの価格が下がり、メキシコ農民は苦境に陥ったのである。 ◆サハラ以南のアフリカでは 貧困と飢餓がさらに深刻に さらにアフリカ諸国など周辺低開発国とよばれる国々は、深刻な飢餓問題を脱出できないでいる。世界食糧農業機関(FAO)が警鐘を鳴らし続けているように、飢餓は、リベリアやコートジボアール、コンゴなどにみられる内戦や、エリトリアやジンバブエなどの干ばつなど気象災害を直接の原因にしながらも、それにともなう住民の強制的移動、経済破綻、さらには部族間紛争や内戦による大量の難民の発生とも関わっている。21世紀の国際社会が、全力をあげて解決しなければならない問題である。 ◆米欧のダンピング輸出が もたらす「コーヒー危機」 メキシコや中国が穀物の輸入依存を強め、さらにはアフリカ諸国が食料援助から逃れられなくなっている原因はどこにあるのか。そのもっとも重大な原因が、米欧の過剰農産物のダンピング輸出競争、つまり輸出補助金による生産コスト以下での安値輸出による市場の奪い合いと、それがもたらしている国際穀物価格の長期低迷にあることはよく知られている。国際価格の低迷は、小麦やトウモロコシだけでなく、コメにもおよび、それが開発の遅れた途上国の国民食料農業に打撃を与えている。
国際コーヒー機関(ICO)によれば、世界のコーヒー豆供給量は需要量を1000万袋(60kg袋)は上回っており、コーヒー国際価格は1997年以降急激な下落に見舞われ、過去30年の最低水準、1ポンド(454g)当たり50セントにまで下がっている。ベトナムは、中部ダクラク高原がアジア最大のコーヒー産地となったが、このベトナムの小農民経営のコーヒー生産コストは世界でも最も低い水準にあるとみられるが、それでも農家からの買付け価格は生産コストの6割以下といわれる。中南米、アフリカを含めコーヒー農業が重要である途上国は40カ国を超え、周辺最貧国のなかには、コーヒーに輸出外貨獲得の半分以上を依存している国が少なくないのである。
ところが、自由貿易主義のWTOは、コーヒーの国際価格の低迷にも、コーヒー生産国の危機に対しても無策なのである。このような事態だからこそ、WTOに対して途上国の幻滅が広がっているのである。コーヒー豆の国際価格低迷にともなう生産国農民の惨状については、オックスファム・インターナショナル著(日本フェアトレード委員会訳・村田武監訳)『コーヒー危機・作られる貧困』(筑波書房、2003年刊)を参照されたい。 ◆世界で本格化する 反グローバリゼーションの動き この間において、多国籍企業の利益中心のグローバリゼーションと自由貿易一本槍のWTOに反対する非政府組織(NGO)の運動が世界的に成長している。「WTOから農業をはずせ」という声が世界の農民運動団体から上げられている。そして、ラテンアメリカを含むNGOの世界的な国際連帯運動が、ポルトアレグレの「世界社会フォーラム」運動にみられるように前進している。 ◆家族農業経営と 農業協同組合の危機が進む WTOとFTAの農産物自由貿易体制と、それを最大限に利用して利益を上げようとするアグリビジネス多国籍企業の支配力が高まるなかで、世界各地の農業および産地が、今や世界的な競争に巻き込まれている。 (2004.5.10)
|
特集企画 | 検証・時の話題 | 論説 | ニュース | アグリビジネス情報 | 新製品情報 | man・人・woman 催しもの | 人事速報 | 訃報 | シリーズ | コメ関連情報 | 農薬関連情報 |
||
社団法人 農協協会 | ||
|