今年の6月9日に改正卸売市場法が公布・施行された。今回の改正内容は多岐にわたるが、青果物産地の生産者や農協に今後、大きな影響を与えるであろう問題点に絞って、藤島廣二東京農大教授に検証していただいた。
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◆産地とJAが重視すべき改正点
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ふじしま・ひろじ
昭和24年埼玉県生まれ。昭和47年北海道大学農学部農業経済学科卒業。農学博士。平成8年東京農業大学教授、10年同大学院農学研究科農業経済学専攻食品産業経済論特論担当教授(現在)、12年同大学国際食料情報学部食料環境経済学科長。日本農業経済学会員、日本流通学会員、食料・農業・農村政策審議会臨時委員。 |
本年(04年)6月3日、卸売市場法の改正案が国会を通過し、同9日に新卸売市場法が公布・施行された。
今回の改正は、品質管理の高度化の推進を措置したこと、買付集荷にかかわる規制をすべて廃止したこと、中央卸売市場の運営の広域化または地方卸売市場への転換を容易にしたこと、仲卸業者の業務運営の健全化を図るべく措置したこと、等々、かなり多岐にわたっているといえる。
しかし、産地側が特に重視すべき改正点となると、(1)委託手数料の弾力化、(2)買付集荷の全面的自由化、(3)商物一致規制の緩和、(4)中央卸売市場から地方卸売市場への転換、の4点であろう。
そこで以下では、この4点の内容を具体的に説明するとともに、それぞれの改正が産地にどのような影響を及ぼすかについて私見を述べることにしたい。
◆多様化する委託手数料率で販売収入が変動の懸念も
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東京都中央卸売市場(大田市場のセリ風景) |
最初の「委託手数料の弾力化」については、法律文の改正内容を見ると、旧法(6月9日以前の卸売市場法)の第41条「卸売業者は、中央卸売市場における卸売のための販売の委託の引受について、その委託者から業務規程で定める委託手数料以外の報償を受けてはならない」が削除されたものの、新法(6月9日以後の卸売市場法)では「委託手数料に関する事項にあっては、農林水産省令で定める」(第9条第2項第4号)と記されただけにすぎず、大きな変更があったとは言い難い。しかし、法律の改正案の作成過程での卸売業界等との話し合い等によって、09年4月からの「委託手数料の弾力化」の実施は既成事実になっているとみて間違いない。
この「弾力化」とは、中央卸売市場の委託手数料率を取扱品目ごとに全国一律とする農林水産省の指導を、09年4月から止めるということである。したがって、同年4月1日から即座に手数料率が中央卸売市場ごとに異なったり、あるいは同一の中央卸売市場において複数の委託手数料率が実施されるとは限らない。しかし、手数料率を決めるのは卸売業者か開設者となるため、手数料率が中央卸売市場間で異なる等、多様化しても何ら不思議ではない。
この手数料率の多様化は卸売業者や産地にとって選択幅の拡大を意味する一方、厳しさも意味するものといえる。特に産地にとってみれば、手数料率が全国一律である限り、自らの出荷物をもっとも高く販売する卸売市場(または卸売業者)に出荷することだけを心がければよいのに対し、手数料率が多様化するとなると、少なくとも販売価格と手数料率の2変数、あるいはさらに出荷奨励金も加えた3変数から成る方程式を一度に解かねばならず、しかもその解答次第で収入が大きく変わるかも知れないのである。
◆卸売業者の利益は買付価格と卸売価格の利鞘
2番目の買付集荷については、旧法の第38条「自己の計算による卸売の禁止」が新法で全面的に削除され、規制がすべて廃止された。すなわち、産地はどのような種類の青果物(肉、水産物、花)であれ、卸売業者に売り渡すことができ、逆に卸売業者はいかなる青果物(肉、水産物、花)をも買い付けることができるようになったのである。
この「買付集荷の自由化」は産地にとって有利に作用する面もあるが、もちろんそれだけではない。とりわけ注意しなければならないことは、卸売業者にとって買付集荷の収益は買い入れ価格(買付価格、仕入れ原価)と卸売価格(売価)との差額だという点である。換言すると、委託集荷の場合、手数料率が事前に決まっているため、卸売業者は高く売れば売れるほど収益増となり、産地(出荷者)と利害が一致する可能性が高いのに対し、買付集荷の場合は買い入れ価格を引き下げることも卸売業者の収益増となることから、産地と利害が反する場合も少なくないということである。
なお、現在、買付集荷の利益率は委託手数料率を下回っているが、それは卸売業者が委託集荷を主とし、不足分の集荷に際して、それゆえ一部分の集荷だけについて買付集荷を利用しているからである。今後、買付集荷量が増え、委託集荷量に匹敵するようになれば、買付集荷の利益率も委託手数料率とさほど違わないものになると考えておくべきであろう。
◆増える可能性が高い先渡し取引
3番目の「商物一致規制の緩和」に関する条文は、旧法、新法とも39条で、新法において新たに「電子情報処理組織を使用する取引方法その他の情報通信の技術を利用する取引方法により生鮮食料品等の卸売をする(場合)」が加わった。すなわち、従来も開設区域内で開設者が指定した場所または卸売業者が申請した場所に置かれた荷については商物分離取引(卸売市場内に現物を持ち込む必要がない取引)が認められていたが、今後はさらに電子商取引の対象となる荷についても商物分離取引が認められることになったのである。
このように電子商取引を取り込んだからといって、現物を卸売市場内に持ち込まないという意味での商物分離取引が増えるか否かについては定かではない。しかし、電子商取引が卸売市場法の条文の中で認められたことによって、またITの全国的普及とも相まって、同取引が今後急速に増えることは間違いないと思われる。特に先渡し取引として、すなわち現物を卸売市場内に持ち込むとしても、商取引の成立と現物の受け渡しとの間にタイムラグがある商物分離取引として、今後急伸すると予想される。なぜならば、近年、業務用需要者やスーパー等の仕入側において価格安定志向が一段と強まっているが、先渡し取引はその安定化にもっとも適した取引方法とみられるからである。
これからは産地側も電子商取引に注目し、その動向を把握するとともに、同取引にいつでも対応できるよう態勢を強化すべきであろう。
◆民営化による「委託手数料の弾力化」
最後の4つ目に挙げた「中央卸売市場から地方卸売市場への転換」は、旧法では全く触れていなかったにもかかわらず、新法では第5条、第13条の5、第13条の6の3つの条文で規定することになったものである。特に第13条の5と第13条の6は、この「転換」を進めるためにまるまる新たに作成された条文であり、農林水産省がいかに力を入れているかをうかがうことができる。
この「転換」とは公営卸売市場である中央卸売市場を民営卸売市場である地方卸売市場に変える(変えたい)ということである。なぜ変える(変えたい)のかというと、主な理由の一つは中央卸売市場の運営が赤字続きのため、開設者である地方自治体にとって重荷になっていることである。さらに、近年、郵政民営化等にみられるように「民営化への流れ」が社会的に強まっていることも、もうひとつの主な理由である。
が、うがった見方をすると、「転換」による民営化が「委託手数料の弾力化」につながることも主要な理由の一つであるように思われる。というのは、地方卸売市場の場合、元々手数料率を全国一律にするような規制はなく、それゆえ現在でも手数料率が卸売市場間で異なるだけでなく、複数の手数料率を定めている卸売市場も存在するからである。
いずれにしても、民営化の善し悪しを一概に判断することはできないものの、09年以前に1市場であれ、2市場であれ、「転換」が実現することになると、「中央卸売市場の手数料の弾力化」が始まる以前に、「民営化による手数料の弾力化」が進展することになろう。 (2004.8.5)
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